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【第二章】 たとえ悪役だとしても

第26話

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 手持ちのランプで足元を照らしながら、ウェンディと一緒に女子寮内を歩く。

「ここまで真っ暗にしなくてもいいのに」

「夜は寝なさい、ということでしょうか?」

「だとしても。いざというときのために、もっと明かりが必要よ」

 コツ、コツ、コツ、コツ。
 暗く静かな廊下に、二人分の靴音だけが響いている。

「…………」

「…………」

「…………ウェンディさんは、入りたい部活はあったかしら?」

 沈黙に耐えかねて話を振った。
 まだ悪役令嬢としてウェンディをいじめていないから、嫌われてはいないはずだ。
 ……本人の見ていないところで、鍵を盗んだり部屋に入ったりはしているが。

「剣術部に幼馴染が入るそうだから、剣術部のマネージャーをやるのもいいなと思っています」

 なるほど。
 ということは、このウェンディはルドガー狙いだ!
 原作ゲームでは、剣術部のマネージャーになることでルドガーと接する機会が多くなり、必然的に好感度が上がりやすくなる。

「お花が好きだから、園芸部にも興味があります」

 ということは、ナッシュ狙いだ…………え? どっち?
 園芸部はナッシュが所属する部活動だから、園芸部に入るとナッシュと会う機会が多くなる。

「馬術部も楽しそうですよね」

 それは馬の世話を通してセオと親しくなるルートだ。
 好感度が上がると、乗馬の方法をセオに直々に教わるイベントも発生する。

「でも、生徒会にも入ってみたいです」

 それはエドアルド王子を狙うときのやつ。
 放課後の生徒会室でエドアルド王子と二人きりで仕事を片付けつつ、仲良くなっていく。

「それに町でアルバイトもしてみたいです」

 それはミゲルと知り合って、盗賊団の抱える問題を解決するイベントが発生するルート。
 町でアルバイトをすることによって、通常よりもミゲルと知り合うタイミングが早くなる。

 ……って、全部だ。
 このウェンディは、どのルートにも進む可能性がある。

「…………ウェンディさんは、やりたいことがたくさんあるのね」

「はい!」

 ウェンディとお喋りをして、あわよくば誰を攻略しようとしているのか知ろうと思ったのに、余計に分からなくなってしまった。

 原作ゲームでは、主人公と同じ部活動や委員会に所属する攻略対象と出会う回数が多いというだけで、別の部活動に所属している攻略対象とエンディングを迎えることも可能だ。
 だから所属する部活動はウェンディの狙う相手を絞る参考程度にしかならないのだが、参考程度にもならなかった。

「……ここね」

 そうこうしているうちに、一階の女子トイレに到着してしまった。
 時計を見ると、ゲーム内で『死よりの者』が現れたとされる時間まで、まだ少しある。

「うわ、早すぎた」

「早すぎたとは、何がでしょうか?」

「……いいえ。思ったよりも早く到着したので驚いただけです。廊下はもっと長いと思っていたので」

 苦し紛れの言いわけをしてみた。
 これで納得してくれただろうか。
 周りが暗いためにウェンディの表情は見えない。

「ここまで暗いと、自分がどれだけ歩いたか分からなくなりますよね」

「そうよね!?」

 よかった。
 ウェンディは自分なりの理由を付けて納得してくれたようだ。

 あとは『死よりの者』が現れる時間になるまで、鍵を探すフリをして女子トイレにとどまっていればいい。

 などと考えていると、女子トイレに新たな生徒がやって来た。
 ランプを持ち上げて、やってくる生徒の顔を照らす。

「……よし」

 この生徒の顔は知っている。
 二人目の犠牲者になる予定の二年生の生徒だ。

「えっ、木刀!?」

 二年生の生徒は、私がランプと反対の手に木刀を持っていることに気付いて、一歩後ずさった。
 私に攻撃されるとでも思ったのだろうか。

「昨夜事件がありましたので、念のため」

「なんだあ、そういうことか」

 彼女は私の言葉に納得すると、トイレの個室に入った。
 きっと彼女がトイレから自室に戻るときに『死よりの者』に出くわすのだろう。

 彼女が個室から出てくるのを待っている間、私はランプで女子トイレの床を照らして鍵を探しているフリをした。
 彼女を守るのが一番の目的だが、きちんと鍵を探しているフリもしなければ、ウェンディに怪しまれてしまう。

 少しして、個室から出てきた生徒は、変わらず女子トイレにいる私たちを不思議そうに眺めつつ、トイレから出て行った。
 慌ててその後を追う。

「どうかしましたか?」

 生徒を追いかけた私の背中に、ウェンディの訝しげな声が降ってきた。

「あっ、えっと……あっちで何かが光ったような気がしました!」

 咄嗟にウェンディにそう告げると、ウェンディも私の後ろについてきた。
 その瞬間。


「キャーーーッ!!!」


 曲がり角を曲がった生徒が、悲鳴を上げた。



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