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【第3章】
第53話 町での仕事は割と地味
しおりを挟む私とシリウス様は引き続き町を歩いていた。
美形のシリウス様は、大通りを歩くだけで町娘たちの視線を独り占めにしている。
そんな町娘たちを威嚇するように、私はシリウス様の腕に自分の腕を絡めて必要以上にベタベタしながら歩いていた。
「いつもよりも距離が近い気がするのだが」
「気のせいです」
「気のせいではないだろう」
「そりゃあ多少は近いですけど……リアに『町には人さらいがいるから、シリウス様から離れないように』と言われていますので」
口ではこう言ったが、腕を絡めているのは人さらい対策ではなく、町娘たちへの威嚇のためだ。
「多少?」
「多少です」
「……そなたの対人距離がおかしいことは分かった。しかし歩きにくいからやめてほしい」
「じゃあお姫様抱っこで歩きましょう! それなら歩きやすいですし、町のみんなに私たちのラブラブ具合を見せつけられます。ね、ね!?」
シリウス様は何も答えなかったが、お姫様抱っこで町中を歩くよりはこのまま歩いた方がマシだと判断したのか、腕に私を絡みつかせたまま歩き続けた。
* * *
「ここには何の用事があるんですか?」
しばらく歩いた私たちが到着したのは、細い道の先に建っている小さな屋敷の前だ。
「ここは余が監視していた者の住む屋敷だ。その者が復讐をしない選択をしたから、監視役であった蜘蛛の使用人を別の屋敷に移すことにした」
「使用人の移動までシリウス様がするんですか?」
「自力で移動してもらうこともあるが、町へ来たついでだ。定期的に報酬も渡さないといけないからな」
私が城に住むようになってから、蜘蛛の使用人が城に来ることは一度もなかった。
考えてみれば、町から森の中の城まで移動するのは、蜘蛛にとっては距離が遠すぎる。
そうなると必然的に、給料をシリウス様が渡しに来ることになるのだろう。
シリウス様が屋敷に向かって杖をかざすと、少しして屋敷の壁の隙間から一匹の蜘蛛が出てきた。
蜘蛛を手に乗せたシリウス様は、蜘蛛に向かって小声で何かを話している。
そのうちに、どこからか飛んで来たカラスがシリウス様の肩にとまった。
そのカラスともシリウス様は何かを話していた。
きっとあのカラスもシリウス様の使用人のカラスなのだろう。
リアたち一家の他にもカラスの使用人がいたことにびっくりした。
正直、カラスの姿のときは、私には誰が誰なのか区別がつかないが、カラスが私に全く興味を示していない様子から考えて、リアたちではないのだろう。
あのカラスの使用人も蜘蛛の使用人と同じく、町でのみ仕事を行なっているのかもしれない。
ここは惑いの森でも城でもないので、使用人たちと会話の出来ない私はただ黙ってシリウス様の話が終わるのを待っていた。
「次の屋敷はあっちだ。行くぞ」
しばらくして、話の終わったシリウス様を案内するように、カラスの使用人が私たちの前を飛び始めた。
* * *
到着したのは、先程の屋敷から十分ほど歩いた場所にある別の屋敷。
今度の屋敷は先程の屋敷よりもずっと大きい。
力のある貴族か、事業に成功した商人が住んでいるのだろう。
「では今日からはここの屋敷の子どもたちの監視を頼む。まだ誰が誰を狙うか分からんから、ターゲットが絞れるまでは全員を監視するように」
屋敷に到着するなり、シリウス様は蜘蛛の使用人に向かって物騒な命令を出した。
「ここ、そんなに殺伐とした家なんですか!?」
「跡目争いで子ども同士が殺し合うのはよくあることだ」
……よくあること、か。
「そう暗い顔をするな」
「私、暗い顔してますか」
「余にはそう見える」
まあ、これから兄弟同士での殺人事件が起こるかもしれないと聞いて、明るい顔にはならないだろう。
「……次の目的地はこのような場所ではないから安心していい」
気持ちを切り替えるために私が両手で頬を叩いて無理やりに笑顔を作ってみせると、シリウス様が乱雑に私の頭を撫でた。
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