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【第四章】 町での邂逅
第71話
しおりを挟む「あんなに威力が出るとは思わなくて……」
「はい、すごかったです! 相手を殺してやろうという気持ちの溢れた攻撃でしたね!」
「殺してやろうなんて気は毛頭無くて……」
しかし外野からはそのように見えていたのだろう。
実際に埴輪のパンチはものすごい攻撃力だった。
「ローズの魔力は、威力の出し過ぎに注意しないといけないみたいね」
そう言いながら、足が濡れて気持ちが悪かった私は、ポケットからハンカチを取り出そうとした。
するとポケットの中で紙の感触があった。
取り出してみると、ポケットの中には小さな紙が入っていた。
「なにこれ……」
果し状か脅迫状か、はたまたラブレターか。
折りたたまれた紙を見ただけでは、何が書かれているものなのかは判別できない。
ハートのシールでも貼られていればすぐに目的が分かるのだが、ただの真っ白な紙だ。
それにしても、いつこんなものを入れられたのだろう。
今朝制服を着たときには、紙なんて入っていなかった。
だから紙が入れられたのは確実に今日なのだが、心当たりがない。
「何が書かれているのかしら」
折りたたまれた紙を開くと、紙にはこう書かれていた。
『 親愛なるローズ・ナミュリー様
とても大事な話があります。
本日午後6時、女子寮前でお待ちください。
なお、大変勝手なお願いですが、この手紙の件は内密にお願いします。 』
差出人の名前はない。
この手紙の差出人は一体誰だろう。
今日、制服のポケットに紙を入れられる距離まで接近したのは、朝に生徒会室で話した六人。
ウェンディ、ジェーン、ナッシュ、ルドガー、エドアルド王子、セオ。
誰が何の目的で私にこんなものを書いたのだろう。
差出人も分からないのに、手紙に書かれた通りに行動してもいいものだろうか。
「ローズ様? どうかしましたか?」
「う、ううん。何でもないわ」
ジェーンに尋ねられたが、手紙のことは伏せておくことにした。
私は手紙を再びポケットにしまうと、ハンカチで足を拭き始めた。
* * *
悩んだ結果、私は呼び出された時間に女子寮の前へ行くことにした。
私に手紙を出した目的は分からない。
しかし手紙のことを考えて悶々としているよりは、いっそ本人から話を聞いた方がスッキリすると思ったのだ。
時計を気にしながら、相手の到着を待つ。
午後五時五十五分。
相手はまだ来ない。
午後六時。
待ち合わせ時間だが、相手はまだ来ない。
午後六時十分。
時間を過ぎたのに相手は来ない。
もしかして自分が待ち合わせ時間を間違えているのかもと思った私は、再度手紙を確認することにした。
そこで気付いた。
自分のあまりの愚かさに。
「やられた!」
ぐしゃりと手紙を握りしめる。
「この手紙……日本語で書かれているわ」
手紙はこの世界の文字ではなく、日本語で書かれていた。
あまりにも自然にこの世界の文字が読めるため、同じく自然に読める日本語に、違和感を覚えなかったのだ。
「ということは、この手紙の差出人は……私が日本語を読めるのか知りたかった?」
つまり私と話をすることではなく、私がここへ来るかどうかを確認すること自体が、差出人の目的。
差出人の思惑に気付いた私は、急いで辺りを見回したが、もちろん誰の姿もない。
「私以外にも転生者がいるの!?」
だとすると、転生者は誰だろう。
原作ゲームで攻略対象になっている、ナッシュ、ルドガー、エドアルド王子、セオの誰か?
それとも第一の被害者を脱したジェーン?
原作ゲームで主人公のウェンディ?
ただの勘だが、ウェンディが怪しい気がする。
だって原作ゲームのウェンディは、ローズのことをにらんだりはしなかった。
しかしこれはあくまでも私の勘がそう言っているだけで、ウェンディが転生者である証拠は何一つない。
しらばっくれられたら、それまでだ。
それに気になるのは、ウェンディもしくは他の誰かが転生者だとして、私が転生者だと知って何をしたいのか、だ。
ただの興味だろうか。
それとも転生者仲間が欲しかった?
……しっくりこない。
仲間が欲しかったのなら、手紙を使って自身の正体を明かさずに、私が日本語を読めることを確認するだろうか。
かなり慎重な人物なのだろうか。
それとも。
「転生者じゃ……ない?」
いくら首を捻っても、ここで結論が出るわけもない。
そういうときはどうすればいいのか。
……行動あるのみだ。
私は手紙を握りしめながら、女子寮のウェンディの部屋へと向かうことにした。
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