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【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた
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しおりを挟む翌朝、俺と魔王リディアは村を発つことになった。
見送りに来てくれたドロシーは、魔王リディアの言う通り睡眠によって魔力を回復させたようで、昨夜よりも顔色が良くなっていた。
「そうだ。良かったらこれを」
ふと思いついた俺は、ドロシーに星空を閉じ込めたようなガラス玉を手渡した。
「わあ、すごく綺麗ですね」
「これは合図玉と言います」
「合図玉?」
「困ったときに割ると、ヒーローが助けに来てくれるアイテムです」
俺の言葉を聞いたドロシーは、目をぱちくりとさせた後、くすくすと笑い始めた。
「ヒーローだなんて、ふふっ」
そして合図玉を太陽に透かして覗き込んだ後、悪戯っぽい表情で俺のことを見た。
「私はもう子どもじゃないんですよ?」
「そうですね。じゃあ勇気の出るお守りだとでも思ってください。これを持っているとヒーローが見守っていてくれる、みたいな?」
「ヒーローには見守っていないで助けに来てほしいです」
「あはは、本当ですね」
「でも、素敵な品をありがとうございます。お二人とも、お元気で」
* * *
ドロシーの住む村から出発した俺たちは、しばらく無言で歩き続けていた。
あの村での出来事は、考えることの多いものだったからだ。
「これでよかったんですかね」
ついに我慢のできなくなった俺は、魔王リディアに向けて質問した。
「その……冒涜的な行為は止めた方が良いと思うのですが、彼女のあれが冒涜的なのかどうか、俺にはよく分からなくて……」
「あれが冒涜かどうかは、他人が決めることではないじゃろう」
「一般的には……いえ、一般的ではないから冒涜と決めつけるのは良くないですよね」
ドロシーには悪意が一切無いように見えた。
悪意が無ければ良いのかと聞かれると返答に困るが、少なくとも悪い感情を持ってあのようなことをしているわけではなさそうだ。
「どちらにしても、ただの旅人である妾たちが、わざわざ他人の世界を踏み荒らすことはあるまい」
「そうですね。俺にはドロシーさんの世界を変えることは出来ません。彼女の世界を変えることが正しいのかも分かりません」
ドロシーは今、少なくとも彼女の中では、幸せな世界で暮らしている。
それが世間一般で言う幸せな世界とはかけ離れていたとしても、今この瞬間の彼女の世界は平穏な幸せに包まれている。
ただドロシー自身が、その幸せな世界が欺瞞だということに、薄っすらと気付いている可能性が高い。
勝手な価値観で、ドロシーの世界を変えようと踏み荒らすことはしたくはない。
しかし、彼女に今とは別の世界を提示してあげられたとしたら……。
そして彼女自身の選択で、新しい世界を選んでもらえたとしたら……。
そのとき彼女の手を引いて、彼女をあの世界から引っ張り出すことが出来たとしたら……。
その行動は、明るい未来へと繋がるのではないだろうか。
「でも俺には、そんなすごいことは出来ませんでした」
「ドロシーの世界を壊さずに彼女をそこから引っ張り出す……難しいじゃろうな。少なくとも、彼女自身が現実を受け入れることを拒否している状態ではな」
俺は自分の力量を把握しているつもりだ。
そこから導き出される答えは……俺ではドロシーを救えない。
「だから、まっすぐな正義のヒーローに任せることにしました」
「フッ、ここで『自分が彼女のヒーローになる』と言えないことが、ショーンのモテない理由よな」
「これに関しては否定できませんね」
俺の力でドロシーを救えたなら、一番良かった。
しかし俺では力不足だ。
彼女を救う方法がまるで思いつかない。
だから、俺に出来ないことを成し遂げてくれそうなヒーローに任せる。
自分の力ではどうすることも出来ないと分かったとき、誰かの力を借りようとするのは、決して悪い選択ではないはずだ。
「カッコ悪いですけどね」
「まあしかし、ショーンはそれでよいと思うぞ。それこそがお主という存在であるからな」
「カッコ悪いことが、俺の個性ってことですか?」
俺のこの質問に、魔王リディアは何も答えなかった。
うわあ、魔王リディアは、カッコ悪いことが俺の個性だと思ってるんだ……。
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