殿下、どうぞお好きに。

yukiya

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7 幼馴染もやっぱりばか

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「この!!バカ!!女!!がああああああ!!!!!」
「ぎゃあっ!!?」

 普段おしとやかで通っているシルヴィアのものとは思えない声が温室に響き渡る。
 再会したばかりの幼馴染。しかも異世界で、お互い容姿も違って、なのに気付いてしまう。のは別にいい。
 どうしてバカ女と罵られ、殴られなければいけないのか。

「痛いわよ!!なにすんのよ!!」
「うるせぇこのバカ女!こんなところにいたのか、このっ!!」
「いひゃい、いひゃいっへ!!!」

 思いっきりほおをつねられ、思わず昔のように足の脛を蹴る。彼が悶絶しかけているのを見下ろして、ふうっと冷静になるべくため息をついた。

「なにすんのよ、涼太。私これでも深窓の令嬢で通ってんのに」
「はぁ?お前が!?ナイナイナイ!」

 大げさに手を振ってみせる涼太ーーギアンの頭を踏みつける前に、鉄拳を食らわされた分を返してやろうか。
 そう思い拳を握り締めると、彼が真っ青な顔をした。

「いや、いや!!?お前の鉄拳は人を殺すからな!!?」
「大丈夫よ手加減してあげる。こうなりたいから殴ったんだろ?あ?」
「だってそうだろ!!こんなとこでなに呑気に過ごしてんだよ!てか死んだお前がここにいるってことは、俺も……」

 そこまで聞いて、ハッとなる。そうだ、私は死んでこの世界…ゲームの世界に転生した。つまりここにいる彼も、私と同じく、あの世界に生は無いということだ。

「…なんでアンタまで死んでるのよ」
「言っておくがお前みたいな間抜けな死に方じゃねぇよ」

 その後、温室にギアンの轟声が響いたのは言うまでもない。




 研究室とは名ばかりのギアンの個室に移動して、茶を飲む。花の香りがするとても美味なお茶だ。

「それで、誰が間抜けな死に方って?」
「…だってそうだろ。階段の下で発見されて、すぐに救急車で搬送されたけど、……間に合わなかったし」

 一気に暗い表情になるギアンにうっと喉を詰まらせる。何だかんだ私の目付役だったこの男は、大層悲しんでくれたのだろう。

「そりゃ俺だって幼馴染が死んだって聞かされて冷静じゃなくて。お前の落ちたっていう階段まで行ったら、見つけたわけだ」

 なにを、とは聞きにくい。だって、だんだんと思い出すように怒りに飲まれる表情を見れば分かる。

「植木の中で光る、お前のスマホをな!!!!」
「違うのよ!!言い訳させて!!?」
「なんの言い訳だ!」
「あれ本当にやばかったの!!期間限定イベントでね!?逃したら絶対手に入らないスチルがあってね!!?で、やっとゲットできたの!諭吉を何枚も何枚も飛ばしたのよ!!?手に入ったら嬉しさで前なんか見て歩いてないよね!?」
「知るか!!!!!!」

 バンッとテーブルを叩かれ、ぐっと黙る。確かに彼から見たらアホ女、だろう。あれほど執着していた乙女ゲームが死因なのだから、呆れるほかないだろうに。

「おばさんがキレてたぞ。来世でお前に会ったらギッタンギッタンにしてやる、この親不孝者ってな」
「ヒェッ…」

 怒りに打ち震える母の姿を思い浮かべるだけで、背中がゾッと凍りそうになる。と、その時、ギアンに突然抱きしめられた。

「ちょ、」
「ばかやろ、ほんっと、ばか…!」

 生まれた病院から隣で、家も隣で、ずっといっしょだった涼太。周りに勧められるままに付き合ってみたり、でもやっぱ違うよね、と別れてみたり。でもその後も、就職してからもずっといっしょだった。

「…ごめん…」

 もし私が逆の立場だったら、彼のことをはっ倒していたと思う。息の根を止める寸前までいったかもしれない。

「悪いと思うなら、もう二度と心配かけるな。分かったか」
「…うん。ほんとに、ごめんなさい」

 もういい、と笑った彼に流されそうになるけれどーーいやいや!

「そう言う涼太こそなんで死んでるわけ!?」
「刺された」
「は!?」
「だから、刺された」
「……は!!?」

 刺されたってなに?刺された、刺された!!?

「お前が死んでから、マミと付き合ったんだよ」
「え!?マミって、あのマミ!?」
「そう。悲しんでる俺を放って置けないとか言ってくれて、こいつなら、って思ったんだけど」

 マミは私の数少ない友人の一人で、その友人たちの中で私の死因となったこのゲームの唯一のプレイヤーだった。
 けれどマミが涼太を好きなんて初めて聞いたぞ。

「え、それで?」
「その後だったか。半年も経ってねぇのに、まだ花苗を忘れられないのか、とかヒステリックに叫んで。だからハッキリ、俺にとって大事なのは生まれてからずっといっしょだった幼馴染の花苗だけで、その友達のお前のことはなんとも思えない、だから必要以上に求めるなら別れてくれって言ったんだよ。したら、刺された」
「……ばかだねぇ…」
「うっせぇよ」

 いや、本当にばかだと思う。
 このばかは未だに、私を中心に回っていたのか。そこに驚きを隠せなかった。
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