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【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた
●60 side ドロシー
しおりを挟む「んー……よく寝た……」
なんだか昨夜は、いつもよりもぐっすり眠った気がする。
伸びをしながら上体を起こすと、寝室には私以外誰もいなかった。
「お父さん? お母さん?」
私が寝入っているから、起こさずにキッチンへ行ったのだろうか。
そう思ってキッチンへ向かったが、キッチンにも誰もいない。
「お兄ちゃん、どこにいるの?」
嫌な予感がして居間を覗くと、居間にも誰もいなかった。
「意地悪しないで出てきてよ」
慌てて家を飛び出し、外に出る。
「誰かいませんかー!?」
大きな声を出しながら村を歩く。
しかし私の質問に答えてくれる人はいない。
「どうして誰も返事をしてくれないのですか? 姿を見せてくれないのですか?」
しんと静まり返った村に、私の声だけが響き渡る。
「お願いします。誰か出てきてください」
私はもう半泣きだった。
まるで村人全員に置いて行かれた気分だ。
「一人ぼっちは嫌……誰か返事をして……」
ふと、ヒーローを呼ぶお守りをもらっていたことを思い出した私は、お守りのガラス玉を割ってみた。
しかし、誰も現れることはなかった。
「やっぱりヒーローは、私を助けには来てくれないんだ……」
軽い絶望を抱きつつ、私は村を歩き回った。
そして村を歩き回った私は、ふらふらと歩き続け、辿り着いた。
…………村の墓地に。
墓地には新たな墓石が大量に増えていた。
置かれていたのはただの石だったが、一目で墓石だと分かった。
だって、村のみんなは……。
「あ……ああ……あああああーーーーー!!」
整然と並んだ村人たちの墓を見て、私はやっと理解した。
一人ぼっちにしないで、なんて笑わせる。
とっくに私は一人ぼっちだった。
私以外の村人は全員、魔物に殺されてしまった。
それ以来、私はずっと夢の世界にいた。
以前と変わらずに村人たちが生きている、夢の世界に。
「……一人ぼっちは嫌。私もみんなのところに行くね」
しかし今日、夢の世界は終わってしまった。
夢の世界で生きていた村人たちは、土の下へと去ってしまった。
もう私は、みんなと生きる夢の世界へは戻れない。
私は墓地の近くに生えていた蔦を引きちぎると、輪を作って木に結んだ。
途中で解けないように、固く固く結ぶ。
「待っててね。すぐに行くから」
輪に首を通す。
これで私は本当にみんなのいる世界へ逝ける。
しかし息苦しいと感じたのは一瞬だった。
蔦を結んでいた枝が折れたのだ。
咳き込みながら枝の断面を確認すると、枝はただ折れたわけではなかった。
断面は、まるで刃物で切ったかのようにスパッと切れている。
「自ら命を絶つなんて、神が許しませんよ!」
そのとき、墓地に四人の人影が現れた。
すっかり忘れていた。
昨夜は、四人の旅人がこの村に泊まっていたのだ。
……ということは、村人たちを土に埋めたのは、彼らだ。
「村が襲われて辛いのは分かる。だが自殺は見過ごせない」
「どうして死なせてくれないんですか!?」
私の夢の世界を壊した彼らが、私に死ぬなと言う。
「死を選ぶほどに辛い状況でも、人は生きなければならないのです」
「私は生きていたのに! あなたたちが来るまで、幸せに生きていたのに!」
確かに私は生きていた。
そしてこれからも生きるつもりだった。
私の、夢の世界の中で。
「あれは幸せな状況とは言えません。それに死者を操るなんて、あまりにも冒涜的です」
「ネクロマンサーは通常、動物や魔物を操るものだ。死者の尊厳を考慮し、人間を操ることはしない」
「あなたは村人のことを愛していたんでしょ? それなら静かに寝かせてあげないと」
「どう好意的に見ても、お前のやっていることは、悪だ」
冒涜、尊厳、愛、悪。
果たしてそれは、赤の他人が決めるものだろうか。
自分たちの価値観が絶対の価値観であるはずはないのに、彼らはそれを信じて疑わない。
「……何も知らないくせに」
「え?」
「あなたたちは何も知らないくせに! あのとき助けに来ないで、今になって村にやって来て、偉そうに説教をするなんて!」
あまりにも傲慢だ。
偉そうに説教をしていいのは、あのとき現場にいた者だけだ。
彼らはいなかった。助けに来なかった。
だから今さら説教をする資格なんてない。
あのとき何があったのかを知らない彼らの価値観なんて、何の価値もない!
「私は幸せだった。村人たちも幸せだった。幸せな世界を、勝手な価値観でめちゃくちゃにするなんて、許せない!」
身体中に力が溢れてくるのを感じる。
きっと村人たちとの契約が切れて、魔力を送らなくなったからだ。
「あなたたちなんて、呪われてしまえばいいんです!」
私は何かがあったときのために契約を繋いだまま放置していた死体に魔力を送った。
すぐに魔物の群れが墓地へとやってきた。
「ちょっと、やめてよ!?」
「私の世界を勝手に踏み荒らして……あのとき助けてくれなかったくせに!」
「過去のことを言われても、わたくしたちにはどうすることも出来ません」
「助けてよ! 私のことを助けてよ! 誰か、私のことを助けてよーーー!!」
私の叫びと同時に、魔物の群れが四人の旅人に襲い掛かった。
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