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【第1章】
第18話 三代目の聖女様
しおりを挟む「……それ以来、帝国には常に聖女様がいらっしゃるのです」
今日は帝国の歴史について学んでいる。
石槍を片手に象を狩っていたところからスタートした歴史の授業は、ついにこの国が帝国になるところまできた。
「ここまでで質問や疑問点はありますか?」
「はい。聖女様は世襲制ですか? それとも国民から選抜されるんですか?」
「クレア様は難しい言葉を覚えましたね。先生として頑張った甲斐があります」
リアは私が世襲制という単語を使ったことに喜んでいるようだった。
確かにこの城に来るまでは一度も使ったことのない単語だ。
「質問の答えですが、世襲制です。ですが次の聖女様が出てくるのは、もっとずっと後です」
「聖女様がいない時期があったということですか?」
「いいえ、そうではなく。聖女様は数百年、同じ人物が務めていたのです」
…………数百年?
「聖女様になると寿命が延びるのですか?」
「その辺のことはリアには分かりません。ですが事実として、同じ方が数百年務めているのです」
聖女の使う聖力は、魔法よりもさらに一般人に馴染みの無いものだ。
奇跡の力と言われているため、普通では考えられない効果もあるのだろう。
「この後の歴史で出てきますが、数百年務め上げた後、聖女様の娘が新たな聖女様となっています」
「聖力は魔力のように遺伝するものなんですかね」
「噂では美しい魂が選ばれると言われていますが、歴史から考えると遺伝の可能性が高いでしょう。今の聖女様は三代目ですから……あれ。魔力が遺伝によるものだと知っていたのですね」
リアが驚いたように私を見た。
私も知ったのは偶然だった。
過去に、侯爵とジャンが話しているのを聞いてしまったのだ。
ジャンは侯爵に、どうして自分は強い魔力を持つ血統ではないのか、と文句を垂れていた。
侯爵は、魔法を使える血統はものすごく希少なことと、魔法の使えないものでも魔法道具を使えば魔法の使用が可能なことを説明して、ジャンを諭していた。
「とにかく、初代の聖女様も二代目の聖女様も数百年ずつ聖女を全うし、今の聖女様は三代目です。名前はシャーロット様です」
「へえ。姿絵を見てみたいです。図書館にありますよね?」
私が無邪気に言うと、リアは不自然に目を逸らした。
「姿絵、無いんですか? 帝国の聖女様なのに?」
「……町に行けば、売っているのです」
「この城の図書館はものすごい蔵書数じゃないですか。一冊くらい、姿絵の描かれた本も」
「一冊もないのです」
さすがに一冊も無いなんて、そんなことあるわけがない。
まさか聖女を描いたら呪われるわけでもないだろう。
明らかに不自然だ。
「もしかして、聖女様はすごく不細工だったりして」
「いいえ。かなりの美人です。リアが見た人間の中で一番の美人かもしれません」
「リアは見たことがあるんですか?」
「町にいるときにパレードが行われていたので、カラスの姿で眺めていました」
パレードに出席するということは、町民に嫌われているわけではないだろう。
侯爵家でも聖女を悪く言うような発言は聞いたことがない。
それなら、何故?
「初代の聖女様と二代目の聖女様の姿絵はありますか?」
「それなら何冊かございますよ。持って来ましょうか」
「へえ。初代と二代目の姿絵はあるんですね」
「あっ」
自分の失言に気付いたリアは、諦めたように大きな溜息を吐いた。
「リアが教えたことは内緒にしてくださいますか」
「教えてくれるですか!? もちろん内緒にします!」
「下手に探られるよりは伝えてしまった方がいいと、リアは判断しました」
そしてリアは、私とリアの二人しかいない図書館で、声を潜めて告げた。
「三代目の聖女様の姿絵は、全てシリウス様が焼き払ってしまいました」
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