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【第四章】 町での邂逅

第70話

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「第一試合の生徒、前へ」

 教師の声で、私と私の対戦相手となる生徒が前へ出た。
 他の生徒たちは、私たちを囲むように半円形に座っている。

 ジェーンには大きなことを言ったものの、私が使えるのは粘土を動かす魔法のみ。
 果たしてこの状態を、ローズの魔力量でどうにかすることは出来るのだろうか。

「ローズ様、頑張ってください」

 不安になってジェーンを見ると、ジェーンが胸元で両手を振りながら応援してくれた。
 ちなみにジェーンを見る際に、ウェンディも目に入った。
 ウェンディはジェーンとは真逆で、私のことをにらんでいた。
 他にも、私のことをにらんでいる生徒は多かった。

「いつの間にこんなに嫌われたのかしら」

 マーガレットの言っていた通り、ウェンディがローズのやってきたことをみんなに伝えたせいかもしれない。
 あれは『死よりの者』を倒すための行動で、決してウェンディを嫌ってやったことではないのだが……そんなことは言えないため、やはり力で屈服させるしかない。
 今はまだにらんでいるだけだが、このまま対策をしないでいたらエスカレートするのは目に見えている。

「力で屈服させるしかない、か。本当に悪役令嬢みたいね」

 さて、問題はどうやって戦うかだ。
 私が使えるのは、粘土を動かす魔法のみ。

 ……果たしてそんな限定的な魔法があるだろうか。
 人生で粘土を動かす機会がそうそうやってくるとは思えない。

 それならあの魔法は粘土を動かす魔法ではなく、もしかして。

「試合始め!」

 開始の合図と同時に、対戦相手の生徒が水魔法を放ってきた。
 カッコイイ。
 早く私も使えるようになりたい。

 ……と、そんなことを考えている場合ではなかった。

 私は水魔法を間一髪のところで避ける。
 しかし足には水の飛沫がかかってしまった。
 靴の中に水が入って気持ち悪い。

「でも、水魔法を使ってくれたのは好都合ね」

 私は水を浴びて泥と化した地面に向かって魔法を掛けた。
 すると泥がみるみるうちに形を作り、巨大な埴輪になった。

 私が授業で習った魔法は、粘土を動かす魔法ではなく、物を動かす魔法だった。
 そのため泥を動かして埴輪を形作ることも可能だと考えたのだ。
 もちろん、ローズの魔力量があってこその魔法だが。

「さあ、どんな魔法でもどんとこいよ!」

 対戦相手の生徒は埴輪を崩そうと、風魔法を放ってきた。
 もうそんな授業をしているなんて。
 水魔法も風魔法も早く使ってみたい。

 またしても意識が逸れてしまった。
 その間に対戦相手の生徒が放った風魔法が埴輪の腕を切った。
 ……が、すぐに私の魔法で腕をくっつける。

「じゃあ、今度はこっちから行くわよ!」

 くっついたばかりの腕で、対戦相手の生徒にパンチを繰り出す。
 さながらロボットアニメの戦闘シーンのようだ。

「ローズ様あー、カッコイイですー!」

 後ろからジェーンの声援が聞こえた。
 しかし聞こえた声援はジェーンのものだけだった。
 他の生徒たちからは悲鳴が飛んでくる。

 埴輪のパンチが、対戦相手の生徒を吹っ飛ばしたのだ。

 …………あ。
 さすがにあそこまでやるつもりは無かったのだが。

 吹っ飛ばされたせいで校舎の壁に叩きつけられそうになった生徒に、教師が慌てて魔法を掛けた。
 そのおかげで衝突の際の衝撃は吸収されたようだ。
 しかし生徒は気絶をしていた。

「ご、ごめんなさいね」

 やり過ぎたと反省して謝ったが、気絶をしている生徒の耳には届いていないだろう。

 その後、気絶した生徒は保健室へと運ばれた。
 そして第二試合と第三試合の生徒は対戦相手の変更を申し出て、その二人で戦うことになった。

 どうやら私は、相手を屈服させることには成功したが、大切な何かを失ってしまったようだ。
 生徒たちは私と目が合うと、全員急いで目を逸らした。



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