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【第一章】 美少女と、観光名所で家族を知る

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「旅に出たことは、アンドレアスに良い影響をもたらしました。あの子、家にこもっているときよりもずっと楽しそうにしているんです。食事は質素になったのに」

「あんな狭い家に隠れてるよりはずっとマシだよ」

 アンドレアスが窓の外を眺めながら呟いた。

「旅の資金は村々で歌を歌って稼ぎました。歌が得意で本当に良かったです。ですが、徐々にアンドレアスが才能を開花させていったんです」

 ここでヘイリーはアンドレアスが持って帰ってきた巨大グモの目玉を指し示した。

「アンドレアスには狩りの才能があったのです。なので冒険者登録をして、あの子が狩ってきた獲物を換金するようになりました。それに旅の途中で何度も危険な目に遭ったのですが、あの子が誰よりも強いおかげで事なきを得ました」

「まあね」

 アンドレアスは、俺たちがヘイリーの知り合いだと分かったからか、得意げにしている。
 昨日はあんなに、自分は強くないと言い張っていたのに。

「アンドレアスは、強すぎるせいでただの人間じゃないと疑われたことがあったのじゃろう。だから自分の強さを隠したんじゃろうな」

 俺の考えを読み取ったリディアが言った。
 これにヘイリーが応える。

「ええ。ただの少年はここまで強くはありません。しかも幼少期から冒険者の親に戦闘を教え込まれていたならまだしも、私はただの一般人ですから」

「とはいえアンドレアスは見た目が完璧に人間じゃからな。疑われたとて、魔物とのハーフだと断定することは出来んじゃろう」

「残念ながら、疑わしきを罰する人もいますから。疑われないに越したことはありません」

 しかも今、ヘイリーとアンドレアスは父親不在で二人旅をしている。
 疑おうと思えば、いくらでも疑う要素があるのだ。
 彼女の言う通り、疑われないように強さを隠した方が賢明だろう。

「じゃあこの村へはアドルファスさんを探しに来たんですね?」

「この村と言うよりは、この村の周辺ですね。アドルファスは人間の村にはいないでしょうから」

 それはそうだ。アドルファスは一目で魔物と分かる見た目をしている。
 人間の村には極力近づかないだろう。

「でも森で寝泊まりするのは危険なので、村を拠点にして捜索をしているのです」

「じゃあアンドレアスくんが夜に出歩いていたのも?」

「あの子は夜の森でアドルファスを捜索しつつ、お金になりそうな獲物を狩ってくるのです。私はかえって猟の足手まといになるので、先に部屋で休んでいます。その分、日中はあの子が起きるまで村で情報収集をしてますよ。情報はいくらあっても困りませんから」

 先程からアンドレアスが眠そうにしているのは、いつもはまだ寝ている時間だからなのだろう。

「この村には店が多いので、ここで稼げるだけ稼いで物資を調達するつもりです。次に行く村がここまで栄えている保証はありませんので」

 ヘイリーは俺とリディアを見つめながら首を傾げた。

「二人は旅をしているのですよね。ここへは偶然来たのですか? それともダンジョン見学が目的?」

 ヘイリーはこの村がダンジョン見学を行なっていることを知っているらしい。
 俺も村に来た途端に知ったから、知っていて当然かもしれないが。

「この村へは狙って来たわけではないですが、せっかくなのでダンジョン見学に行ってみたいと思ってます」

「楽しんできてくださいね。村を離れるときには教えてください。お見送りをしたいので」

「ヘイリーさんたちはいつまでこの村にいるんですか?」

「少なくともあと数日は滞在するつもりです。この村の周辺には、まだ探していない箇所がいくつもあるので。山も森ももっと捜索しないと」

 とても大変そうな話だが、ヘイリーの表情は明るかった。
 そしてそんな母親を見るアンドレアスの表情も晴れ晴れとしている。
 それだけでも、アドルファスを探して旅に出た彼女たちの選択は正解だったと言えるだろう。



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