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【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた
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武闘大会の参加受付へ行くと、受付をしていたのはマッチョだった。
受付以外にもスタッフらしき人物が何人かいるが、もれなく筋骨隆々だ。
「この大会は当日参加も可能……なんですよね?」
「お。兄ちゃんも参加希望か?」
受付で質問をすると、近くにいたひときわ大柄な男が話しかけてきた。
俺が言葉を発するよりも先に、受付の男が大柄な男に一礼をした。
受付の男の反応から考えて、大柄な男はお偉いさんか何かなのだろう。
「はい。今からでも参加できますか?」
「参加者が増えるのはこちらとしても大歓迎だ。ほら、申込書だ」
大柄な男は受付に置いてある紙を一枚取って俺に渡し、ついでに俺の身体をじろじろと見た。
言いたいことは分かる。
「筋肉自慢の参加者たちを見て、細い兄ちゃんが参加を決めるとは驚きだな」
「すみません。身の程知らずで」
「違えよ。根性があるって言いたかったんだ。そういう奴は大歓迎だぜ」
大柄な男は豪快に笑いながら俺の背中を叩いてきた。
激励のつもりなのだろうが、結構痛い。
「書けたか? 兄ちゃんはショーンって言うのか。頑張れよ、ショーン」
あっ。
大柄な男に気を取られて、つい本名を書いてしまった。
……まあ、名前だけで身バレはしないだろう。たぶん。
念のため、先程よりも胸を張ってワイルド感を演出しておいた。
「素手で闘うのか? それとも武器?」
「短剣です……って、あれ。武器の持ち込みは禁止なんですよね?」
「そうだ。代わりに武器の貸し出しをしてるぜ。必要なら試合前にあそこから選べ」
男の指し示す先を見ると、様々な武器の置かれた一角が目に入った。
近づいて武器を確認してみる。
いつも使っているのと同じような短剣も準備されているようだ。
ただし。
「武器はすべて木製なんですね」
「参加者に大怪我をされちゃ困るからな。回復要員の僧侶も控えてるぞ」
なるほど。
相手が死ぬまで闘う武闘大会も多いが、この大会はそういった類のものではないのだろう。
少し安心した。
「あっ、魔法が禁止なのもそれが理由ですか? 大怪我をしないように……」
「いいや。魔法を使わないのは運営ギルドのポリシーみてえなもんだ。なんたって武闘大会を主催してるのは、魔法使い無しで構成されたギルド『鋼鉄の筋肉』だからな」
ギルド名が絶妙にダサい。
ネタではなく本気で考えて命名していそうなところが、特に。
「魔法使いを入れないなんて珍しいギルドですね……さすがに僧侶はいますよね?」
「いるぜ。回復するよりも杖で敵を殴る方が得意な僧侶だがな」
男が名前を呼びつつ手を振ると、一人のこれまた筋骨隆々の男が手を振り返した。
まさか、彼が僧侶?
僧侶と聞いて思い描く姿とはあまりにも離れすぎている。
「この大会で回復をするのも『鋼鉄の筋肉』の僧侶のあいつだ」
「あの方、僧侶だったんですね。てっきり武闘大会の参加者かと思いました」
「あいつなら大会に出てもいい成績を残すだろうな」
やっぱり強いんだ……。
勇者パーティーの僧侶が身近な例だったため面食らってしまったが、僧侶であろうと強いに越したことはない。
彼は、敵と戦いつつ回復もする、好戦的なタイプの僧侶なのかもしれない。
それにしても、どこを見ても筋肉だ。
参加者だけではなく、スタッフも全員筋肉。
しかも男ばかりだから余計にむさくるしい。
「そういえば、武闘大会に参加できるのが男だけなのも運営ギルドのポリシーですか?」
「ああ、そうだ。『鋼鉄の筋肉』は男だけで構成されたギルドだ。女は守るべき対象だから、危険な場所には近づかせたくねえんだ」
今のところ判明している『鋼鉄の筋肉』のメンバーは、受付の男とムキムキの僧侶、あとたぶんこの大柄な男もメンバーだろう。
正直なところ、男しか所属できないという縛りが無くても、女冒険者は入ってくれないと思う。
四六時中、筋肉に囲まれて冒険をするのは、俺が女ならちょっと嫌だ。
「女を入れないってのは前時代的と言われることもあるが、一つくらいこういうギルドがあってもいいだろ?」
「あはは、最近は男女混合のギルドが増えましたからね。一昔前までは女冒険者が少なかったから、男だけのギルドが多かったですが。ここ数十年でだいぶ変わりましたよね」
「よく知ってるな、兄ちゃん……って、マズい!」
男は受付の前に置かれた時計を見ると、あからさまに慌て始めた。
「俺、この大会の実況解説をすることになってんだ」
「お忙しいのに、いろいろと教えて下さってありがとうございました」
「じゃあ頑張れよ。入賞したらよろしくな!」
男はそう言い残し、スタッフたちの元へと消えていった。
「……よろしくな?」
受付以外にもスタッフらしき人物が何人かいるが、もれなく筋骨隆々だ。
「この大会は当日参加も可能……なんですよね?」
「お。兄ちゃんも参加希望か?」
受付で質問をすると、近くにいたひときわ大柄な男が話しかけてきた。
俺が言葉を発するよりも先に、受付の男が大柄な男に一礼をした。
受付の男の反応から考えて、大柄な男はお偉いさんか何かなのだろう。
「はい。今からでも参加できますか?」
「参加者が増えるのはこちらとしても大歓迎だ。ほら、申込書だ」
大柄な男は受付に置いてある紙を一枚取って俺に渡し、ついでに俺の身体をじろじろと見た。
言いたいことは分かる。
「筋肉自慢の参加者たちを見て、細い兄ちゃんが参加を決めるとは驚きだな」
「すみません。身の程知らずで」
「違えよ。根性があるって言いたかったんだ。そういう奴は大歓迎だぜ」
大柄な男は豪快に笑いながら俺の背中を叩いてきた。
激励のつもりなのだろうが、結構痛い。
「書けたか? 兄ちゃんはショーンって言うのか。頑張れよ、ショーン」
あっ。
大柄な男に気を取られて、つい本名を書いてしまった。
……まあ、名前だけで身バレはしないだろう。たぶん。
念のため、先程よりも胸を張ってワイルド感を演出しておいた。
「素手で闘うのか? それとも武器?」
「短剣です……って、あれ。武器の持ち込みは禁止なんですよね?」
「そうだ。代わりに武器の貸し出しをしてるぜ。必要なら試合前にあそこから選べ」
男の指し示す先を見ると、様々な武器の置かれた一角が目に入った。
近づいて武器を確認してみる。
いつも使っているのと同じような短剣も準備されているようだ。
ただし。
「武器はすべて木製なんですね」
「参加者に大怪我をされちゃ困るからな。回復要員の僧侶も控えてるぞ」
なるほど。
相手が死ぬまで闘う武闘大会も多いが、この大会はそういった類のものではないのだろう。
少し安心した。
「あっ、魔法が禁止なのもそれが理由ですか? 大怪我をしないように……」
「いいや。魔法を使わないのは運営ギルドのポリシーみてえなもんだ。なんたって武闘大会を主催してるのは、魔法使い無しで構成されたギルド『鋼鉄の筋肉』だからな」
ギルド名が絶妙にダサい。
ネタではなく本気で考えて命名していそうなところが、特に。
「魔法使いを入れないなんて珍しいギルドですね……さすがに僧侶はいますよね?」
「いるぜ。回復するよりも杖で敵を殴る方が得意な僧侶だがな」
男が名前を呼びつつ手を振ると、一人のこれまた筋骨隆々の男が手を振り返した。
まさか、彼が僧侶?
僧侶と聞いて思い描く姿とはあまりにも離れすぎている。
「この大会で回復をするのも『鋼鉄の筋肉』の僧侶のあいつだ」
「あの方、僧侶だったんですね。てっきり武闘大会の参加者かと思いました」
「あいつなら大会に出てもいい成績を残すだろうな」
やっぱり強いんだ……。
勇者パーティーの僧侶が身近な例だったため面食らってしまったが、僧侶であろうと強いに越したことはない。
彼は、敵と戦いつつ回復もする、好戦的なタイプの僧侶なのかもしれない。
それにしても、どこを見ても筋肉だ。
参加者だけではなく、スタッフも全員筋肉。
しかも男ばかりだから余計にむさくるしい。
「そういえば、武闘大会に参加できるのが男だけなのも運営ギルドのポリシーですか?」
「ああ、そうだ。『鋼鉄の筋肉』は男だけで構成されたギルドだ。女は守るべき対象だから、危険な場所には近づかせたくねえんだ」
今のところ判明している『鋼鉄の筋肉』のメンバーは、受付の男とムキムキの僧侶、あとたぶんこの大柄な男もメンバーだろう。
正直なところ、男しか所属できないという縛りが無くても、女冒険者は入ってくれないと思う。
四六時中、筋肉に囲まれて冒険をするのは、俺が女ならちょっと嫌だ。
「女を入れないってのは前時代的と言われることもあるが、一つくらいこういうギルドがあってもいいだろ?」
「あはは、最近は男女混合のギルドが増えましたからね。一昔前までは女冒険者が少なかったから、男だけのギルドが多かったですが。ここ数十年でだいぶ変わりましたよね」
「よく知ってるな、兄ちゃん……って、マズい!」
男は受付の前に置かれた時計を見ると、あからさまに慌て始めた。
「俺、この大会の実況解説をすることになってんだ」
「お忙しいのに、いろいろと教えて下さってありがとうございました」
「じゃあ頑張れよ。入賞したらよろしくな!」
男はそう言い残し、スタッフたちの元へと消えていった。
「……よろしくな?」
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