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4 一度目の人生

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 今回の私は、人生四度目だ。
 死んだはずの私は、なぜか時間を遡ってしまった。それも三回も。

 最初の回帰では相当驚いたが、それが四度目ともなると慣れたものだ。

 またか。

 回帰の感想は、その三文字で終わりだった。

 私が国を滅亡させたから責任をとってやり直せ、ということなのだろう。
 そう。私は、これまでの三度の人生で、国を滅亡させている……。


   *   *   *


「キャーッ、助けてー!」
「森から魔物がやって来たぞ!」
「早く何とかしてくれ!」

 一度目の人生で、私は町民たちとともに魔物から逃げ回っていた。
 町に魔物の大群が押し寄せ、警備兵だけでは首が回らなくなっていたのだ。
 魔物たちは町民を襲い、食料を奪った。
 さらに町民をいたぶることを楽しむ魔物もいた。

 しかし自分が聖女だとは思ってもいない私は、町民と一緒になって逃げていた。
 後になって思えば、私がもっと早く聖力を発動させていれば被害が大きくはならなかっただろう。

 私が聖力を発動させたのは、魔物に襲いかかられたとき。
 絶体絶命の状況になってやっと、私の聖力は発動した。



「聖女様。一緒に王宮へ来ていただけますか?」

 聖力によって魔物を浄化した私は、王宮への招待を受けた。

「でも私はただの平民で……さっきのは偶然かと思います」

「偶然ではありません。偶然では聖力を使うことは出来ませんから。聖力を使えるのは聖女様だけです」

 兵士の圧に押し切られた私は、王城へと足を運んだ。



「ようこそ聖女様。お待ちしておりました。俺はこの国の王子、ルーベンです」

 城で待っていたのは、綺麗な衣装に身を包んだ青年だった。

「はっ、はじめまして。ただのジェイミーです」

「あはは。ただのって、聖女様が何を仰いますか」

 私の自己紹介を聞いたルーベンは、ふわりと柔らかい笑みで笑った。
 王宮は怖い顔をしている人たちばかりだと思っていた私は、太陽のような微笑みにひどく安堵した。

「私が聖女というのは、イマイチ実感が無いと申しますか……」

 私がもじもじしながら弱気なことを言うと、ルーベンはまた輝くような笑顔を見せた。

「実感は聖女の仕事をこなすうちに湧いてくるでしょう」

「そういうものですかね……?」

「ええ。一緒に頑張りましょう!」

 何の根拠もない励ましだったが、この太陽のような人に報いたいと思った私は、聖女の仕事を精一杯こなした。
 結界の作成を頼まれれば、西へ東へ国内のどこへでも出向き、結界を張った。
 魔物の退治を頼まれれば、おっかなびっくりしながら聖力で浄化した。

 最初はぎこちなかった聖女の仕事も、ルーベンの言う通り、数をこなすうちに慣れてきた。
 そしてだんだんと自分が聖女である実感が湧いてきた。



 第一印象から私の心を掴んでいたルーベンは、日を追うごとに私の中で大きな存在になっていった。
 みんなが私のことを崇めてはくれるものの、友人のいない王宮で、心を許すことが出来るのは太陽のようなルーベンだけだった。
 おかしな話だ。
 王宮で心を許せるたった一人が、王子だなんて。

 そんな私がルーベンにプロポーズをされたのは、聖女として働き始めて一年が経った頃だった。

「聖女様……ではなく、名前で呼んでもいいですか?」

「はい。あなたには、役職ではなく名前で呼ばれたいです」

 これまで私のことを聖女様と呼んでいたルーベンが、名前で呼びたいと申し出たとき、私は天にも昇る気持ちだった。

「ジェイミー、愛しています」

 この言葉を聞いたときには、天に召されたかと思った。
 なんとかこの世にとどまった私は、もちろん肯定の返事をした。

「私もです。ルーベン様」

「あなたが聖女として城に来てくれて、俺は幸せです。そのおかげで、こうして一緒になれました」

「私なんかに聖女が務まるか不安でしたが、今は聖女で良かったと思っています。聖女じゃなかったら、ルーベン様とは話すことさえ出来ませんでしたから」

 私とルーベンは熱い抱擁を交わした。

「愛しています。死ぬまでずっと……いいえ、生まれ変わっても」

「私も同じ気持ちです。生まれ変わっても、あなただけを愛すると誓います」

 幸せの絶頂にいた私は、この後に起こることなど予想もしていなかった。





「敵襲だ! 迎え撃てーーー!」

 夜間、いきなり叩き起こされた私は、夜間着のまま腕を引っ張られた。

「早くこちらへ」

「お待ちください、ルーベン様」

 わけも分からず、とある通路に押し込まれる。
 その通路は普段隠されていて、私は存在すら知らないものだった。

「敵の狙いはあなたです。他国が聖女を奪いに来たのです」

 通路の中から後ろを振り返ると、部屋には赤々とした炎がいくつも燃え上がっていた。

「ああっ、城が火の海に……」

「大丈夫です。あなただけは絶対に逃がしますから」

 ルーベンは私の後ろから通路に入り、通路の入り口を閉じて外から見えないように細工をした。
 その間に私は必死で通路を進む。
 一人分の幅しかしない狭い通路のため、私が進まないことにはルーベンも通路を進めないからだ。

 通路から出ると、とある廊下の端だった。
 廊下にも火の手が上がっており、天井は今にも崩れそうな状態だ。

 ルーベンは新たな隠し通路を開くと、そこに私を押し込んだ。
 通路に入った私は、先程と同じように通路を進んだ。

 しかし、後ろからルーベンがついてくる気配はない。

「ルーベン様?」

 振り返った私の目に飛び込んできたものは、崩れ落ちる天井だった。

「ルーベン様!?」

 急いで後ろ向きのまま通路を戻る。
 すると入り口付近でルーベンの声がした。
 ルーベンが生きていることで、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。

「振り返ってはいけません。あなただけでも、逃げて、ください……」

 聞こえてきたルーベンの声は、ひどく弱々しいものだった。

「ルーベン様!? お気を確かに、一緒に逃げましょう」

「……願わくば……次があるなら……あなたに、安息を……」

 次の瞬間、天井が大きく崩れた。
 大きな音がしたかと思うと、ルーベンの声は聞こえなくなってしまった。

「いやっ、嫌だ、ルーベン様ーーーーー!!」

 ルーベンの元へ行こうとしたが、瓦礫が通路の入り口をふさいでしまい、私は通路から出ることが出来なくなった。

 失意のまま、私は煙に巻かれて死んだ。




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