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しおりを挟む彼女は言った通り、万々歳で荷物をまとめていたようだ。その間、会いに行こうと何度もした。本当にいいのか、お前は後悔しないのか。ただ私に縋り付くだけで、この国の王妃であれるのに。
「後悔しているのですか」
連日気の抜けた顔をしたシーザに、どうしたものかと考えながらラスカは問いかけた。
「そんなことはあの女に聞け」
聞けというよりも聞いて欲しいと聞こえるのだが、まどろっこしい言い方が嫌いなラスカは見事にスルーした、
「貴方に聞いているのですよ、陛下。後悔しているのは貴方でしょう」
「はっ、私が何を後悔するというのだ。あんな女と離縁出来て、こちらが清々するというものだ!それに私には他にももっと素直で従順な女がいる!あんな…生意気な女など、後で泣きついて来ても……」
「……まぁ、何でも良いのですが。王妃様も綺麗な方でいらっしゃいますからね。国に戻られてからでも、縁談は来るのではないですか。貴方が心配するようなこともないでしょう」
「…えっ……い、いや、あんな年増に縁談など…」
何を馬鹿な、とラスカはため息をついた。まだ王妃は二十歳、離縁した経歴のある女としてはまだまだ若い方だ。寧ろ若すぎる。それに加えてのあの美貌なら、男が放ってはおくまい。
「……明日、我が国を発つそうです」
「なに?明日?」
「良いのですか」
「っ……あ、当たり前だろう。良いに決まっている…!」
強がっているのは丸わかりだったが、ラスカはそれ以上何も言わなかった。
ーー可哀想な方だ。愛や恋を知らない。だから王妃に抱くその感情が分からない。親に愛されず、権力を欲する女に群がられ。
(けれどまぁ、私は仕事が滞らなければいい訳で)
貴方が憔悴している姿は見ていて面白いですし、貴方の態度に時折苛立つのも本当ですし。
少しくらい痛い目を見てはどうですか、陛下。
アンリがマリシオンを発つ日、女々しいシーザは自室のテラスからその姿を眺めていた。
国を追い出される王妃など失笑の対象にしかならない、はずなのに。堂々と前を見て歩くアンリを笑う者は、誰一人とて居なかった。
「負け惜しみですわ。あの方、陛下に愛されなかった事を認めたくないのです」
片腕に抱きついて来る女は、側妃のリュシアだ。
「…そう思うか」
「えぇ。陛下、愛して下さるのは私だけなのでしょう?」
ーーそういえば。あの女に私が愛を囁いた事はないな。夜はサービスのつもりで、お前だけを愛していると言ってみるけれど。あの女には抱く時も、いつだって。
(…どうしてだったか)
真っ直ぐに伸びた背中を眺めて、シーザは段々と胸が冷えていくのを感じた。
「…陛下、次の王妃はもうお決めになりましたの?」
「……あぁ」
それを聞くためか、今日わざわざ来たのは。
「! 誰になさいますの?」
「…そうだな」
そうか。アンリの後任を決めなければ。まだ何も決まっていないのに。
ーーどうして、こんなに虚しい気分になるのだろう。
彼女は国へ帰ったらどうするのだろう。
他の男と再婚するのか。その男には笑いかけて、その無表情な顔を変えるのだろうか。自分以外の男に抱かれて、ーー何だそれは。気持ち悪い。
「陛下…?」
「…駄目だ」
「え?」
「ーー今日はもう、気分が悪い。下がれ」
「え?で、ですが…」
「聞こえないか?下がれと言ったのだ」
じろりと睨むと、びくりと震え上がる。
「…申し訳、ございません……」
「……」
駄目だ。自分以外の男に笑いかけるなんて。見ているところでやられても許せなかったのに、自分の知らないところでやられるなんて、更に許せなくなる。
けれどやはりどうすればいいのか、どうしてこんな気持ちになるのか、シーザには分からなかった。
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