悪役令嬢は扉をあける~乙女ホラゲの悪役になったのでホラーフラグは折りつつ恋愛フラグは回収します!?~

竹間単

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【第三章】 旧校舎で肝試し

第52話 真相の断片

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「ハロー、いつでも美人なローズちゃんで~す。本当にあたしって美人よね~、あなたもそう思うでしょ? もともとの赤髪も似合ってたけど、黒髪は黒髪で神秘的な感じがしてイイと思うのよ。やっぱり素材が良いと何でも似合っちゃうのよね~」

 相変わらずローズはへらへらとした笑顔を浮かべながら登場した。

「さてさて、今日は何の話をしようかな。『死よりの者』の話はいっぱいしたから、今日は視野を広げて国についての話をしましょうか。今あなたがいるこの国の名前は分かる? 学園名にもなっているからさすがに分かるわよね。ハーマナス王国よ」

 そういえば、原作ゲームでもそんな設定だった。
 ほとんどが学園の中での出来事のため、あまり国については触れられていなかったが。

「国が運営している学園だから、ハーマナス学園。国には学園が他にもあるけれど、国が運営しているのはこの学園のみ。あとは全部私立の学園よ。王子殿下がこの学園に通っているのも、ここが国の運営する学園だからなの。よく分からない私立の学園に通って、王子殿下を利用しようと企む輩に変な教育をされたらたまらないからね」

 この学園は国の運営だったのか。
 そういえば学園内では外での階級は適用されず、平民も貴族も平等な扱いを受けている。
 なるほど、それは学園が国営だからこその対応なのか。
 ただし、上納金の多さで部屋のランクが変わる寮は、国営ではないのかもしれない。
 身分を排除した平等な学園を作っているのに、寮がこれではちぐはぐだ。きっと寮を作るまでには複雑な事情があったのだろう。

「そしてハーマナス王国は、貧富の差が激しい国なの。いいえ、貧富の差が激しいというよりも……金持ちなのは一部だけ。貧しい人たちの方がずっと多いわ。学園内は貴族ばかりだから気付かなかったでしょ? 学園内にいる平民だって、学園に通っている時点で裕福な方だわ」

 気付かなかった。
 原作ゲーム後半に出会うミゲルは貧乏だったものの、町自体はそれほど貧しくは見えなかった。

「町は一見普通だけど、一歩路地裏に入れば、ゴミを漁る子どもたちや物乞いたちの姿が見られるわ」

 ローズは私の疑問を想定していたらしく、すぐに答えをくれた。

「ハーマナス王国には、鉱山や油田が無い。海に面していないから海産物も採れない。優れた技術も設備も持っていない。この国には、他国に輸出をする力が無いのよ」

 寮で食べる食事はどれも美味しかったが、言われてみると海産物はほとんど入っていなかった。
 それに原作ゲームでは、最先端技術は一切登場しなかった。
 それはこの世界が技術の代わりに魔法を発展させてきたからだと思っていたが、もしかすると単にゲームの舞台であるハーマナス王国が発展途上国だったからなのかもしれない。

 魔法や剣術の授業にばかり気を取られていたが、地理や世界情勢についても勉強しておいた方が良さそうだ。

「そんな国でも、唯一、優秀な魔法使いになることが出来れば、貧乏から抜け出せる。強力な魔法が使えれば、出来ることの幅が格段に増えるからね。この国で金持ちなのは、優秀な魔法使いの血統ばかりなのがその証拠よ」

 公爵家であるローズの両親は強力な魔法使いだ。
 その強力な魔法使い同士の子であるローズは、いわばサラブレッドである。

「でもね、こんなダメダメな国だけど、王が悪いわけでもないのよ。王の失策のせいだったら、革命が起きれば国の状況は変わるけれど、そういうわけじゃない。このままでは誰が王になろうとも、この国は豊かにはならないでしょうね」

 ローズは、ローズにしては珍しく、疲れた表情で長い溜息を吐いた。

「あたしが王妃候補だから言うわけじゃないけれど、むしろ王はよくやっていると思うわ。だってこんなにもダメな国なのに、他国に占領されていないんだから。帝国にすり寄ってお金を渡して守ってもらうっていうプライドの無い方法だけれど、それでも他国に蹂躙されるよりはマシだわ」

 確かに今の話を聞くと、国自体がとても弱いように思える。
 この状態で他国に侵略されていないのなら、それだけでも頑張っていると言えるのかもしれない。

「だって考えてもみて。戦争になったら、ろくにご飯も食べていない人たちが戦いに出るのよ。勝てるわけがないじゃない。だから帝国にお金を渡して守ってもらうしかない。プライドでは、人の命は守れないのよ」

 プライドでは人の命は守れない。
 ローズは今の言葉を、自分に言い聞かせているようだった。

「その結果、帝国に渡す金を工面する必要が出て、この国は貧乏になっている。よくないスパイラルね。でもここから抜け出す方法を、誰も知らない」

 ここまで話したローズは、一旦俯くと顔を上げた。
 その顔は俯く前と違って、またいつもの明るい表情に変わっていた。

「な~んか暗くなっちゃったね。まあ貧乏だけど、悪い国ではないわ。土も気候もそこそこいいから、木や草が育つし、竜巻や地震なんかの大きな災害も起こりにくいわ」

 そして満面の笑みで、投げキスをしてきた。

「ま、そんなハーマナス王国だけど、よろしく。頑張って生きてね~!」



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