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【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた
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しおりを挟む俺がセクハラ女に触られている間に、テーブルには料理が運ばれてきた。
料理と一緒に、持ち帰り用の箱も用意されている。
店員たちは、俺たちがこの場でゴング豚の丸焼きを食べきれるとは思わなかったのだろう。
「いただきまーす、なのじゃ」
魔王リディアは俺のことを放置して、フォークとナイフを手に取った。
「ちょっとリディアさん!? 食べてないで助けてくださいよ!?」
「悪いのう、ジョーン。早く食べぬとせっかくのご当地飯が冷めてしまうのじゃ」
大柄な男も魔王リディアと同じ考えのようで、俺のことを助けようとはしてくれなかった。
俺も熱々のゴング豚が食べたいのに……!
「あ、私のことはお気になさらず。熱いうちに食べてね」
セクハラ女が俺のふくらはぎをさすりながら食事を勧めてきた。
そんな無茶苦茶な。
* * *
説得をしてセクハラ女に帰ってもらった後、俺もゴング豚の丸焼きを食べ始めた。
他の町で食べた豚肉と違い、肉が締まっている。
とても美味しい。
これならいくらでも食べられそうだ。
「……まだ食うのか」
「ショーンは大食いなんじゃよ」
「大食いにもほどがあるだろ。身体のどこに収まってるんだ?」
大柄な男はドン引きしているが、俺の食欲は留まるところを知らない。
ついにはゴング豚の丸焼きはテーブルの上から消え去ってしまった。
その瞬間、レストランのあちらこちらから拍手が起こった。
いつのまにか俺は、フードファイターだと思われていたようだ。
「君は武闘大会よりも大食い大会に出た方がよさそうだな。きっと敵なしだ」
「そうですかね? じゃあ大食い大会を見つけたら出てみることにします」
しばらくすると店員がやってきて、空になった皿を片付けてくれた。
広くなってテーブルに、大柄な男が数枚の書類を並べていく。
「腹もいっぱいになったところで、ダンジョンの話をするか」
「その前に、俺はあなたが誰なのかも知らないのですが……」
「おや、言ってなかったか? 俺はマーティン。『鋼鉄の筋肉』のギルド長だ」
大柄な男は『鋼鉄の筋肉』の中で偉い立場だとは思っていたが、まさかギルド長だったとは。
…………ん? どうしてギルド長がここにいるのだろう。
「ギルド長が武闘大会で五位の俺の元に来ていいんですか? もっと上位の人のところに行った方が良いような気がしますが」
「他の参加者は賞品だけ貰ってトンずらしそうな様子がなかったから、別の幹部メンバーに任せた」
「俺たちはトンずらしそうに見えたんですか」
「まあな!」
さすがに賞品を貰ってしまった以上、約束を破るつもりはなかった。
ただ、ダンジョン内では後方でサボろうとは思っていたが。
だってどう考えても『鋼鉄の筋肉』のメンバーは俺よりも強い。
俺が頑張る必要はないはずだ。
「捕まってしまったのう、ショーンよ」
魔王リディアはものすごく他人事だ。
「捕まったのはリディアさんもでしょう?」
「妾は女ゆえ『鋼鉄の筋肉』と一緒にダンジョンへ潜る資格が無いのじゃ。つまりはタダ飯じゃ。ワッハッハ」
やられた。
思えば魔王リディアは、武闘大会にも出ずダンジョンにも潜らずにご当地飯にありついている。
「そんな顔をするな、ショーンよ。妾が食べたご当地飯の量は、ショーンの十分の一に過ぎぬ。言わばショーンのついでに食事を摂ったまでじゃ」
そうだっただろうか。
ご当地飯を食べたいと散々駄々をこねたのは魔王リディアの方だった気がするが……しかし事実として俺は魔王リディアよりもずっと多くのゴング豚を食べている。
働くのは俺の方だという意見も、一理あるかもしれない。
「その上、呪いのアイテムを欲しているのはショーンじゃからのう。妾はダンジョンに潜らずとも一向に構わぬ。であれば、妾ではなくお主が働くのは当然であろう」
「確かに……」
……って、あれ。
一瞬納得しかけたが、俺と魔王リディアは、呪いのアイテム探しを手伝う代わりに一緒に旅をするという取引をしていたはずだ。
なんだか上手く誤魔化された気分だ。
「細かいことを気にする男はモテない……厄介な女にしかモテないぞ?」
言いながら魔王リディアが、とあるテーブルを見つめた。
そこにはジュースを飲みながら俺のことを凝視する、先程のセクハラ女がいた。
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