悪役令嬢は扉をあける~乙女ホラゲの悪役になったのでホラーフラグは折りつつ恋愛フラグは回収します!?~

竹間単

文字の大きさ
上 下
26 / 102
【第二章】 たとえ悪役だとしても

第24話

しおりを挟む

**********

「全部、あなたの仕業だったんですね!?」
「今さら気付いたの? お馬鹿さんね」
「どうして!? 『死よりの者』にみんなを襲わせるなんて、どうしてそんな酷いことが出来るんですか!?」
「それが嫌ならあんたが止めればよかったじゃない。ご自慢の聖力とやらで」
「……あなたには、何を言っても無駄なんですね」
「だったら何? もう遅いわよ」
「このっ、ローズ!!!!!」
「さようなら。お馬鹿で可愛いウェンディ。せいぜい最後まで足掻いてみせなさい?」


――――――ガチャリ。


BAD END

**********



「確か『死花の二重奏』のバッドエンドは、こんな感じだったわね」

 手持無沙汰になった私は、原作ゲームのバッドエンドを紙に書き出していた。
 この後、『死よりの者』によって滅茶苦茶にされた学園のイラストが一枚表示され、その上をスタッフロールが流れる。
 バッドエンドだとしても、乙女ゲームとは思えないエンディングだ。

「私が処刑されないようにするのはもちろんだけど、この結末も避けたいわね」

 明確な描写はされてはいないが、エンディングのイラストを見る限り、学園の荒れ方は凄まじい。きっと多くの生徒が死んでしまったことだろう。

「さすがに私が『死よりの者』を操らなければ、あのバッドエンドには行き着かないと思うけど……それにしても遅いわね」

 夕食を済ませてシャワーも浴びたが、ウェンディが戻ってくる気配はない。
 ナッシュはずいぶんと長い間、時間稼ぎをしてくれているらしい。

 ウェンディの部屋に入って図書館の鍵を盗むだけだから、ここまで時間稼ぎをしてくれなくてもよかったのだが。
 でもそのおかげでシャワーを浴びることが出来たのはありがたかった。

 長い髪をタオルで乾かしながら窓の外を眺める。
 いつウェンディが帰ってくるか分からないから烏の行水だったが、元社畜の私にとっては簡単なことだ。
 普通の令嬢が髪さえ洗い終わらないだろう短時間で、全身をくまなく洗い上げることが出来る。
 ローズの長い髪を乾かすのだけは時間がかかりそうだが、髪は窓の外を監視しながら乾かせばいい。

「こんなことなら、ウェンディの日記を読んでくるべきだったかしら」

 安全策をとってウェンディの部屋では日記を読まず、かといって日記を持ち去りもせずに帰ってきてしまったが、案外読んでいても問題なかったかもしれない。

「……って、ダメよ。他人の日記を読むなんて。それに危険をおかして退学にでもなったらどうするの」

 思わず自分で言った言葉を自分で否定した。
 時には危険をおかす必要があるが、あの場でそんなリスクを取るだけのメリットは無かった。
 攻略対象について書かれているかどうかも分からないウェンディの日記を読むために退学のリスクをとるなんて、どう考えても馬鹿げている。


「……なんて考えているうちに、二人が戻ってきたようね」

 女子寮にやってくる二つの人影が見えた。
 寮に近づくにつれ、顔がはっきりしてくる。
 間違いない。
 ウェンディとナッシュだ。

 ウェンディの部屋の鍵を置いた辺りまでやって来たナッシュが、何かに気付いたような動作をした。
 三階の私の部屋から見てその動作に気付けるのだから、近くから見たら過剰な演技だろう。
 今度こそウェンディに不審がられるのではないだろうか。

 不審がられたかどうかは二人の会話が聞こえないから判明しないが、ウェンディとナッシュは二つの鍵を見比べて、持っている鍵を交換したようだった。

「順調ね。さあ、この後も計画通りに動いてくれるかしら」

 私はブラックコーヒーを片手に、そのまま窓の外を眺めていた。


   *   *   *


 約一時間後。
 慌てた様子のウェンディが女子寮を飛び出てきた。

 エドアルド王子から借りていた図書館の鍵が無いことに気付いたのだろう。
 失くした鍵は今夜探すにしても、取り急ぎ一緒に図書館へ行くはずだったセオに中止の連絡をしなければならない。

 女子寮の前にセオが待機していることも確認済みだ。
 忙しいだろうに、三十分も前から待機している。
 しかもウェンディに目印にしてもらうためなのか、用務員の格好のままで。

 女子寮を飛び出したウェンディは、辺りを見渡してセオを発見すると、何度も頭を下げていた。
 しかし、さすがに鍵を失くしたとは言っていないだろう。
 エドアルド王子から借りた鍵を失くしたなどと言えるわけがない。
 大方、急に体調が悪くなったとでも説明しているのだろう。

 セオはウェンディにお辞儀をして、女子寮から去って行った。
 三十分も待ち続けて、待っていた相手に約束を断られるのは少し気の毒だ。
 ……私のせいなのだが。

 見たかったものを確認した私は、ほっと息を吐いた。

「無事に今日の図書館イベントは中止になったようね」

 このためにどれだけの危険をおかしたことか。
 本番はこれからだが。

「ごめんなさいね、ウェンディ。でも『死よりの者』の退治が終わったら、ちゃんと図書館の鍵は返すから。怒られはしないわよ」

 誰にともなくそう言って、何杯目かのブラックコーヒーを飲み干した。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...