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【第1章】

第23話 『惑わしの森の死神の唄』

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 いったん休憩しようと焚火を離れて椅子に座ると、スッとジュースが差し出された。
 たくさん動いて喉が渇いたので、ありがたくちょうだいする。

「アンちゃん、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 林檎のジュースが喉を通り抜けていく。
 冷たくて美味しい。

「城からわざわざ冷たいジュースを持って来てくれたんですか?」

「ううん。飲み物は魔法でシリウス様が冷やしてるよ」

 それもシリウス様の仕事なのか。
 踊っていないのに、ダンスパーティーではシリウス様が大活躍している。

「あーあ、今回もアンがクイーンになれると思ったのに」

「え? もうキングかクイーンが決まったんですか?」

「まだだけど、絶対クレア様だもん」

 アンちゃんは頬をぷくっと膨らませている。
 私はその頬を指先でツンとつついた。

「アンちゃん、可愛い」

「アンは可愛いけど、可愛いだけじゃあのダンスには勝てないよぅ」

「ふふっ。拗ねるとほっぺたプニプニですね」

「拗ねてないもん。悔しいだけだもんっ」

 ぷんぷんと地団駄を踏む姿も可愛らしい。
 気が済むまで地面を踏んだアンちゃんは、キッと私を睨みつけた。

「いっぱい練習して、次はアンが勝つんだからっ」

「こーら、クレア様に噛みつかないの」

 そう言いながらどこからともなくやって来たマリーさんが、アンちゃんの首根っこを掴んで回収していった。

「すみません、クレア様。アンはまだ幼稚で」

「平気ですよ。可愛いだけでしたから」

 拗ねても睨みつけても地団駄を踏んでも可愛いなんて、才能を感じてしまう。
 アンちゃんは使用人ではなく、可愛さを売りにした仕事をした方がいいような気がする。



「あっ、あの唄が始まりましたね」

 曲の始まりを聞いたリアがそんなことを言った。

「あの唄?」

「ダンスパーティー中に一曲だけ、みんなで合唱する唄があるんです」

「へえ」

「クレア様も知っていたら歌ってくださいね」

 そして使用人たちの大合唱が始まったが、生憎私の知らない唄だった。

♪惑わしの森の死神は、今日も人を惑わせる。
 銀の髪に蒼い目の、麗しい姿で惑わせる。
 魔法使いに出会ったら、男かどうかを確かめろ。
 銀髪碧眼美形なら、その男が死神だ。

「これって……シリウス様のことを歌ってるんですかね」

「そうだ」

 間近でシリウス様の声が聞こえて振り返ると、ワインを持ったシリウス様が隣に立っていた。
 独り言のつもりだったが、思いがけず答えが返ってきてしまった。

「なんていう唄なんですか?」

「……そなたは『惑わしの森の死神の唄』を知らぬのか。人々に語り継がれているはずだが」

「知らなかったです」

 シリウス様はあごに手を当てて、それはおかしいと言いたげな顔をした。

「この国では広く知られている唄のはずだが。友人の誰からも聞かないなど、そんなことがあり得るのか?」

「だって私、友だちがいなかったので」

「…………それは、何と言うか、すまん」

 謝られてしまった。
 今は、リアとピーターという友人がいるから、別に悲しくはないのだが……悲しくはないのだが!

「私、人間の友人が一人もいない……?」

「安心するがいい。余も人間の友人はいない」

 せっかくフォローしてくれたところ申し訳ないが、人間の私の言う「人間の友人がいない」と、死神のシリウス様の言う「人間の友人がいない」は、意味が違うような気がする。
 シリウス様がフォローをしてくれたという事実は嬉しいけども。

「やはり粘土でそなたの友人を作るべきだったか」

「リアとピーターという友人が出来たので遠慮しておきます。それに粘土の友人は雨で崩れてしまいますから」

「雨がネックよな」

「……あの、お二方。前にも言いましたが、友人は粘土で作るものではありませんよ」

 唄を歌い終わったリアが、可哀想なものを見る目で私とシリウス様を見ていた。

「そうなんですか!?」

「そうなのか!?」




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