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【第四章】 町での邂逅
第69話
しおりを挟む三限目の授業は、私の大好きな魔法の授業だった。
元の世界には魔法がなかったため、どうしても座学よりも魔法を使った授業を楽しいと感じてしまう。
しかし前回と違うのは、教室ではなく校庭で授業を行なっている点だ。
私が授業を休んでいる間に、外で使うような強力な魔法を学ぶ段階になってしまったのだろうか。
授業について行けるか不安になってきた。
「今日は今まで習った魔法を使って、簡単な対戦をしてみましょう」
魔法学の教師が、いきなりマズいことを言い出した。
私が使えるのは、最初の授業で習った粘土を動かす魔法だけだ。
これでどう戦えというのだろう。
「どうしましょう、ローズ様。対戦なんて怖いです」
教師の発言を聞いたジェーンが、不安そうな顔で私を見上げていた。
ジェーンは優秀だが、対戦形式のものが苦手らしい。
前に、ボールの当て対決が怖いから体育の授業が嫌いだと言っていた。
「それなら私と組んだらいいわ。私は間違ってもジェーンを再起不能になんてしないから」
「ローズ様……!」
ジェーンとの魔法対戦は、私だって望むところだ。
ジェーンなら絶対に、悪意のある攻撃をしてはこない。
出来レースのようで若干気が引けるが、ここは上手いこと手加減し合ってやり過ごそう。
「はい、じゃあ出席番号一番の人から、相手を指名してくださいね」
「相手はローズ・ナミュリーさんでお願いします」
「分かりました。では出席番号二番の人は誰にしましょうか」
「私もローズ・ナミュリーさんでお願いします」
「あなたもですか? では出席番号三番の……」
「ローズ・ナミュリーさんでお願いします」
私の作戦は、瞬く間に消し飛んだ。
二人組を作って対戦をするのではなく、一人ずつ好きな相手を指名するルールだったからだ。
しかも相手が被ってもお構いなしだ。
「ローズ様……どうやら指名制みたいです」
私は一気に三人の生徒に指名をされてしまった。
彼女たちの顔を見る限り、私のことが好きで指名をしてきたわけではないのだろう。
彼女たちは殺気に満ちている。
「ローズ様、あの人たち……授業にかこつけて合法的にローズ様に危害を加える気です」
「みたいね」
彼女たちは、ウェンディに心酔していた生徒だ。
この機に、ウェンディをいじめる目障りな私に痛い目を見せてやろうという魂胆だろう。
私はウェンディをいじめているつもりはないが、そう受け取られても仕方のないことをしている自覚はある。
しかし……これは、私にとってもいい機会かもしれない。
いつまでも悪口を言わせ放題にしていると、ジェーンのメンタルに良くない。
ここらでビシッと分からせてあげるべきだろう。
「確かにいい機会かもしれないわ」
「いい機会、ですか?」
「ねえジェーン、いじめを止めさせる一番の方法って何だか知ってる?」
ジェーンは、いじめという単語にビクリと肩を震わせた。
そしていつもよりも小さな声で応えた。
「えっと……止めてくださいとお願いすることでしょうか。どれだけ辛いのかを説明して……必要であれば周りの大人も巻き込んで……」
理想的な答えだ。
きっと近くの大人から、そのように教えられているのだろう。
しかし私の答えは違う。
「悲しいことに、他人の痛みが分からない連中には、どんなに言葉を尽くしても届かないことが多いわ。それに周りの大人を巻き込むと、表面上はいじめが見えなくなるけれど、実際のところはいじめが陰湿化するだけよ」
「では、何が一番いい方法なのでしょうか」
「それはね……力の前に屈服させることよ!」
辛いからやめてと言われてやめるような人は、最初からいじめなんてしない。
いじめをするのは、性格の曲がったクズだけだ。
「ええと……目には目を、歯には歯を、力には力を、ということですか?」
困惑気味のジェーンに、畳みかけるように言葉を放つ。
「そうよ。ぶつかってきた相手を、返り討ちにしてやるの。二度といじめてやろうという気持ちが湧き上がらないくらいに、徹底的にね!」
「暴力で解決するのは、同じ穴のムジナになってしまうような……」
さらに困惑するジェーンの両肩に手を置いて語りかける。
「違うわ、ジェーン。暴力で黙らせようとするんじゃなくて、返り討ちにするだけよ。つまりカウンターよ」
「カウンター……」
「こいつをいじめるとカウンターが飛んでくる。きっと、そう思わせることが大事なんだわ」
これが、私の導き出したいじめに対抗する手段。
言っても駄目なら「わからせる」しかない。
「方法は暴力じゃなくても良いの。相手を陥れる方法はいくらでもあるわ。頭の良いジェーンなら、何通りも思いつくでしょう?」
元の世界で言うなら、いじめの現場を隠しカメラで撮影して動画に残して、公表する。
それでも足りなければ、いじめた相手の合格した大学や就職先にその動画を送りつける。
付き合った相手にも、婚約した相手にも、送りつける。
人生の節目節目にその動画を送りつけて、報いを受けてもらう。
陰湿と言われたらその通りかもしれないが、いじめをしてきた相手に手加減をしてやる義理は無い。
……『私』も、元の世界で生きている頃に、これが出来れば良かったのだが。
言うは易く行うは難し、か。
「ローズ様…………悪役っぽいです」
「悪役だっていいわ。それで自分の正義を貫けるのなら、ね」
だから。
元の世界で反撃できなかった分、この世界では全力で行かせてもらう。
「集団で一人を攻撃するような人たちにとっての悪役になら、喜んでなってやろうじゃない!」
だって今の私は、誰よりも自由に生きるローズ・ナミュリーなのだから。
「せいぜい夜道に怯えるがいいわ!」
「ローズ様、素敵です! 見惚れるような悪女です!」
気付くとジェーンが目を輝かせながら、拍手をしていた。
……あれ。
もしかして私、また悪役令嬢やってる?
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