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13 幼馴染会議
しおりを挟む「そういえば昨日、兄さんすごいやつれた顔で帰ってきたな」
「でしょうね」
相槌を打ちながら、シルヴィアは彼を見る。前世で幼馴染で今世も関わることとなったギアンだ。私の婚約者の側近の弟。
シルヴィアが悩んでいるうちに朝になってしまった。昨夜のことを話せる相手など彼しかいないと思い至り、朝すぐに支度をしてバレないように家を出たのだが。
「そう思うならどうして会うんですかね。しかもこの中暑いし」
ぎろりと睨んできたのはバルト。温室なのだから暑いに決まっていると思いながら、シルヴィアはため息をついた。
「どうして貴女がここに?」
「殿下の命令で、二人を会わせるなと。こちらに来た時にはもう貴女がいましたがね」
「兄さん、飲む?」
紅茶に氷を入れながら尋ねたギアンに、バルトは「飲む」と椅子に座った。
「昨日貴女の家から帰った後に八つ当たりされた俺の身にもなってください」
「あら、それはごめんなさいね」
「…悪いと思ってないでしょう」
「そうね、だって私が何か悪いことをした?」
よくよく考えてみてもおかしいのはユリウスだ。自分は散々に浮気しておきながら、私のことは責め立てる。
ヒロインがいるからと私に全てを擦りつけるのはどうなのだ?
「…貴女、それ本気で言ってます?」
「シルヴィア、あんまり兄さん困らせるなよ」
この人真面目でいい人なんだから、と笑うギアンを見て、ほんの少しクールダウンする。
「仕方ないでしょう?今日には殿下の元へ行かないといけないもの」
「けどどうせ婚約解消するんだろ?ならさ、」
「おい、ギアン!!滅多なことを言うんじゃない!!」
バルトの怒鳴り声で、気まずい無言が続く。さっきからこうしてバルトが過剰に反応するせいで、全く話が進まない。
「ちょっと、バルト様。少し出ていてくれませんこと?」
「出来るわけないでしょう!?」
「…何なら殿下に浮気相手は貴方だとでも言ってしまおうかしら」
「最悪な脅し方だな!?」
何だかんだ言いながらも席を立ったバルトは釘をさすように二人を見た。
「いいか、滅多なことはするなよ!?俺は暑いからほんの少し出るだけだからな!あとシルヴィア嬢、早く殿下に謝って適当に愛の言葉でも囁いておいて下さい!」
そう言い残して出て行く彼を面白おかしく見ながら、さて、と気持ちを切り替える。
「んで?どうすんの、殿下とやらは」
「さぁ…」
「けどまぁ、あれだな。随分と都合のいい奴だな」
「そうよねぇ。婚約なくして、向こうはいいわよ。相手がちゃんといるんだから。私は一人だっての」
やれやれと肩をすかめると、「んー」とギアンが首を傾げる。
「じゃあ俺と結婚する?」
「……なんでそうなる」
唐突すぎる提案がうまく飲み込めず、とりあえずそれだけ返す。あれ、もしかして私プロポーズされた?
「だってさぁ、お前が王妃とか似合わねぇじゃん」
「似合う似合わないの問題じゃないけどね」
「ていうか俺ら付き合ってたし。なんかグダグダして別れたけど、俺はお前といるのが今も昔も心地いいからな。マミには悪りぃけどさ」
照れたように笑う彼は、前世で付き合うという話になった時も同じように笑った。
「それに相手もいねぇのに早く結婚しろって周りがうるさいのは今も昔もいっしょだろ?俺ら、今ならそれなりに上手くいくんじゃねぇの?」
「……涼太とは兄妹みたいなもんじゃん」
「でも俺たち生きてても多分、結婚と同じくらい一緒の時間過ごして、何だかんだ歳取るまで一緒にいただろ?それだったら結婚と変わらねえじゃん」
「…じゃあ、……結婚する?」
「だな」
あんまりにもあっさりした答えに、シルヴィアは笑ってしまった。やっぱり彼といるのは心地いい。
「王子になんて言おう」
「最悪さ、慰謝料は兄さんから出して貰おうぜ」
「…バルト様、大丈夫かしら。だって側近でしょう?」
「問題になりそうだったら俺が縁切ればいいだろ。二人でこの国出て、適当に暮らそうぜ」
「それもいいわね」
というわけで話がまとまったので、それを外で待っていたバルトに伝えたところ。もう何を言っても無駄だと思ったのか、うんざりした顔で答えられた。
「俺のことは気にしなくていいけど、二人がどうなっても、殿下にどうされても俺は知らないからな」
物分かりのいい兄だと褒められ、バルトは盛大にため息をつく。どうせ自分が今何を言ったところで無意味だろうとバルトは知っていた。ならもうこのバカ二人を殿下の元へ連れて行って、その愛情を見せさせた方が早い。
多少の犠牲になるであろう弟は何とか命だけは助けてやろうと決めて、シルヴィアと共に馬車に乗り込み王城へ向かった。
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