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【最終章】

最終話 二つの星

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 シリウス様が私のために作った花畑の前で、シリウス様とダンスを踊る。
 こんなに幸せなことがあって良いのだろうか。

 すぐにゆるんでだらしなくなろうとする頬に力を入れた。
 今日という日を、デレデレのだらしない顔でシリウス様に記憶されるのは嫌だ。
 いつもそうだが、特に今日の私は最高に可愛い姿で記憶しておいてほしい。

「あの頃はクレアの身長が足りなかったが、今はちょうどいい高さだな」

「ふふっ。私たちは、何から何まで相性ピッタリですね」

 シリウス様の言う通り、背が高くなったことでシリウス様とのダンスが踊りやすい。
 あの頃は何度もシリウス様の足を踏んでいたが、それも無くなった。
 誰が見ても美しいダンスだ。

 気が済むまで踊りまくった私たちは、花を愛でながら談笑した。
 しかし、どうにもシリウス様の表情が固い。
 踊りすぎて疲れたのだろうか。

 そんなことを思っていると、シリウス様がすっくと立ち上がった。

「シリウス様?」

 立ち上がったシリウス様は、今度は地面に片膝をついた。
 そして私に向けて手を伸ばす。

「クレア、愛している。俺と結婚してほしい」

「え!? えっ!? ええーーーっ!?!?」

 これ……もしかしなくても、プロポーズだ!?
 私、今、シリウス様にプロポーズされてる!?
 あのシリウス様に!?

 私が混乱していると、シリウス様が不安げな顔で私を見上げていた。
 私がシリウス様からのプロポーズを断るわけがないというのに。

「よろしくお願いします」

 シリウス様の手をとってそう言うと、立ち上がったシリウス様が私のことを力いっぱい抱きしめた。

 シリウス様はこういう直接的な感情表現をするタイプだっただろうか。
 もしかして私と一緒にいるうちに、情熱的な感情表現が移ったのだろうか。
 ……私としては望むところだ。
 情熱的な夫婦、最高だ!

 私もシリウス様のことを、力いっぱい抱き締めた。

「ちなみに、私のどこに惚れたんですか?」

「めちゃくちゃなところ……だろうか。気付いたら俺の心もめちゃくちゃにされていた」

「何ですかそれ。お前をめちゃくちゃにしてやる、って男側が言うべきセリフじゃないんですか? え、私がシリウス様をめちゃくちゃにしちゃったんですか?」

「めちゃくちゃにされてしまった」

「あははっ。でも、それならこれからも、私がシリウス様のことをめちゃくちゃにしますね!」

 これまでの辛いことも、ぜんぶぜんぶ私がめちゃくちゃに塗りつぶそう。
 シリウス様の人生を、私がめちゃくちゃに荒らして、幸せに塗り替えよう。
 だから。

「覚悟してくださいね?」


   *   *   *


 私たちの結婚式は惑いの森の城で行なうことになった。
 城中が花で飾られ、床には真っ赤な絨毯が敷かれている。
 そしてホールには、二人の大きな姿絵が飾られている。

 私はシリウス様の作ったウエディングドレスを身にまとい、シリウス様はタキシードをまとっている。

 使用人全員が席に着き、私たちの結婚を祝福していた。
 店を休みにしたらしく、マリーさんやアンちゃん、ピーターもいる。
 ピーターは感極まって泣いていた。
 それにイザベラお姉様やアンドリューさんも座っている。

 神父役のリアが、誓いの言葉を述べた。

「新郎シリウス。あなたはここにいるクレアを、病めるときも健やかなるときも富めるときも貧しきときも、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

「病めるときと貧しきときは無いが、妻を愛し敬い慈しむことを誓う」

「……新婦クレア。あなたはここにいるシリウスを、病めるときも健やかなるときも富めるときも貧しきときも、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

「病めるときと貧しきときは無いそうですが、夫を愛し敬い慈しむことを誓います」

「一言多い者同士、指輪の交換を行なってください」

 リアが一言付け足して、指輪交換を促した。
 私たちの結婚指輪は、シンプルな銀の指輪だ。
 華美なものを作ろうと思えばいくらでも作ることが出来たが、二人の間で、控えめな結婚指輪が粋だという話になったのだ。

 指輪を交換した後は、誓いのキスだ。
 あのシリウス様が人前でキスをするようになるとは、誰もが思わなかったことだろう。
 私でさえ思わなかった。
 それどころか、シリウス様が結婚式を行なうことも意外だった。

 私は招待客を見渡した。
 人数は少ないものの、全員が私たちを祝福してくれている。
 私たちの幸せを祈ってくれている。
 その事実が、幸せだ。

 ヴェールがめくられたため、招待客から視線を外してシリウス様を見つめる。
 すると、やや緊張しているシリウス様と目が合った。
 可愛らしくて思わず抱き締めたくなったが、グッと我慢する。

「クレア、愛している」

「私も愛しています、シリウス様」

 愛を語り合い、私たちは誓いのキスを交わした。


 これから先、永遠の時を私は生きる。
 終わりの無い生は辛いこともあるかもしれない。

 でも、永遠の命も、シリウス様と一緒ならきっと大丈夫。
 シリウス様にとっても、私がそういう存在だったらいいな。







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ご愛読ありがとうございました!!!!!
『ちょっとズレた死神と幸せに暮らす人生設計もアリですよね?~死神に救われた何も持たない私が死神を救う方法~』は、これにて完結です。

流行りからは少し外れた題材でしたが、書きたいものを書けて満足です。
達成感がすごいです。
読者のみなさま、長い話にお付き合いくださりありがとうございました。

辛いことの多い世の中ですが、クレアのように力強く生きていきたいですね。
それではまた、どこかでお会いしましょう^^



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