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【第五章】 隠された名前
第78話
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次の質問をぶつけようとしたとき、軽く肩を叩かれた。
「ローズ様。そろそろ帰りましょう」
「もうですか? まだまだ聞きたいことがあるのですが」
「もともと今日は顔合わせだけのつもりでした。“扉”であるローズ様が信頼できそうな人物か、直接会って自分の目で判断したいとのことでして……」
セオが『死よりの者』を手で示しながら言った。
どうやら私は品定めをされていたらしい。
そうとは知らず、短時間で質問攻めをしてしまった。
鬱陶しい奴だと思われただろうか。
「私はあなたのお眼鏡に適った? また会ってくれるかしら」
私に問われた『死よりの者』は、翼を大きく広げて丸を作った。
≪ あなた様の真実を知ろうとする姿勢は、信じるに値します。次に会った際にはもっと話をしましょう。“扉”が事態を把握することは、我らを救うことにも繋がるかもしれませんから。 ≫
「会うなり質問攻めにしたのに、評価してくれてありがとう」
『死よりの者』の様子を見たセオは、満足げに頷いていた。
「彼に気に入られたみたいですね。さすがはローズ様です」
「さすがって……私は普段、愛されキャラではないですよ。嫌われたり怖がられたりすることの方が多いです」
私が人心掌握に長けていると勘違いしているセオに、現実を告げた。
ジェーンやナッシュなど一部の生徒からは好かれているものの、クラスの大半は、私のことを嫌っているか怖がっている。その両方の人が最も多い。
「あの拗らせ王子の婚約者を続けている人が何を言いますか。あの王子に何年も執着されるなんて、すごいことですよ? 自分なら絶対にごめんですが」
またセオが、自分は王子の側近だ、と言っているような発言をした。
口を滑らせやすい性格なのかもしれない。
「自国の王子に対して『拗らせ王子』なんて言ったら、不敬罪で捕まっちゃいますよ?」
「あっ……だ、大丈夫です。ローズ様さえ黙っていて下されば問題ありません。黙っていてくれますよね?」
「それは構いませんが、気を付けてくださいね」
「恩に着ます」
私は『死よりの者』に向き直ると、深々と頭を下げた。
「いろいろと教えてくれてありがとう。それと最後にもう一つだけ。あなたはどうして“扉”である瀬尾梅子さんを日本から脱出させてあげたの? あなたたちからしたら、“聖女”と“扉”は近くに置いておきたいんじゃないの?」
≪ “聖女”も“扉”も、我らの救世主です。脅すことなど許されるわけがありません。ですが当時は、人間を人質にして“聖女”に浄化をさせようとする勢力が強すぎました。そしてあの勢力をあのまま放っておいたら、次は“扉”が脅される番だと思ったのです。だから我は“聖女”に注目が行っている間に、“扉”を日本から遠ざけることにしました。 ≫
「……あなたたちも一枚岩ではなかったということね」
≪ 我らは人間とは違って個人の情報を共有できますが、そもそも我らも元は人間です。個体による考え方の違いは当然あります。あの世界に長くいると、似たような思想になりがちではありますがね。 ≫
もう一度『死よりの者』にお辞儀をしてから、私たちは転送魔法でウサギ小屋に帰った。
こっそり女子寮に戻り、鍵を開けた状態にしていたジェーンの部屋の窓を開けると、部屋の中ではジェーンが勉強をしながら私の帰りを待っていた。
『死よりの者』に聞きたいことはまだまだあったが、あのまま会話を続けなくて良かった。
寝ていていいと言ったものの、あのジェーンが私の帰りを待たずに寝るはずがなかった。
私が無事に帰宅したことで、ジェーンも安心して寝られるはずだ。
今夜の出来事は教えられないため、眠気が限界と言いながら、そそくさと部屋を出て行った。
だって今夜の出来事を伝えたら、ジェーンは私の帰りが遅いこととはまた別の心配をして、眠れない夜を過ごしてしまうから。
ごめんね、ジェーン。
話せる段階になったら、きっと話すからね。
――――――――――――――――――――
※次回更新は、6月6日(木)予定です。
「ローズ様。そろそろ帰りましょう」
「もうですか? まだまだ聞きたいことがあるのですが」
「もともと今日は顔合わせだけのつもりでした。“扉”であるローズ様が信頼できそうな人物か、直接会って自分の目で判断したいとのことでして……」
セオが『死よりの者』を手で示しながら言った。
どうやら私は品定めをされていたらしい。
そうとは知らず、短時間で質問攻めをしてしまった。
鬱陶しい奴だと思われただろうか。
「私はあなたのお眼鏡に適った? また会ってくれるかしら」
私に問われた『死よりの者』は、翼を大きく広げて丸を作った。
≪ あなた様の真実を知ろうとする姿勢は、信じるに値します。次に会った際にはもっと話をしましょう。“扉”が事態を把握することは、我らを救うことにも繋がるかもしれませんから。 ≫
「会うなり質問攻めにしたのに、評価してくれてありがとう」
『死よりの者』の様子を見たセオは、満足げに頷いていた。
「彼に気に入られたみたいですね。さすがはローズ様です」
「さすがって……私は普段、愛されキャラではないですよ。嫌われたり怖がられたりすることの方が多いです」
私が人心掌握に長けていると勘違いしているセオに、現実を告げた。
ジェーンやナッシュなど一部の生徒からは好かれているものの、クラスの大半は、私のことを嫌っているか怖がっている。その両方の人が最も多い。
「あの拗らせ王子の婚約者を続けている人が何を言いますか。あの王子に何年も執着されるなんて、すごいことですよ? 自分なら絶対にごめんですが」
またセオが、自分は王子の側近だ、と言っているような発言をした。
口を滑らせやすい性格なのかもしれない。
「自国の王子に対して『拗らせ王子』なんて言ったら、不敬罪で捕まっちゃいますよ?」
「あっ……だ、大丈夫です。ローズ様さえ黙っていて下されば問題ありません。黙っていてくれますよね?」
「それは構いませんが、気を付けてくださいね」
「恩に着ます」
私は『死よりの者』に向き直ると、深々と頭を下げた。
「いろいろと教えてくれてありがとう。それと最後にもう一つだけ。あなたはどうして“扉”である瀬尾梅子さんを日本から脱出させてあげたの? あなたたちからしたら、“聖女”と“扉”は近くに置いておきたいんじゃないの?」
≪ “聖女”も“扉”も、我らの救世主です。脅すことなど許されるわけがありません。ですが当時は、人間を人質にして“聖女”に浄化をさせようとする勢力が強すぎました。そしてあの勢力をあのまま放っておいたら、次は“扉”が脅される番だと思ったのです。だから我は“聖女”に注目が行っている間に、“扉”を日本から遠ざけることにしました。 ≫
「……あなたたちも一枚岩ではなかったということね」
≪ 我らは人間とは違って個人の情報を共有できますが、そもそも我らも元は人間です。個体による考え方の違いは当然あります。あの世界に長くいると、似たような思想になりがちではありますがね。 ≫
もう一度『死よりの者』にお辞儀をしてから、私たちは転送魔法でウサギ小屋に帰った。
こっそり女子寮に戻り、鍵を開けた状態にしていたジェーンの部屋の窓を開けると、部屋の中ではジェーンが勉強をしながら私の帰りを待っていた。
『死よりの者』に聞きたいことはまだまだあったが、あのまま会話を続けなくて良かった。
寝ていていいと言ったものの、あのジェーンが私の帰りを待たずに寝るはずがなかった。
私が無事に帰宅したことで、ジェーンも安心して寝られるはずだ。
今夜の出来事は教えられないため、眠気が限界と言いながら、そそくさと部屋を出て行った。
だって今夜の出来事を伝えたら、ジェーンは私の帰りが遅いこととはまた別の心配をして、眠れない夜を過ごしてしまうから。
ごめんね、ジェーン。
話せる段階になったら、きっと話すからね。
――――――――――――――――――――
※次回更新は、6月6日(木)予定です。
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