勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単

文字の大きさ
上 下
30 / 172
【第二章】 美少女と、善人の村で愛を知る

●30

しおりを挟む

 ダンジョンを出た俺たちは、またしても魔王リディアのワープで目的地まで飛んだ。
 森の中には、木で出来た小さな家がちょこんと佇んでいる。

「誰だ!?」

 俺が何と言って家を訪ねようかと悩んでいると、俺たちの気配に気付いたのだろう魔物が家から飛び出してきた。
 魔物は武器を所持してはいないものの臨戦態勢を取っている。
 ……否、武器はいらないのだろう。見たところ狼を思わせる魔物だ。であれば、爪や牙が武器になる。

「慌てるな。妾は敵ではない。ただの旅の者じゃ。そしてこいつは弟子じゃ」

 俺って魔王リディアの弟子だったの?
 相棒的な立ち位置だと思っていたのに……。

 いいや。あらためて考えると、魔王リディアと相棒になれるような能力を俺は持っていない。
 それなら相棒よりも弟子の方が近いかもしれない?

「初めまして。ショーンと申します」

 紹介されたので、魔物に向かって頭を下げて挨拶をする。
 さすがに圧倒的強者の魔王リディアのいる前で、頭を下げた途端に首を斬り落としたりはしないだろう。

「……人間か」

「はい。俺は人間です」

「弟子は人間じゃが、妾は魔物じゃよ」

 魔王リディアは髪をかき上げ、尖った耳を魔物に見せた。
 対等に話をするためだろうか、魔王とは名乗らないらしい。

「魔物と人間が……一緒に旅をしているのか?」

 魔物は信じられないと言いたげな様子だ。
 俺だっていまだに自分の置かれた状況が信じられない。
 しかし、事実として人間の俺は魔王リディアと一緒に旅をしている。

「そうじゃ。だからあんたらの事情は察しておる」

「……なら、俺たちのことは放っておいてくれ」

 魔王リディアの言葉を聞いた魔物は、溜め息を吐きながら静かに言った。

 俺が彼の立場だったとしても、旅人には放っておいてほしいだろう。
 しかし今は、彼らを放っておける状況ではない。

「このままだと村人たちが集団でヘイリーさんを取り返しにやって来ます」

「なんだと!?」

 魔物の顔が一気に険しくなった。
 油断すると今にも食い千切られそうだ。

「まあまあ。まずは家に入れてくれると助かるのじゃ」

 さすがと言うべきか、魔王リディアは目の前の魔物の殺気など、どこ吹く風だ。
 のんびりした口調で喋っている。

「あなたたちと話し込んでいる姿を村人に見られると厄介なので、入れていただけると助かります」

 あまりにも魔王リディアから危機感を感じ取れないため、代わりに俺が切羽詰まった調子でそう言った。
 実際に魔物と話し込んでいる姿を村人に見られて良いことなど何もない。

「…………」

「そこの魔物。もし妾がお前らを殺すつもりなら、とっくに皆殺しにしておる。殺していない時点で妾を信用しても良いのではないか」

「…………入れ」

 敵ではないと判断してくれたのか、それともこのまま外で俺たちと話していることが不利益に繋がると判断したのか、魔物は俺たちを家の中に入れてくれた。
 だからこれは脅しではない……よね?




 魔物の家に入ると、そこには人間の女性と赤ん坊がいた。
 この女性がヘイリーだろう。

 俺たちを見たヘイリーが赤ん坊を抱きつつ壁際に逃げようとしたので、慌てて両手を上げて敵意が無いことを示す。

「俺たちはあなたに危害を与えるつもりはありません。こちらの魔物の方にも、もちろん赤ちゃんにも」

「妾たちはトウハテ村の者たちに、女を取り返してほしいと頼まれてここへ来た」

 俺が魔物とヘイリーの緊張を解こうと頑張っている横で、魔王リディアが直球のセリフを投げた。
 解けかけた緊張が再び戻る。

「リディアさん!? ものには順序がありますよ!?」

「ショーンの思う順序通りにやっていたら日が暮れる。お主はそういう、付き合ったらまずは交換日記タイプであろう」

「付き合ったらまずは交換日記に決まってるじゃないですか! ……って、今はどうでもいいんですよ、そんなこと!」

 魔王リディアと話していると、すぐに話が脱線してしまう。
 こんなやりとりを繰り返していたら、それこそ日が暮れる。

「確かに村からはそういう依頼を受けて来ましたが、だからと言って強引なことをする気はありません」

「そうじゃ。妾たちは、お前らの事情を聞いてから判断をするつもりじゃ」

「……見たところ、無理やり連れ去られたわけではないですよね」

 俺は赤ん坊を抱くヘイリーに、なるべく優しい口調で尋ねた。

「もちろんです」

 ヘイリーは寝てしまった赤ん坊を布団の上にそっと寝かせると、俺たちに向き直った。

「アドルファス、私が話すわ」

「だが……」

「平気よ。誰かと話したい気分なの」

 ヘイリーの呼んだ「アドルファス」というのが、この魔物の名前なのだろう。
 これまで長い間勇者パーティーで旅をしてきたが、魔物の名前を聞くのは初めてのことだ。

「けれど、一体どこから話せばいいのでしょう」

「どうやって話しても、長い話になる」

「構いません。お二人の話を聞かせてください」

 息を大きく吸ったヘンリーは、今に繋がる長い昔話を始めた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~いざなわれし魔の手~

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーの主人公は、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! 主人公は、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく! ~いざなわれし魔の手~ かつての仲間を探しに旅をしているララク。そこで天使の村を訪れたのだが、そこには村の面影はなくさら地があるだけだった。消滅したあるはずの村。その謎を追っていくララクの前に、恐るべき魔の手が迫るのだった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...