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【第三章】 旧校舎で肝試し
第42話
しおりを挟む倉庫を出て旧校舎へ向かうと、まだ集合時間になっていないのに旧校舎の前にはすでにルドガーがいた。ウェンディはまだ来ていないようだ。
今日の肝試しだが、原作ゲームでは、旧校舎内ですすり泣く声が聞こえたり、壁に血文字が書かれていたり、雨漏りもしていないのに首筋に水が滴ったりする。そして最後には、最奥の教室に潜んでいた奇妙な動きをする人物に追いかけられる。
しかしこれらの怪現象は、旧校舎に隠れていたルドガーの友人たちが行なったイタズラだった。
すべては、ウェンディに惚れていることがバレバレなルドガーとウェンディの距離を、肝試しを利用した吊り橋効果によって近づけるため。要は友人たちのお節介だ。
だから肝試しと言っても今日のこれは、危険なことなど何もない高校生の可愛らしいお遊びだと言えるだろう。
それを考えると、今日私が来ることはルドガーの友人たちにとっては誤算だっただろう。
ルドガーとウェンディをくっつけたい彼らにとって、私はお邪魔虫に違いない。
私自身もルドガーが私を誘ったことにびっくりしているくらいだ。
「ちゃんと来たんだな」
「別に私は怖がりではないから」
「んなこと言ってると、途中で俺に泣きついても助けてやらねえぞ?」
「そんなことは起こらないから安心していいわ。それより時間前なのに早いわね」
「遅刻して、怖くて逃げだしたと思われるのは癪だからな」
ルドガーの横に立ち、空を見上げる。
周辺の明かりが少ないおかげか、元の世界で見ていた星空よりもずっと綺麗な気がした。
「こんな星の綺麗な夜に、天体観測じゃなくて肝試しに誘うなんて。あなた、モテないでしょ?」
「うるせえ! はあ。お前なんか誘わなきゃよかったぜ」
「それ、私も気になってたのよね」
奇しくもルドガーから疑問に思っていた話題を切り出されたので、話に乗っかることにした。
「いくら告げ口をされないようにするためとはいえ、ウェンディとイチャイチャしたいなら、私は邪魔ではなくて? 口止めの方法なんて他にいくらでもあったでしょう?」
「はあ? 肝試しでイチャイチャはしねえだろ」
あーあ、可哀想に。
ルドガーは友人たちのお節介を理解していないのか。
これほどまでにルドガー自身に、この肝試しを通してウェンディと仲良くなる思惑が皆無だとは。
……まあルドガーが何を思っていようとも、原作ゲームではイチャイチャすることになるのだが。
「でも、それにしたって私を誘う流れはおかしくない? 別に私、あなたと仲良くはないわよね?」
「……お前、友だちいねえだろ」
「多くはないわね。いないこともないけれど」
たった数日の付き合いだが、ジェーンとは友人になったと思ってもいいような気がする。
その他は……今のところ思いつかないが。
「うわっ、そういえば俺も教室で同じようなことを言った気がする。うん、人の振り見て我が振り直そう」
朝の会話を思い出したらしいルドガーは、一人でうんうんと頷いていた。
「自省してないで教えて。あのとき、そもそも私に肝試しの話をしなければ、私がここへ来ることはなかったわ。私に肝試しのことを教えてもいいと思ったのはどうして?」
本当のことを言うと、誘われなかったら誘われなかったで、旧校舎へは偶然を装って来るつもりだったが。
「……お前が剣術部での模擬試合を見てなかったから、もっと近くで俺のカッコイイところを見せてやろうと思っただけだ。今度こそ見逃すなよ?」
「なるほど。私にカッコイイ自分を認めさせたかったのね」
得心がいったと手を叩く私のことを、ルドガーは苦々しげに見つめていた。
「お前が言うと、すべてが嫌味に聞こえるのは何故だろうな?」
「あら、ありがとう」
「褒めてねえよ!?」
まったく、と溜息を吐くルドガーの腰に剣が刺さっていることに気付いた私は、さらに彼をからかうことにした。
「武器なんか持って来ちゃって。あなた、本当は怖いんでしょう?」
「怖いわけねえだろ!?」
「怖がっている人間ほど武装するものよ」
「これは……何かあったときに戦えるのは俺くらいだろうから。女と出掛けるからには、守る用意はしておかねえとだろ」
ルドガーは養子として引き取られた騎士の家庭で、そういう教育を受けてきたのだろうか。
少し見直した。
「そんな理由だなんて知らなかったわ。立派な騎士さんをからかって、ごめんなさいね?」
「だからお前が言うと嫌味に聞こえるんだってば」
ルドガーがむくれていると、遠くからウェンディが手を振りながら近付いてきた。
ウェンディを見つけると、ルドガーのむくれ顔はみるみるうちに明るいものへと変化していった。
「遅くなってごめんね!」
「まだ集合時間前だっつーの。俺が早く来すぎただけだから気にするなよ」
分かりやすくて可愛らしい反応だ。
彼の友人たちがルドガーの片思いに協力したくなる気持ちが分かるような気がする。
「彼はウェンディさんが来ることが楽しみすぎて、早く到着しちゃったらしいわよ」
「んなこと一言も言ってねえけど!?」
「まあルドガーったら、そんなに肝試しが楽しみだったのね!」
「んなことも言ってねえけど!?」
まだ何か言いたそうなルドガーの背中を押した。
「全員揃ったんだから、早く旧校舎に入りましょう。このままだとここでお喋りをしているうちに夜が明けてしまうわ」
「お、おう」
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