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【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた
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しおりを挟む「次の試合は一対一だから、勝つためには…………ん?」
トーナメント戦でも勝たなければいけない気がしていたが、そうではないことに気付いた。
魔王リディアが欲しがっているのは、レストランの食事券。
そしてその食事券は、第五位の賞品。
トーナメント戦で一回でも勝つと、自動的に第四位までに入ることになる。
つまり。
「大量得点を獲得しつつ、一回戦で負ける必要があるってこと?」
何とも厄介な条件だ。
得点が高い人が勝つルールなのに、第五位になるためには一回戦負けの参加者の中で得点一位にならなければいけない。
「やっぱり賞品狙いで参加する大会じゃなかったんだ」
賞品のためにわざと負けるなんて、他の参加者に失礼過ぎる。
……まともに闘っても勝てないとは思うが。
だってトーナメント戦に進んだ人物ということは、対戦相手はスポーツマン素手マッチョのような強者だ。
勝つつもりで闘って、やっとわずかな得点が入るレベルかもしれない。
「正攻法じゃ、きっと歯が立たない。作戦を練らないと」
とはいえ対戦相手は予選の試合を観ているだろうから、同じ目隠し作戦は通用しない。
別の作戦を考えないと。
* * *
俺の試合はすぐにやってきた。
まず試合前に武器庫で武器を選ぶ。
お互いにどんな武器を選んだか分からないようにするため、武器庫に入る時間は対戦相手とずらされている。
俺は、短剣と盾と装飾品を選んだ。
ちなみに武器は木で作られているが、盾は鉄で出来ている。
盾が武器のように木で出来ていたら、マッチョに破壊されてしまって盾の役割を果たせないからだろう。
一方で装飾品は木や布、貝で出来ているものが多い。
こちらは固い素材で作ると、武器として代用されてしまうからだろう。
武器を選びリングに向かうと、対戦相手はすでにリング上にいた。
対戦相手は、もちろんマッチョだ。
今日一日で一生分のマッチョを見た気がする。
試合開始の合図とともに、対戦相手が間合いを詰めてきた。
俺は後ろに跳んで、対戦相手の間合いに入らないように注意する。
残念なことに、対戦相手の武器は槍だった。
短剣の俺と比べてかなり間合いが広い。
対戦相手は狙いを定めると、俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。
相手の槍攻撃を、持っていた盾で受け止める。
……が、俺は盾ごとリングの端まで飛ばされた。
「うわあ、すごい威力。いくら木の槍でも、盾無しで食らったらヤバそう」
俺に向かって対戦相手が何かを言っていたが、気にしている場合ではない。
闘い方を考えないと、致命傷を食らってしまう。
俺がマッチョだった場合は筋肉で致命傷を防げるのかもしれないが、この薄い身体であの槍攻撃を食らったら、きっと槍が身体を貫通してしまう。
「この場合は近距離戦に持ち込んだ方が有利かな……いや、素手でもマッチョの拳は痛そうだよなあ」
それでも槍で攻撃されるよりはマシなはずだ。
俺がそんなことを考えていると、対戦相手は槍を構えたまま、また間合いを詰めてきた。
俺は短剣を手放して素早く右手をポケットに入れると、予選の試合で拾っておいた弓矢の矢じりを地面に投げた。
即席まきびし作戦だ。
武器庫にまきびしがなかったから、予選で折れた矢じりを拾っておいたのだ。
この矢じりは、自前の武器ではなく元は武器庫の武器だから、ルール違反には当たらないはずだ。
対戦相手は矢じりを踏んでしまったらしく、痛そうに顔を歪めた。
大したダメージは入っていないだろうが、これで迂闊には俺に近づけないはずだ。
「あーあ、短剣を手放しちゃった。あとでリディアさんに怒られるかな?」
前に巨大グモと戦った際、ヴァネッサを受け止めるために短剣を手放して注意されたことを思い出し、急いで短剣を拾った。
そして大声で対戦相手に告げる。
「矢じりまきびしは、まだまだありますよ。俺に近付く際は気を付けてくださいね」
実際にはもう無いけど。
しかし、これがハッタリかどうかなんて、相手には分からないはずだ。
ハッタリが通用したらしく、対戦相手は矢じりまきびしに警戒しているようだ。
ゆっくりとリングの真ん中へと進み…………あ、まずい。
間合いの広い槍は、リングの真ん中で構えられると厄介だ。
「こうなったら手段を選んではいられないか」
物理的な力では、俺はこのマッチョには敵わないだろう。
だから、マッチョにも鍛えられないところを狙う。
俺は首に下げていた巻貝のネックレスを手に取った。
そして短剣を持つ右手に盾を持ち替える。
「先に謝っておきますね。みなさん、ごめんなさい」
そう言うなり、俺はネックレスに付けられていた巻貝の先端を盾に当てた。
そのまま盾の上を滑らせる。
キイィィィーーーーーッ。
対戦相手はたまらず両手で耳を塞いだ。
いくらマッチョでも、鼓膜までは鍛えられない。
一方で俺は、試合の前に耳の中に湿らせた布を入れておいた。
だから何も対策をしていない対戦相手と比べて、俺の耳に嫌な音は届いていない。
両耳を塞いでいるため、対戦相手には槍で攻撃をする余裕は無いようだ。
この隙を見逃さず、俺は一気に対戦相手との距離を詰めた。
間近まで来たところで、盾を手放して短剣で対戦相手の胸元を刺した。
「…………嘘だろ?」
短剣は筋肉に阻まれて、小さな傷を作るだけに終わった。
逆に嫌な音がしなくなったことで耳から手を離した対戦相手が、俺に向かって拳を繰り出した。
至近距離から重そうな拳が飛んでくる。
これは…………ヤバイ。
俺はここで、死ぬかもしれない。
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