28 / 102
【第二章】 たとえ悪役だとしても
第26話
しおりを挟む手持ちのランプで足元を照らしながら、ウェンディと一緒に女子寮内を歩く。
「ここまで真っ暗にしなくてもいいのに」
「夜は寝なさい、ということでしょうか?」
「だとしても。いざというときのために、もっと明かりが必要よ」
コツ、コツ、コツ、コツ。
暗く静かな廊下に、二人分の靴音だけが響いている。
「…………」
「…………」
「…………ウェンディさんは、入りたい部活はあったかしら?」
沈黙に耐えかねて話を振った。
まだ悪役令嬢としてウェンディをいじめていないから、嫌われてはいないはずだ。
……本人の見ていないところで、鍵を盗んだり部屋に入ったりはしているが。
「剣術部に幼馴染が入るそうだから、剣術部のマネージャーをやるのもいいなと思っています」
なるほど。
ということは、このウェンディはルドガー狙いだ!
原作ゲームでは、剣術部のマネージャーになることでルドガーと接する機会が多くなり、必然的に好感度が上がりやすくなる。
「お花が好きだから、園芸部にも興味があります」
ということは、ナッシュ狙いだ…………え? どっち?
園芸部はナッシュが所属する部活動だから、園芸部に入るとナッシュと会う機会が多くなる。
「馬術部も楽しそうですよね」
それは馬の世話を通してセオと親しくなるルートだ。
好感度が上がると、乗馬の方法をセオに直々に教わるイベントも発生する。
「でも、生徒会にも入ってみたいです」
それはエドアルド王子を狙うときのやつ。
放課後の生徒会室でエドアルド王子と二人きりで仕事を片付けつつ、仲良くなっていく。
「それに町でアルバイトもしてみたいです」
それはミゲルと知り合って、盗賊団の抱える問題を解決するイベントが発生するルート。
町でアルバイトをすることによって、通常よりもミゲルと知り合うタイミングが早くなる。
……って、全部だ。
このウェンディは、どのルートにも進む可能性がある。
「…………ウェンディさんは、やりたいことがたくさんあるのね」
「はい!」
ウェンディとお喋りをして、あわよくば誰を攻略しようとしているのか知ろうと思ったのに、余計に分からなくなってしまった。
原作ゲームでは、主人公と同じ部活動や委員会に所属する攻略対象と出会う回数が多いというだけで、別の部活動に所属している攻略対象とエンディングを迎えることも可能だ。
だから所属する部活動はウェンディの狙う相手を絞る参考程度にしかならないのだが、参考程度にもならなかった。
「……ここね」
そうこうしているうちに、一階の女子トイレに到着してしまった。
時計を見ると、ゲーム内で『死よりの者』が現れたとされる時間まで、まだ少しある。
「うわ、早すぎた」
「早すぎたとは、何がでしょうか?」
「……いいえ。思ったよりも早く到着したので驚いただけです。廊下はもっと長いと思っていたので」
苦し紛れの言いわけをしてみた。
これで納得してくれただろうか。
周りが暗いためにウェンディの表情は見えない。
「ここまで暗いと、自分がどれだけ歩いたか分からなくなりますよね」
「そうよね!?」
よかった。
ウェンディは自分なりの理由を付けて納得してくれたようだ。
あとは『死よりの者』が現れる時間になるまで、鍵を探すフリをして女子トイレにとどまっていればいい。
などと考えていると、女子トイレに新たな生徒がやって来た。
ランプを持ち上げて、やってくる生徒の顔を照らす。
「……よし」
この生徒の顔は知っている。
二人目の犠牲者になる予定の二年生の生徒だ。
「えっ、木刀!?」
二年生の生徒は、私がランプと反対の手に木刀を持っていることに気付いて、一歩後ずさった。
私に攻撃されるとでも思ったのだろうか。
「昨夜事件がありましたので、念のため」
「なんだあ、そういうことか」
彼女は私の言葉に納得すると、トイレの個室に入った。
きっと彼女がトイレから自室に戻るときに『死よりの者』に出くわすのだろう。
彼女が個室から出てくるのを待っている間、私はランプで女子トイレの床を照らして鍵を探しているフリをした。
彼女を守るのが一番の目的だが、きちんと鍵を探しているフリもしなければ、ウェンディに怪しまれてしまう。
少しして、個室から出てきた生徒は、変わらず女子トイレにいる私たちを不思議そうに眺めつつ、トイレから出て行った。
慌ててその後を追う。
「どうかしましたか?」
生徒を追いかけた私の背中に、ウェンディの訝しげな声が降ってきた。
「あっ、えっと……あっちで何かが光ったような気がしました!」
咄嗟にウェンディにそう告げると、ウェンディも私の後ろについてきた。
その瞬間。
「キャーーーッ!!!」
曲がり角を曲がった生徒が、悲鳴を上げた。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる