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23,【やれば】仕事が【出来る】男

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 オルゼアは自由奔放に生きる代わりと言ってはなんだが、その時になれば王子としての役割を担う男だ。
 おかげで逆賊は簡単に捕らえられ、その黒幕を割り出すにも時間はあまりかからなかった。どうも侯爵がここまで侵入させた根源だと分かった時、モランの怒りはマックスに達していた。売国奴め、と罵ったその目は血走っていたくらいだ。
 ともかくそんな状態で指揮を任せられるわけもなく、モランともう一人、怒りに落ちているフェロンにはエリシア達を追いかけてもらった訳なのだが。

「…もう一度言え」
「そ、それが」
 オルゼアも大概キレていた。王の住居に逆賊を許したどころか、大切な妹の一人は危篤になる程の傷を負い、もう一人は逆賊を殺してしまったという後悔と姉の傷を分のせいだと責める内に疲れて意識を失ったまま起きないという。
(最悪だ、本当に…)
 折角の結婚式、人生一番幸せとなる日だったはずなのに。どうしてエルステーネにはいつも苦労する道を歩かせてしまうのか、兄として申し訳ない限りである。

 最初に向かったのはエリシアの部屋だ。だが神に愛され生まれてきたようなエリシアのことだ、危篤といっても助かるだろうと踏んでいた。その予感は外れておらず、オルゼアが残党を処理して部屋に向かう頃には普通に起きて、それはそれは元気そうに菓子を食べていた。
 けれどエルステーネに手を汚させてしまったと泣きじゃくるものだから、仕方なく笑わせるために顔に落書きを許したのだが。ついでにエルステーネが目覚めた時に笑ってくれたら良いと、身体を張った結果が臣下達からの無言の失笑だ。最悪以外の何者でもない。

(…死んだように眠りやがって)
 顔も真っ白に、身体はピクリとも動かない。
「…申し訳ございません、王子。本来ならば私の仕事を…」
 申し訳なさそうに俯く宰相にため息をつく。まぁ、何もなければこの二人は結婚していたのだ。少しくらい許してやろうじゃないか。
「いい。エルステーネが目覚めたらさすがに仕事に戻ってもらうがな」
「もちろんです、ありがとうございます」
「とりあえず侯爵の家宅捜査は終わった。妻子諸共捕らえて地下牢にいる」
 もうですか、と驚いた顔をされるが、別に私は馬鹿なわけではない。
「仕事が出来る男ってなんか格好いいよな」
「そう思うならいつもふらふら遊び歩かず仕事してくださいよ…」
「エルステーネを職場に連れ込んでイチャイチャしてたお前に言われたくねぇよ」
「なんで知ってるんですか!」
 ーーあぁ、でも。
(顔の色が戻っているから大丈夫か…)
 つくづく、そんな役割だ。大切な妹を他の男に任せないといけないのだから。
「…俺は余罪を追及して警備の再配置をする。あとで仕事が山積みだぞ、覚悟しておけ」
「承知しました。…感謝申し上げます、王子」
 …うん、まぁ。なかなか悪くないかもしれない。
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