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【第二章】 美少女と、善人の村で愛を知る
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しおりを挟む居間へ行くと、テーブルの上には色とりどりの料理が並べられていた。
テーブルについているのは四人。
魔王リディアと村長と村長の妻らしき人物と……ヘイリーの父親。
「あなたは先程の、娘さんを誘拐された……ヘイリーさんのお父さん?」
他に何と呼べばいいのか分からず変な呼び方をしてしまったが、ヘイリーの父親は気にしていないようだった。
居間へやってきた俺に向かって、手を振っている。
「俺も夕食会に加わらせてもらったんだ。さっきはこの村の事情ばかり話してしまったが、お前たちの話も聞きたいからな」
俺たちの話と言われても、話せるような内容の話は無い気がする。
魔王リディアが魔王である話はもちろん出来ないし、俺が勇者パーティーで受けていた扱いも、勇者パーティーから追放されたことも話せない。
人間の希望である勇者を、品行方正な英雄だと考えている人間は多い。だから夢を見ている人たちを相手に、わざわざ幻滅させるのは気が引ける。
それ以外に俺たちの旅の中で起こった出来事と言えば、全滅しかけた勇者パーティーを救ったことだが……勇者パーティーが負ける話なんて、もっと話せない。
俺がそんなことを考えながらゆっくり歩いていると、魔王リディアの叱責が飛んできた。
「何をモタモタしておる。早く席に着くのじゃ!」
「あっ、はい!」
俺は急いで空いている席に座った。
「いただきます」
根物野菜の煮物に、葉物野菜のスープと漬物、実物野菜の炒め料理。
茶色に白に赤に緑に、とても見た目が良く、十分にお金が取れそうな料理の数々だ。
並べられた料理を一通り目で楽しんでから、フォークを差す。
腹が膨れるためか、野宿をしている間は魔王リディアの調達した肉や魚を食べることが多かった。
だから繊細な味付けのされた野菜がふんだんに使われた料理は、俺の身体を喜ばせた。
今この瞬間にも、身体に不足していた栄養が補われていく感覚がする。
「これがこの村のご当地飯なんじゃな。野菜がいっぱいで美味いのう」
「うふふ、ありがとう」
「トウハテ村には、野菜だけは売るほどありますから」
魔王リディアは出された料理をペロリと平らげていく。
魔王リディアの前に置かれた皿だけ異様な速度で空になっている。
「育ち盛りだとお腹が空くわよね。おかわりが食べたかったら言ってね」
「おかわりが食べたいのじゃ!」
間髪あけずに魔王リディアが村長の妻に自身の皿を差し出すと、村長の妻は嬉しそうに追加の料理を乗せた。
魔王リディアが村長の妻と仲良くしている間、俺は村長とヘイリーの父親から旅の話を期待されていた。
「旅をしている方はみんな腕が立つと聞きますが、やはりあなたにも武勇伝があるのですか?」
「武勇伝……? 話せるようなことは何もないです」
「またまた謙遜しちゃって。旅の途中で魔物と戦ったり盗賊と戦ったりしてるんだろ?」
実はまだどちらも無い。
圧倒的強者の魔王リディアと一緒にいるおかげか、魔物たちはまず俺たちには近付かない。
盗賊に襲われる可能性はあったが、運の良いことにまだ出会ってはいない。
「旅の途中で野良犬と野良猫を手懐けて、しばらく一緒に歩いたほのぼの話なら出来ますけど……」
俺は他に喋れる話がなかったので、当たり障りのない旅の一エピソードを話して聞かせた。
気まぐれに残飯をあげたら野良犬と野良猫がしばらくついてきただけの話だったが、旅をしたことがないのだろう村長とヘイリーの父親は、興味深そうに俺の話に耳を傾けていた。
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