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 アルバスから現状を聞いたレオンは、それはもう盛大に顔を顰めていた。
「マリシオン国王は愚かなのか?どこまで愚かなのだ?あのアンリ様の美しさを前に愚かにも他の女にうつつを抜かし、挙句にはストーカーか?」
「まぁ落ち着け。とにかく、アンリが望むのは今も昔も平和と平凡ということだ」
 それは知っている。第三側妃様がご存命の時から、ずっと彼女は平凡を求めて生きてきた。
「だから俺はアリアを連れ去って、今度こそ幸せにしてくれる男を探していた。真っ先に頭に浮かんだのはお前だけだ」
「それは有難い、が」
 それよりも先に、アンリの気持ちが大切だ。
「もしかすると私の顔が気に入らないかもしれない!」
「安心しろ、アンリは面食いだ」
「私の顔はあの方を前にすると消し炭と化すのだ!」
「お前はアンリをなんだと思ってる」
「あの方以外を女神と呼ぶことは出来ない!」
「大丈夫、人間だ」
「いいや女神に違いない。あの美しさはもはや神の創生なさったものではないかとすら思えてくるのだ」
「人間だ」
 やはりしばらく離れていたとはいえ、アルバスのツッコミは衰えないなと思う。
「とりあえず俺がアンリにお前を紹介するから、」
「ちょっと待て、あのアンリ様にもう紹介だと?ち、ちょっと心の準備が…」
「…そういえばお前、五年くらい声もかけられずにウジウジ柱の陰から見てたな。このロリコンが」
「ロリコンじゃねぇよ」
 あの少女は女神となる前の天使だった。そうだ、自分は天使を愛でていただけなのだ。
 そう言ったらアルバスがそれはそれは気持ち悪いものを見る目で見てきたが、気にしないことにする。




 と、そんなわけで。
「アンリ。こいつが俺の親友のレオンだ」
「…レオン・アストラッドです。ご挨拶申し上げます、王女様」
 レオンは緊張のあまり、もういっそ無心になって堂々と平静を装って挨拶をした。
「…初めまして、レオン様。どうぞ名前でお呼びになって」
 その様子を見て、アルバスは首を傾げた。レオンは面食いなアンリのもろ好みのタイプだと思ったのだが、もしや好みが変わってしまったのか。あまりに普通すぎる二人に心配になる。レオンもあんなにもガチガチだったというのにまるで普通だ。
 そんなこんなで初めての顔合わせが終わり、アルバスは庭の外までレオンを送ったのだが。
 アンリから見えない位置に移動するなり、レオンはその場に崩れた。
「おい、大丈夫か!?」
「き…きんちょうした…」
「は!?」
「なんだあのうつくしさはもうにんげんではないなあのかたはもうどうしてあんなにもうつくしい」
「おいしっかり話せ!」
 まるで爆発したように今更のように顔を真っ赤にさせて蹲るレオンはどうやら平静を装う努力をしていたらしい。なんとか馬車までたどり着き帰ったのを見届けてから、アルバスはアンリが待つはずの庭へ戻ったのだが。
「……アンリ!?」
 蹲るその姿がリミアンヌアンリの母と被り、思わず駆け寄ったのだが。顔を上げたアンリは、頰を赤くさせ、その目にうっすら涙を溜めている。
「ど、どうした!?」
「…どうして前もって名前を教えて下さらないの…」
「な、なにがだ?」
「相手がレオン様と知っていたらもう少し綺麗な格好をしたのに!お兄様の馬鹿!!」
 馬鹿。お兄様の馬鹿。
 ……いや、それよりも。
「え……お前、レオンを知っていたのか…?」
 どういうことだ?
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