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【第二章】 美少女と、善人の村で愛を知る
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しおりを挟む「さっそくご当地飯を食べに行くのじゃ! おー!」
機嫌を直した魔王リディアは、元気よく掛け声を発しながら、村を歩き回った。
腕を掴まれた俺は、魔王リディアに引っ張られる形で後を追う。
「飲食店が無かったのじゃ」
村を歩き回った結果、飲食店らしき店は一つも無かった。
それどころか店と呼べるものが一つも無かった。
大きさに違いはあれど、村にあるのは民家だけだ。
「この立地だと観光客はなかなか来ないでしょうからね」
「さっそく妾の定めた旅のルールを破ることになってしまったのじゃ」
この規模の小さな集落では、きっと個人間の販売や物々交換で十分なのだろう。
「とりあえず村長のところへ行きましょうか。宿泊施設……は無さそうですが、泊まる場所を提供してくれるかもしれません」
「ついでにご当地飯も提供してほしいのじゃ」
しょぼくれた様子の魔王リディアの手を今度は俺が引き、村人に聞いた村長の家へと向かう。
到着したのは、村で一番大きな家。
ここに村長が住んでいるらしい。
さっそく話をしに行こうと玄関へ向かうと、村長は先客と取り込み中のようだった。
「村長! いい加減に村の男衆で魔物の住処に乗り込む許可を!」
「気持ちは分かるが、落ち着きなさい」
玄関では二人の男が話をしている。
どうやら大きな声を出しているのが村人で、それを制している初老の男性が村長のようだ。
「ヘイリーが、娘が、さらわれてるんだ。落ち着いていられるわけがない!」
「そういった状況だからこそ、落ち着かないといけません」
俺は魔王リディアと顔を見合わせてから、もう一度二人の男を見た。
二人は俺たちに気付かず話を続けている。
「あー……今はタイミングが悪いみたいですね」
「今夜は野宿かのう」
ご当地飯にこだわっていた魔王リディアだが、寝床については頓着が無いらしい。
圧倒的強者である魔王リディアは、どこで寝ても外敵に襲われる心配がないから、どこででもぐっすりと眠ることが出来るからだろう。
勇者パーティーにいた頃は、野宿の際は常に一人が見張りとして起きていなければならなかった。
毎日睡眠魔法で眠らされていたらしい俺も、見張りの役目に関しては例外ではなかった。
時間ごとに見張りの担当を決め、その時間が終わると別のメンバーに見張りを交代して寝る。
今思うと、俺の直前の見張りが必ず魔法使いだったのは、俺に掛けた睡眠魔法を解くためだったのかもしれない。
それに魔法使いの前は、いつも僧侶が見張りだった。
これも俺に回復魔法を掛ける関係で決まった順番なのかもしれない。
何も知らない馬鹿な俺は、お決まりの順番としか考えていなかった。
「おい、ショーン。ボーっとしておっても、彼らに気付いてはもらえぬぞ」
「えっ、あっ、そうですね」
考え込んでいた俺の太ももを、魔王リディアが小突いた。
今は取り込み中かもしれないが、村に部外者の俺たちが来たことは村長に知らせておくべきだろう。
一声かけて、一旦ここを離れるのが良さそうだ。
「こんにちは。俺たちは旅の者です」
「旅の者じゃ。控えおろう」
俺が二人の男に声をかけると、魔王リディアも続いて挨拶をした。
ずいぶんと偉そうな挨拶だが、相手は初老の村長だ。
子どもの言うことにいちいち腹を立てるほど狭量ではない……と願いたい。
「……ですが、今はお取込み中のようですので出直します。この村に立ち寄ったことだけ報告しておきますね」
「待ってください!」
魔王リディアが失礼なことを言ったにもかかわらず、二人の男に怒っている様子は無かった。
それどころか、すがるような目つきでこちらを見てくる。
「こんな東の果てにある村までやってきたということは、さぞかし腕が立つのではありませんか? しかもこんなに小さい子どもまで連れて」
「腕が立つというほどでは……」
「立つのじゃ!」
謙遜をする俺の言葉を遮って、魔王リディアが断言した。
確かに魔王だから腕は立つのだろうが、今の可愛い姿で言っても説得力がない。
「おお、やはり! あなたたちは救世主様です!」
しかし村長は魔王リディアの言葉を信じたのか、俺たちを拝み始めた。
村長の真似をしてもう一人の男も俺たちに手を合わせている。
救世主というか……目の前にいる少女が、悪の親玉と言われている魔王です。
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