勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単

文字の大きさ
上 下
45 / 172
【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた

●45

しおりを挟む

 巨大グモの前に残されたヴァネッサと俺は、二人で協力して巨大グモの目をくり抜いた。
 気持ち悪いとヴァネッサは嫌がるかと思っていたが、冒険者ギルドに登録しているだけあって、テキパキと巨大グモをさばいていた。

「よし。どれも綺麗な状態の目ね。傷一つ無いわ」

「身体を真っ二つにして倒してましたからね」

「これだけ売れば、三等分しても結構な額になりそうね」

「三等分……ですか?」

 俺がヴァネッサの言葉を繰り返すと、途端にヴァネッサは焦った表情をした。

「あっ、図々しいよね。あたし何もしてないのに、むしろ足を引っ張ったのに三等分だなんて」

 俺はそういう意味で三等分に驚いたわけではない。
 むしろその逆だ。

「いえ、そうではなく。俺とリディアさんは無理やりヴァネッサさんの引き受けたクエストに同行したのに、三分の二も俺たちにくれる気なんですか?」

「……謙虚なのは長所になることもあるけど、損をするわよ」

「うーん。確かに倒したのはリディアさんですけど、何もしてないのは俺も同じですし」

 それなのに報酬の三分の二ももらうのは気が引ける。
 そもそも魔王リディアがいれば食料に困ることもないので、俺たちが金銭を欲しているのは生活のためではなく、いわば娯楽のため。
 腹を膨らませるためではなく、より美味しいものを食べるため。
 そんな俺たちが、旅に出たいのにお金が無くて出られないヴァネッサから、報酬の三分の二も持っていくのは良くない気がする。

「正当な報酬は受け取りなさい。遠慮をしても、相手に舐められるだけなんだから。良いことなんか無いわよ」

 しかしヴァネッサにはこの配分を変える気は無いらしい。

「それにしても、あんたたちってすごいのね」

「すごいのはリディアさんだけですよ」

「言ったそばから謙遜してる……謙遜が癖になってるのかもしれないわね」

 謙遜ではなく事実だ。
 ユニークスキルこそチートだが、それ以外の部分に関しては、俺は冒険者として中の下程度だろう。

「俺が強くないのは本当のことですから。巨大グモだってリディアさん一人で倒しましたし」

「あんただってなかなかの身のこなしだったと思うわよ。そりゃあリディアみたいな桁違いの強者が隣にいたら、自信が無くなっちゃうのかもしれないけど」

「そうなんです。リディアさんは桁違いなんですよ」

 俺が自分のことのようにリディアさんを褒めると、ヴァネッサさんは何かを考え込んでいるようだった。

「……何者なのよ、あの子」

「リディアさん自身が名乗ってたじゃないですか。魔王だって」

 魔王リディア自身に自分の素性を隠すつもりが無いように見えたので、俺も隠さずに伝えた。
 するとヴァネッサは大きな溜息を吐いた。

「あのねえ。魔王だなんて言われても、信じる人いないでしょ?」

「信じる人いなんですか?」

「……え。あんた信じたの?」

 ヴァネッサは、信じられないものを見たという表情で俺を見た。

「信じましたよ。だってリディアさんは強いですし」

「強い魔物なんていくらでもいるでしょ」

「でもリディアさんの強さは半端じゃないですよ」

「それはそうだけど……」

 ヴァネッサは、呆れたとでも言うように、またしても大きな溜息を吐いた。

「あのね、ショーン。あんた、パーティーを抜けた途端にあの子に拾われたのよね?」

「はい」

「タイミングが良すぎるとは思わなかったの?」

「タイミングよく拾ってもらえて助かったと思いました」

「あんた馬鹿なの?」

 剛速球が飛んできた。
 今の俺の発言に、馬鹿と呼ばれる箇所があっただろうか。

 考えが顔に出ていたのか、ヴァネッサが諭すような口調で追加の質問をしてきた。

「考えてもみて。険しい山の中で所属していたパーティーを追放される確率ってどのくらいよ」

「三十パーセントくらいですかね」

「そんなに確率高くないでしょ!?」

 そうなのか。
 確かにパーティーを追放されたという話は聞いたことがあるが、山の中でパーティーから追放されたという話は聞いたことがないかもしれない。

「まあいいわ。じゃあ山でパーティーを追放されたところを他の旅人に拾われる確率は?」

「十パーセントくらいですかね」

 俺の答えを聞いたヴァネッサは頭を抱えた。
 もしかして、これも俺が思っているよりももっと低い確率なのだろうか。

「……もういいわよ。じゃあその旅人が魔王である確率は?」

 さすがにこれは俺でも分かる。
 そして間違っていないと思う。

「ほぼゼロですね」

「そうよ! ほぼゼロなのよ!」

 ヴァネッサはやっとほしい答えが返ってきたとばかりに声を張り上げた。

「たまたまパーティーから追放されたら、たまたまあの子に拾われて、たまたまあの子は魔王!? こんなに偶然が重なることがあるかって言ってるのよ!」

「偶然ってすごいですよね」

 俺の言葉を聞いたヴァネッサは、身体中の力が抜けたようだった。
 ふらついた身体を、近くの岩に手をつくことで支えた。

「……あんたって、今まで生きてきて嘘を吐いたことがないの?」

 俺だって嘘を吐いたことはある。
 しかもつい最近。

「俺も嘘を吐いたことはありますが、誰もこんな意味のないことで嘘は吐かないと思います」

「……あんたが嘘を吐くのってどんなときよ」

 ヘイリーとアドルファスは子どもを守るために嘘を吐いた。
 俺たちはそんな二人の願いを叶えるために、一緒に子どもを守るために、嘘を吐いた。
 嘘を正当化するつもりは無いが、嘘を吐いたのは子どもを守るためだった。

「嘘は、誰かを守るために吐くものだと思います」

「……魔物が守りたいものは、魔物でしょ」

 魔王リディアが魔物を守るために嘘を吐いている?
 それこそ意味が分からない。

「俺に向かって自分が魔王だと嘘を吐いても、魔物を守ることに繋がるとは思えません」

「魔王である点が嘘じゃなかったとしても、いいえ嘘じゃなかったとしたらなおさら、偶然あんたを拾うってところがおかしいのよ」

「うーん……でも今までにリディアさんに何かをされた覚えはありませんよ。一緒に旅をしているだけです」

 俺に何かをするつもりなら、とっくにしていると思う。
 その機会は今までに十分すぎるほどにあった。

「あんた、もっと警戒心を持った方が良いわよ」

「ヴァネッサさんはやたら疑い深いですよね」

「当然じゃない。あたしは数多の詐欺に引っ掛かってきた、いわば詐欺のプロなんだからっ」

「数多の詐欺に引っ掛かってきたんですか……」

 そんな人の話は何の説得力も無いじゃないか。

 俺は喉まで出かかった言葉を、すんでのところで飲み込んだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~いざなわれし魔の手~

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーの主人公は、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! 主人公は、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく! ~いざなわれし魔の手~ かつての仲間を探しに旅をしているララク。そこで天使の村を訪れたのだが、そこには村の面影はなくさら地があるだけだった。消滅したあるはずの村。その謎を追っていくララクの前に、恐るべき魔の手が迫るのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...