勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単

文字の大きさ
上 下
58 / 172
【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた

●58 side 勇者

しおりを挟む

 歩き続けていると、前方に小さな村を見つけた魔法使いが嬉しそうな声を上げた。

「村があったわ。ダンジョンへ行く前に食料を補給しましょうよ!」

 確かに食料が尽きかけている。
 それにダンジョンへ行く前に一度、柔らかいベッドで身体を休めておきたい。

 しかし近付くにつれて、村の様子がおかしいことに気付いた。
 人が生活している気配がまるで感じられないのだ

「…………待て。村の様子が変だ」

 僕は走って村へ向かおうとする魔法使いを止めた。
 僕の様子を見た戦士、僧侶、魔法使いの緊張が高まっていく。

 僕たちは慎重に村の中に入ると、周囲を観察しながら歩いた。
 村の家々の壁には赤黒い血痕が飛び散っており、地面もところどころ変色している。

「まあ、なんて酷い。この村は魔物に襲われてしまったのですね」

 僧侶が悲しそうに血痕を眺めている。
 しかしこの村は、それだけではない気がする。

「気を付けろ。この村はどこかおかしい」

 魔物に村人が全滅させられたのだとしたら、死体が転がっているはずだ。
 もし魔物に食べられてしまっていたとしても、骨すら見当たらないのはおかしい。
 村を襲った魔物が、行儀よく骨をゴミ箱に捨てるなんて話は聞いたことがない。

「あっ! 村人がいるわ。こんにちはー」

 静まり返った村の中で、魔法使いが一人の村人を見つけた。
 この村には誰もいないと思っていたため、少し安堵する。
 生き残りがいるのなら、村人たちの死体を埋葬したと考えられるからだ。

 …………しかし。

「ひっ!?」

 魔法使いの悲鳴を聞いた僕たちも、急いで魔法使いの元へ行く。
 そして魔法使いの見たものを、全員が目撃した。

「頭が半分……無い」

「死んでいるのに……生きています……」

「これは一体……」

 僕たちは村の中を見て回った。
 村の中では、死体が生活をしていた。

 死体たちは家の中で生活をしているようだった。
 椅子に座っているもの、歩いているもの、本を読んでいるもの。
 誰一人として呼吸をしていないのに、そのことに気付いていないかのように暮らしている。

「村人全員がこの状態なのか!?」

「……いや。生きている人間もいるようだ」

 僕たちの前に現れた女は、怪我一つ無く、人間らしい顔色をしている。

「あら。旅のお方ですか? 最近よく現れますね」

 群青色の髪をした女は、村の様子など意にも介していない様子で微笑んだ。

「あの、この村はどうしてこのような……こんな状態なのですか?」

「酷い状態ですよね。魔物に襲われたんです」

 僧侶が言葉を濁して尋ねると、女からは俺たちの求めているものとは違う答えが返ってきた。

「それは分かるが、問題なのはそこではなく」

「でも幸いなことに、村人は全員無事だったんです」

「はあ?」

 女はニコニコとしながら、意味の分からないことを言った。
 誰がどう見ても無事ではないというのに。

「奇跡みたいですよね。村人全員が元気だなんて」

「元気ってどこが……むぐっ」

 女の発言のおかしさを指摘しようとした魔法使いの口を、戦士がふさいだ。
 そして女に聞こえないよう、小声で囁く。

「たぶん犯人はあいつだ」

「じゃあ死体が動いているのは……」

「ネクロマンサーだろうな。村人を動かして何の意味があるのかは分からんが」

 僕も同意見だ。
 こんなことが出来るのは、死体を操るネクロマンサー以外には考えられない。

「でも人間を操るネクロマンサーなんて聞いたことがないわ。普通は動物とか魔物を操るでしょ!?」

 ネクロマンサーは通常、動物や魔物の死体を操る。
 人間の死体を操ることは倫理に反するとされているからだ。
 しかし動物の死体であっても、死体を操る行為自体が不道徳だと考える者も多く、ネクロマンサーの肩身は狭い。
 そのため自身がネクロマンサーであることを隠して生活をするネクロマンサーも多い。

「事実として、あいつは人間を操っている。しかも大勢。どう考えても普通じゃない」

「こんなの死者に対する冒涜です! 死者をお墓で眠らせずに操るだなんて!」

 案の定、僧侶が非難の声を上げた。

「操られている死者たちを、埋葬してあげられないでしょうか」

「僕たちはそんなことをしてる場合じゃないだろ」

 一刻も早くダンジョンをクリアして強くならなければいけない。
 寄り道をしている場合ではないはずだ。

「でも、でも……お墓に埋めてあげないことには、僧侶であるわたくしはこの村を離れられません」

「確かに、操られ続ける死者たちが可哀想ね」

「とはいえ、あのネクロマンサーが起きている間は墓に埋めるのは無理だろうな」

 どうやら戦士と魔法使いも、僧侶の意見に賛成のようだ。
 三人はこの前のダンジョンで何が起こったのかを正確に把握していないせいで、危機感を感じていないのかもしれない。

 彼らは僕がダンジョンをクリアしたと思っている。
 しかし事実は違う。
 荷物持ちが来なければ、僕たち勇者パーティーはダンジョン内で全滅していた。
 ……僕はそれを三人に伝えるつもりはない。
 しかし、事実を伝えないことがこんな形で影響を及ぼすとは思わなかった。

「じゃあ今すぐ彼女を睡眠魔法で眠らせて」

「いや、村人全員を操るネクロマンサーだ。敵認定されることは避けたい」

「放っておいても魔力回復のために睡眠をとるはずです。それまで待ちましょう」

「じゃあ夜になって彼女が寝たら、その上から私が睡眠魔法を掛けるわね」

「勇者もそれでいいか?」

 良くはない。
 僕はこんな村は放っておいて、さっさとダンジョンへ行きたい。
 しかし三人の間ではとんとん拍子で話が進んでしまった。
 ここで強引に三人をダンジョンへと連れて行っては、僕に対する不満が溜まるだろうことは、容易に予想が出来る。

「お話は終わりましたか?」

 こそこそと会話をする僕たちに向かって、女が鈴を転がすような声で質問した。

「ここで会ったのも何かの縁です。時間があるようでしたら、私に旅のお話を聞かせていただけませんか?」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~いざなわれし魔の手~

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーの主人公は、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! 主人公は、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく! ~いざなわれし魔の手~ かつての仲間を探しに旅をしているララク。そこで天使の村を訪れたのだが、そこには村の面影はなくさら地があるだけだった。消滅したあるはずの村。その謎を追っていくララクの前に、恐るべき魔の手が迫るのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...