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【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた
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しおりを挟む「マーティンさん。ボスモンスターを倒すことは出来ませんが、後ろにいる彼らにギルドメンバーを呼びに行かせることなら出来ます」
俺は三つ首の攻撃を受け止めるマーティンの横に並んで、彼に話しかけた。
「危ねえから下がってろ! ……今、なんつった?」
「新人たちを無傷でこの場から逃がす方法が分かりました。ただマーティンさんは無傷とはいきませんが……」
「んなもんどうでもいい! 仲間を救う方法があるなら教えてくれ!」
俺はマーティンに、因果の世界で見てきた戦闘方法を伝えた。
マーティンはそんなに上手くいくのかと懐疑的だったが、他に方法もないため俺の案に乗ってくれた。
「みんな、よく聞けえーっ!」
マーティンはボスモンスターから視線を外さずに、後ろで戦況を見守っている新人たちに向かって声を張り上げた。
「俺が岩を砕いた瞬間に走り出して、ここから逃げるんだ。そして他の探索チームのメンバーをここに呼んで来てくれ! ルースは新人たちがパニックを起こさないように率いてくれ」
「……無理はしないでくださいね」
ルースが新人たちに逃げ道の指示を始めた。
きっと彼に任せておけば、大きな問題は起こらないだろう。
「ショーンも準備は良いか? 力いっぱいいくから、目に砂埃が入るのは覚悟してくれよ」
俺はマーティンの言葉に頷きつつ、呪いのゴーグルを装着した。
「問題ありません。ゴーグルがあるので」
「さっそく呪いのゴーグルを装着する機会がやってくるとはな。人生ってのは分からねえもんだ」
言いながら、マーティンは腕に力を溜め始めた。
マーティンが岩壁に向かって拳を繰り出した瞬間に、俺はその場から跳んだ。
マーティンが岩壁を砕いたことで、この場一帯に砂埃が舞った。
砕けた石の欠片も飛んでくる。
ゴーグルを装着した俺は、石も砂埃も気にせずにボスモンスターに向かっていった。
一方でボスモンスターは、一つの首をマーティンへの攻撃に使い、一つの首を逃げた仲間たちへの攻撃に使い、そしてもう一つの首は目に砂埃が入ったらしく硬直していた。
俺は迷わず、逃げた仲間たちを攻撃しようとしている首に狙いを定めた。
砂埃に紛れながらボスモンスターに近付き、目に短剣を突き立てた。
目を貫かれたボスモンスターは暴れたが、首が三つあるためまだ目は五つも残っている。
しかしボスモンスターの頭から、逃げた仲間を追う考えは消え失せたようだった。
片目を潰された首が執拗に俺を追ってくる。
俺は攻撃に関しては大したことは出来ないが、逃げることなら得意だ。
片目の首から繰り出される攻撃をひょいひょいと避け続けた。
一方で仲間を逃がせたため、マーティンは防戦から攻撃に転じていた。
一つの首と互角にやり合っている。
マーティンも首も、お互いに怪我を負わせているようだ。
このままの状態であれば、応援がやってくるまで凌げるだろう。
問題は、目に砂埃の入った首がいつ回復するかだ。
あの首が回復したら、状況はこちらが不利になってしまう。
「早く応援が来てくれるといいけど」
因果の世界で俺が掴んだ糸に繋がる未来は、マーティンは怪我を負うものの仲間は全員無傷でこの場から逃げる、というものだった。
つまりは今の状況。
このあと何が起こるのかまでは分からない。
「ギルドメンバーがマーティンさんを見捨てることはないと思うけど、問題はいつ来てくれるのか……って、もう!?」
早くも状況が変わった。
…………悪い方に。
応援が駆け付ける前に、硬直していた首が動き始めたのだ。
その首は、自身の目を潰した俺にヘイトを向けており。
「二対一は無理、ってか死ぬ!」
俺に、ボスモンスターの鋭い牙が襲いかかった。
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