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【第四章】 町での邂逅

第67話

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「王はどうして約束を守らなかったの?」

 私の素朴な疑問に、ジェーンは悲しそうに眉を下げた。

「たぶんですが……聖力を浴びた『死よりの者』が消滅するからです。『死よりの者』が減ることは、戦力が減ることを意味します。王は戦力を減らさずに戦争を続け、利益を得たかったのです」

「そんなの酷いじゃない」

 ジェーンは私の言葉に頷くと、話を続けた。



「王のこの行ないには、さすがの『死よりの者』も黙ってはいませんでした。
 あるとき『死よりの者』が全員で王宮に乗り込み、王を殺害しました。

 王が殺されたことで戦争は一時中断されました。
 幸か不幸か日本には『死よりの者』が大量に存在していたため、王が殺されても他国に攻め込まれることはありませんでした。

 しかし日本国内は混乱状態でした。
 王が殺されただけではなく、国が『死よりの者』の手綱を握れなくなっていたからです」



 王の『死よりの者』に対する扱いを考えると、王の身から出た錆と言えるが、巻き込まれる国民はたまったものではない。
 戦争は一時中断しているが、様々な国から恨みを買ってしまった。
 王の暗殺で国内が混乱している状態で、他国で『死よりの者』の対処法が判明したら、いつ攻め込まれてもおかしくはない。



「そんな中、『死よりの者』たちは聖女の前に列を作り、聖力を求めました。
 聖女は求められるまま『死よりの者』に聖力を浴びせましたが、聖力には一日の使用量に限界がありました。
 すると次の日も次の日も『死よりの者』は聖女の前に列を作りました。

 その後の聖女の毎日は、起きて聖力を使って力尽きて寝る、というものでした。
 当然、長くは持ちませんでした。
 聖女は『死よりの者』に休息をお願いしました。

 しかし戦争を体験した『死よりの者』は、これまでの温厚な彼らではありませんでした。
 いいえ、戦争よりも王に騙されたことが彼らを温厚さから遠ざけたのでしょう。
 彼らは聖女が休むことを許しませんでした。

 『死よりの者』は、聖女が聖力の使用を拒むたびに、人間を一人殺しました。
 聖女が泣いて聖力の威力に問題が出ると、人間を一人殺しました。
 聖女の起床が遅いと、人間を一人殺しました。
 聖女が風邪を引くと、人間を一人殺しました。
 聖女が部屋から出ようとすると、人間を一人殺しました。

 聖女は国民が殺されないように、一生懸命『死よりの者』の要求に応えました。

 しかしある日、聖女は聖力を使わなくなりました。

 そのため『死よりの者』は人間を大量に殺しました。
 聖女が聖力を使うまで、人間を殺して殺して殺して殺して殺しまくりました。

 けれど、聖女は聖力を使いませんでした。

 使わなかったのではなく、使えなかったのです。
 度重なる心労で、聖女は狂ってしまったのです。

 国民もただ殺されるのではなく『死よりの者』に抵抗しましたが、聖力以外で『死よりの者』を退治することは出来ず……島国には一人の人間もいなくなりました」



 ここまで話したジェーンは、ゆっくりと息を吐いた。

「以上が、本に書いてあった『死よりの者』の話です」

 生徒会室に静寂が流れた。
 私もジェーンの話を聞いて、何を言っていいのか分からなかった。

「取りに帰ってもらっておいて言うことではないけれど……その本は信用できるものなのかな?」

 静寂を破ったのは、エドアルド王子の言葉だった。

「日本の滅亡が詳細に書かれた本は存在しない、ことになっている。日本人は全員死んでしまったからね。それなのにどうしてそんな本が存在するんだろうね」

「それは……分かりません。日本脱出を試みた人がいたのかもしれません」

「絶対に無理とまでは言わないが、島国から脱出するのは簡単なことではないはずだ。話を聞く限り、国に大量に存在し、島民を殺しまくっていた『死よりの者』たちが、脱出を見逃すとも思えない」

 日本の滅亡を書いたこの本が、どうやって日本から持ち出されたのか。

 この疑問が解消されない限り、本に書かれている内容は眉唾物だ。
 聖力で『死よりの者』が消滅する部分と、『死よりの者』が聖力を避けない部分は、私の知っている情報と一致するが、それ以外に関しては判断のしようがない。

「ジェーン、その本をちょっと見せて」

「え? もちろん構いませんが、この本は日本語で書かれているので辞書が無いと解読できないと思いますよ」

 私はジェーンから受け取った本を開いてパラパラと中を軽く読んでみた。
 紛うことなき日本語で書かれている。
 文法的におかしな点もない。

「ローズ様、日本語が読めるのですか?」

「……ううん。日本語ってどんな文字なのかな、って興味が湧いただけ」

 ローズが日本語を読めるのはあまりにもおかしいので、適当に誤魔化すことにした。
 誤魔化しつつ、本の最後のページに書かれているだろう著者名も確認してみた。
 こちらも紛うことなき日本人の名前だった。



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