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【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた
●62 side ドロシー
しおりを挟むそれは前触れもなくある日突然やってきた。
魔物の群れが村を襲ったのだ。
若い男を中心とした村人たちは、斧やくわを持って魔物に応戦した。
その間、女と子どもは家の中で魔物に見つからないように隠れていた。
「怖い……怖いよ……誰か助けて……」
この頃、村には私の他に子どもはいなかった。
一人いた赤ん坊は、隣の家の奥さんが抱きかかえて一緒に隠れているようだった。家の外から泣き声が聞こえてくる。
「戦うなんて無理……だって、怖い……」
兄に力を絶賛された私は、しかし精神は子どもだった。
村人たちを襲う魔物が恐ろしくて、力を使うどころではなかった。
ガタガタ震える身体を抱きしめて目を瞑っていることが精一杯だったのだ。
「この野郎! 家に入るな!」
そのとき、家の外で兄の怒鳴り声が聞こえた。
次に何かが破壊される大きな音。
すぐにいくつもの足音が響いてきた。
「出て行きなさい!」
私は隠れていたベッドの布団を少しずらして様子を見た。
するとテーブルの下に隠れていたはずの母が、箒を振り回して魔物と戦っていた。
父と兄は家の中にこれ以上魔物が入らないように玄関で応戦している。
玄関の扉は魔物によって壊されていた。
「お母さん!?」
箒で戦っていた母から鮮血が吹きあがった。
急いで父が母に駆け寄る。
父がいなくなったことで、玄関からは別の魔物が家の中に入ってきた。
兄も応戦しているが、一人では魔物の群れを止められるわけもなかった。
一匹、また一匹と、魔物が家の中に入ってくる。
「私が……みんなを守らないと!」
私は意を決してベッドから飛び出した。
そして息絶えた母に近付き、契約を結んだ。
そのとき温かいものが身体に降りかかった。
父が私を守って、魔物の攻撃を代わりに受けてくれたのだ。
「お父さん……」
母に続き父も目の前で殺された。
ショックで目の間が暗くなりかけたが、魔物は待ってはくれない。
母を操り、魔物を牽制する。
その間に父とも契約を結び、父と母の二人で魔物と戦った。
いくら攻撃を受けてもひるまずに向かっていく二人によって、家に入った魔物を退治することが出来た。
今度は倒れた魔物と契約を結び、魔物も私の手駒にする。
「私が、頑張らなくちゃ……」
ふと顔を上げると、玄関で応戦していた兄が倒れるところだった。
すぐに操っている二人と一匹で、玄関にいた魔物を退治する。
「……ドロシー、無事か……?」
玄関へ行くと、明らかに無事ではない兄が、か細い声を出した。
「お兄ちゃん、死なないで」
「はは……それは、無理な注文だ……」
兄の胸元からはドクドクと真っ赤な血が流れている。
もう助からないだろう。
「俺が死んだら……俺のことも操って……村を守ってくれ……」
「お兄ちゃん、いかないで」
「ドロシー……村を、頼んだよ……」
泣きながら兄とも契約を結んだ。
契約……できてしまった。
つまり兄は、死んだのだ。
「ねえ。私は、酷いことをしているの?」
私の質問に答える者はいない。
この家で生きているのは、私だけだから。
「家族の死体を操って魔物と戦わせて。それって酷いこと?」
魔物の攻撃によって傷の増えていく家族を、泣きながら操る。
「そんなことない、よね? 酷いことじゃない、よね?」
いくら自分に言い聞かせても、一向に涙は止まらない。
「だれか違うって言って」
家族を弔うこともせずに、私は魔物と戦い続けている。
家族を使って。
「私は村を守りたいから、みんなを操って戦わせてるの。みんなを守るために、私はネクロマンサーとして戦ってるの」
自分に言い聞かせるように、何度も繰り返す。
「みんなを守りたいから……」
私はついに我慢ができなくなって、泣き崩れた。
「もし私が最初から怖がらずに戦っていたら、もっと犠牲者は少なかった?」
もしかすると母は死ななかった?
父も死ななかった?
「私が怖がって隠れていたせいで、みんな死んじゃったの?」
兄は、私が臆病だったせいで死んだの?
「ごめんなさい。でも、怖かったの……」
謝って済む問題ではない。
「魔物が襲ってきて、恐ろしくて……ごめんなさい……」
謝罪なんて意味がない。
みんな、死んでしまったから。
「私が村のみんなを守らないといけないのに……」
守れなかった。
だから父も母も兄も死んだ。
「私が……私が守らないと……」
私はふらふらと立ち上がり、町を歩き出した。
道すがら、人間も動物も魔物も関係なく転がる死体と契約を結んでは手駒を増やしながら。
「でも、それなら……」
私は呆然としながら村を歩き回り、次々と魔物を退治していった。
「それなら……私のことは、誰が守ってくれるの?」
気付いたときには、村には誰もいなくなっていた。
「誰か助けて。私を守って」
村にいるのは、全員が私の契約者だ。
「お願い。私を守って」
つまり、全員が死者だ。
「ここから連れ出して」
私を助けてくれる者は誰もいない。
もう村には私以外に生存者はいない。
「誰か、助けて」
虚空に向かって伸ばした手は、誰にも握られることはない。
「……私を守ってくれるヒーローなんて、いないんだ」
それなら…………こんな世界は捨ててしまおう。
村人全員が幸せに暮らす世界で生きよう。
幸せな世界を、私が作ろう。
誰も助けてくれないなら、悲劇の起こらない平穏な世界で生きればいいだけだ。
蜃気楼のような夢の世界で。
「助けに来たわ!」
ずっと求めていたその言葉で、私は現実に引き戻された。
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