悪役令嬢は扉をあける~乙女ホラゲの悪役になったのでホラーフラグは折りつつ恋愛フラグは回収します!?~

竹間単

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【第二章】 たとえ悪役だとしても

第31話

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 昼休みになったので食堂へ行こうとすると、ドアの前で手招きをしている生徒がいた。
 昨夜『死よりの者』の犠牲になる予定だった二年生の生徒だ。
 横には私と同じく彼女に呼ばれたのだろうウェンディもいた。

「ちょっとだけ時間をもらってもいいかな。昨日のこと、もう誰かに話した?」

 すっかり忘れていた。
 だって夢にローズが出てきたり、クラスメイトに脅されかけたり、魔法の授業でやらかしたり、かなり忙しかったから。

「話してはいませんわ」

 私の答えを聞いた二年生は、うんうんと頷いた。

「私も実感が無くてまだ誰にも言ってないのよね。幻覚だって言われても嫌だし。だけど、先生たちには報告をしておいた方がいいと思うの。昨日は被害が無かったけど、清掃員を殺したのはあの魔物かもしれないし」

 今度はウェンディが何度も頷いていた。

 少し未来に『死花事件』の犯人として処刑が待っているローズとしては、この件は内密にしておきたい気もする。しかしここで秘密にしたいと言ってしまっては、二人に怪しまれるかもしれない。
 今後のことを考えるなら、ウェンディに疑念を持たれる展開だけは避けたいところだ。

「分かりました。では先生方に報告をしに行きましょう」

「よかったー! 実は私だけで昨夜の出来事をきちんと話せるか不安だったから二人を誘ったんだよね。そもそも一番の功績者を置いて私だけで報告しに行くのも変な感じだし」

「それならウェンディさんだけで良かったのではありませんか?」

「こういうのは人数がいた方が、信憑性が上がるのよ」

 言うや否や、二年生の生徒は私の手を引いて職員室まで歩き始めた。
 ふと見るとウェンディも手を繋がれている。私もウェンディも彼女とは昨夜が初対面のはずだが……。
 よく言えばコミュニケーション上手、悪く言えば他人との距離間がおかしな人なのかもしれない。


   *   *   *


 二年生の生徒に連れられて三人で教師に昨夜の報告をした帰り、彼女は昨夜助けてくれたお礼と言ってランチを奢ってくれた。


「それでさ、昨日の魔物の話なんだけど……あの魔物、何なのか知ってる?」

 食後の紅茶を飲みながら、二年生の生徒が話を切り出した。

「いいえ、あのような魔物は初めて見ました。王国に出没する魔物については一通り勉強したつもりですが……」

「そうよね。私もあんな魔物は初めて見たもの」

「私も分かりません。人間の言葉を喋るということは、知性の高い魔物だと思いますが」

 私の言葉を聞いた二人が、一斉に私のことを見た。

「え? なに!?」

 二人はお互いに顔を見合わせてから、また私のことを見た。

「魔物が話していたの? 私には聞こえなかったけど」

「私も聞こえませんでした」

「えっと……話すと言うか、テレパシーが頭の中に響いてきたと言うか……」

「私はテレパシーも聞こえなかったわ」

「私もです。なんだか頭がキーンとはしましたけど……ローズさんにはあれが言葉に聞こえたのですか?」

 一体どういうことだろう。
 確かに魔物は言葉を話していたのに、二人には聞こえなかった?
 しかし、私の幻聴で済ませるには、あまりにもはっきりと聞こえたし……。
 だけど私だけが『死よりの者』の声を聞けるとなると、仲間認定されてしまうかもしれない。
 てっきり二人にも聞こえたと思っての発言だったが、迂闊だった。

「それで、魔物は何を言っていたの?」

「えっと……やっぱり私の気のせいだったかもしれません。怖くて幻聴が聞こえちゃったみたいです。ああっ、幻聴って怖いわぁ!」

「今さっき頭の中にテレパシーが響いてきたと言っていませんでしたか?」

「テレパシーにも幻聴ってあるんですね。やっぱり幻聴って怖いわぁ!」

 ここから幻聴に持って行くのは強引な気もしたが、迫真の演技で押し通した。

「ねえ、魔物の話よりおしゃれの話をしませんか? 令嬢が集まったら、流行りのドレスや宝石の話題で盛り上がるものと相場は決まっていますもの」

 そして無理やり話題の変更を行なった。
 流行りのドレスや宝石の話題など何も知らないが、下手に魔物の話をしてボロが出るよりはいいはずだ。

「この状況でおしゃれの話? あなたって噂に違わず強いのね」

「そうですか? オホホホホ」

「ですがローズさんの申し出も一理ありますね。怖いときに怖い話をしては一層恐怖心が増しますから。楽しい話をするのはいいかもしれません」

 意外なことに私の話にウェンディが乗ってくれた。
 そして二年生の生徒もウェンディの意見に賛同したようだった。

「おしゃれと言えば、ローズさんの爪の着色はとても綺麗よね」

「私も思っていました。高級感がありますよね」

 二人に言われて自身の爪を確認する。
 黒一色で彩られた爪は、悪役らしくはあるがローズにとても似合っている。

 …………あれ。
 原作ゲームのローズはこんな爪だっただろうか。

 それこそおしゃれで爪の色を変えているのかもしれないが、ローズの爪が黒かった記憶はない。
 はて、と首を傾げる。

「どうしましたか?」

「あっ、何でもないの。ちょっと着色にムラを見つけちゃっただけ」

「その美しさで満足しないなんておしゃれ上級者は違うね。私ももう少しおしゃれに気を遣おうかな」

「おしゃれと言えば私の住んでいた村で流行っていた髪型が可愛くて。村なので洗練されてはいないかもしれないですが」

「なになに、教えて!」

 適当な返事をすると二人はおしゃれ話に花を咲かせ始めた。
 しかし私はどうしても自分の爪が気になってしまい、二人の話は頭に入って来なかった。

 なぜなら原作ゲームの冒頭、入学式でローズの爪は黒くはなかった。
 私がローズになってから黒く染めたわけではないから……原作ゲームのローズは元々黒かった爪の着色を入学式直前に落とした?
 何のために?
 爪の色を変えてはいけないという校則は無かったはずだ。
 そうではないとしたら…………私がローズになった瞬間もしくは私がローズになる前に、すでに原作ゲームとは相違点が生まれていた?



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