勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単

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【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた

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 魔王リディアの獲得したアイテムを漁っていると、透き通ったガラス細工のようなアイテムが出てきた。
 球体の中に星空を閉じ込めたような模様が見える。

「へえ。綺麗な合図玉ですね」

「合図玉?」

 ヴァネッサが興味津々と言った様子で覗き込んできたので、合図玉を彼女の手に乗せた。
 ヴァネッサは二つの合図玉をころころと手のひらの上で転がしている。

「二個で一組になっているアイテムです。二人で玉を片方ずつ持って、何かあった際に玉を割ると、もう片方の玉に居場所を知らせてくれるんです」

「こんなに綺麗なのに、割っちゃうのはもったいないわね」

「使わない方がもったいないですよ。そのために作られたアイテムですから」

 そういえば勇者パーティーで魔法使いも同じようなことを言って、合図玉を割ることを渋っていた。
 そのたびに僧侶に説得されていたのが懐かしい。

「このアイテム、便利なんですよ。ダンジョン内で二手に分かれて探索して、ボスモンスターを見つけたら玉を割って仲間に知らせる。という方法で使われることが多いですね」

「じゃあパーティー用なのね」

「そうでもないですよ。冒険者が片方の合図玉を家に残した家族に持たせて、問題が起こった際に割ってもらい、家族を助けに戻る。のような用途でも使われます。この場合はほとんど合図玉を割ることがないので、綺麗な合図玉を用意して装飾品として飾ることも多いようです。この合図玉は綺麗なのでこちらの目的で売買されるタイプでしょうね」

 俺の解説を聞いたヴァネッサが不思議そうな顔で俺を見た。

「ショーンって、毒蜂の針が売れることは知らないのに、アイテムについては詳しいのね」

「アイテムについてというよりも『高値が付くものについては詳しい』ですかね。ドロップ素材でも、龍の逆鱗や鳳凰の羽については詳しいですよ」

「嫌な特技ね」

 確かに改めて考えると勇者パーティーでの旅は、安いものは眼中に無い、といったものだった。
 安いものというか、性能の低いものは、無視する傾向にあった。
 性能の低いものを使ったせいで全滅したら困るからだ。

「合図玉はショーンとヴァネッサが一つずつ持つのがよいじゃろう」

 魔王リディアがヴァネッサの手のひらの上から合図玉を一つ持ち上げ、俺に手渡した。

「え? ヴァネッサさんから合図があっても俺は助けに行かないですよ?」

「それを本人の前で言うのはどうかと思うわ」

「助けを待たれるのは申し訳ないので……俺は行かないですから」

 俺の反応を見た魔王リディアが背中をバシリと強めに叩いた。

「痛っ!?」

「何をしておる。妾のナイスアシストを、無駄にするどころか好感度を下げてどうするのじゃ。これだから童貞は厄介じゃ」

「バラさないでくださいよ!?」

 今日出会ったばかりのヴァネッサに俺の童貞を伝えるのはあんまりだ。
 魔王リディアが言わなければ隠しておけたのに。

「リディアが言わなくても、ショーン自身の態度で分かるわよ」

「えっ!?」

 童貞の素振りなんて見せてないはずなのに……。
 いつそんな風に思われたのだろう。

「まあいいわ。気が向いたら、あたしは助けに行ってあげる。あたしは、薄情なショーンとは違うからね」

 ヴァネッサはそう言うと、合図玉を懐にしまった。
 魔王リディアと一緒に旅をしている俺に危機が訪れるのかは疑問だが、特に断る理由も無いので、俺も合図玉を懐にしまった。

「ありがとうございます」

 魔王リディアは俺たちの様子を見ながら満足げに頷いていた。
 そしてアイテムの入った大きな袋を持ち上げると、ヴァネッサの前に置いた。

「残りのアイテムは、ヴァネッサ、お前にやる」

「……へ?」

「アイテムを売って美味しいものを食べるでも、装備して旅に出るでも、好きに使うとよい」

 魔王リディアは、突然のことで混乱しているヴァネッサに向かって、不敵な笑みを見せた。

「あとはヴァネッサ、お前次第じゃ」

 それだけ言うと魔王リディアは俺に向き直り、親指と人差し指でお金を意味する形を作った。

「ところでショーン、巨大グモのクエスト報酬は受け取ったか?」

「はい。報酬の三分の二を頂きました」

「そんなにもらったのか……まあよい。さっそくご当地飯を食いに行くぞ」

 ご当地飯が絡むと、途端に魔王リディアは楽しそうな顔になる。
 ここはトウハテ村とは違いそこそこ大きな町のためレストランはいくつもあるが、どこで食べるのが良いのだろう。

「ヴァネッサさん、この町のご当地飯って何ですか?」

「そうねえ。ヒナトマトが丸ごと乗ったトマトシチューかしら。ヒナトマトはこの町の特産品なのよ」

「ヒナトマトのシチューですね! リディアさん、ヒナトマトのシチューを売っているレストランに行きましょうか」

「もちろんじゃ!」

 それだけ言うと、さっさと進んで行ってしまう魔王リディアを追いかける。
 その最中ハッとして、一度後ろを振り返りヴァネッサにお礼を言った。

「ヴァネッサさん、教えて下さってありがとうございました」

「どういたしまして、って……え!?」

 このままこの場を去ろうとする俺と魔王リディアに向かって、ヴァネッサが手を伸ばした。

「行っちゃうの!? これ、どうすればいいの!?」

「言ったであろう。お前の好きにするがよい」

「ええーーーっ!?」

 こうして俺たちとヴァネッサは、突然出会い、突然別れた。



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