殿下、どうぞお好きに。

yukiya

文字の大きさ
上 下
6 / 15

6 幼馴染との再会

しおりを挟む


「シルヴィア、と、兄さん?なんでいっしょに」

 ギアンがシルヴィアの名を呼び捨てにした途端、バルトの顔色がサッと変わった。

「ギアン、女性を…しかも、殿下の婚約者を呼び捨てにするなんて何を考えている!」
「殿下の婚約者?」

 首を傾げたギアンだったが、あぁ、と頷いた。

「そうだ、だから名前聞いたことがあるんだった。なんだよシルヴィア、隠さなかったら良いのに」

 明るく笑うバルトにホッと息をつく。もしもう会わないと言われたらどうしよう、なんていう杞憂はなくなった。

「ギアン!!」
「うるさいな…。別にただの友人なんだからいいだろ」
「そういう問題じゃないだろう!っ…シルヴィア嬢、貴女もだ!婚約者がいる身でありながら、他の男と二人で会うなど!殿下に知れたら命が危ないぞ!!!」

 そんな訳がないのに、とシルヴィアはくすりと笑った。だって殿下は、ヒロインと結ばれる運命なのだから。
 お互いそういう仲にならないという認識は彼も同じだろう。けれど、婚約を解消した後の身の振り方をいずれ考えなければいけないのは事実だ。このまま家族に守られて生きていくのではなく、友人や知人をたくさん作ってコネも作らなければならない。そのためを第一歩を彼で踏み出した。

「大丈夫よ、殿下はそこまで私に興味などないわ」

 そう言うと、バルトがそれはそれは間抜けな顔をした。なんだろう、馬鹿にされている気がするのは。

「そうだって。いくら王子サマでも、婚約者の命なんか取らねーって!」
「命を取られるのはお前だよ馬鹿!!!」
「「え?なんで??」」

 二人して首を傾げてみれば、バルトは泣きそうな顔をして盛大なため息をつく。

「貴女たち、本当は馬鹿なんですね、よく分かりました」
「ちょっと失礼じゃない?」
「もう俺は知らん。俺は何も見なかった。いいか、俺はもう帰るが、絶対に変なことだけはしてくれるなよ!!!」
「しねーよ」
「しないわよ」

 そうしてバルトは悲壮な顔をして帰っていった訳だが。

「よし、温室の方に移動するか。って言ってもここのすぐ隣なんだけどな」

 温室、という言葉に驚く。この世界にも温室なるものがあったのか。

「そこで花を育てているの?」
「あぁ。教授が俺のために作ってくれたんだ」
「す、すごいわね」

 温室を、しかも大学の敷地内作れるなんて。それってすごいことじゃないの?
 そんなことを考えながらついて行くと、ビニールを張った温室が確かにあった。へぇ、造りは一緒なのか。
 勧められるがままに仲に入ると、むわっとした空気が伝わってくる。懐かしいこの感じに、なんだか泣きたくなった。

「花だけじゃなくて、一応植物全般を研究しているんだ」
「へぇ…ここには何が?」
「主には南の国から輸入した植物だな。何故か野菜もあるが、それは教授のいたずらだから気にしなくていい」
「そうなの。少しだけ見ていい?あ、触らないから」

 幼馴染に口酸っぱく言われたことだ。育てている途中のものを素人が触るな。植物はお前と違って繊細なんだから、簡単に枯れてしまう、と。あれはだいぶ私を馬鹿にしていたと思うが、今となっては本当にその通りだと思った。

「あぁ、いいぞ。花は基本そっち側にある」

 右を指差したギアンが、あ、と言う。

「この手前のが、俺が遺伝子改良ーーじゃない、ええと、作った花だ」
「……遺伝子改良」
「こっちにその言葉ないの忘れてた。気にすんな」

 ちょっと待て。思えばなんだかおかしいところは多々あった。この世界に染まらない雰囲気も、ところどころ出てくる言葉も。

「…ねぇ」
「なんだ?」
「私、コスモスの花が、見たいの」
「……この世界にコスモスなんかあったか?」

 あぁ、やっぱり。この人は。

「コスモスは、私が前世で大好きだった、花の名前よ」

 そう言った途端、彼の目が大きく開かれる。こんなにも沢山要素があったのに。顔は違っても話し方や表情は、こんなにもそっくりではないか。

「お前、まさか、花苗…?」
「やっぱり、涼太なのね」

 あぁ、こんなところで会えるなんて。懐かしさを胸に、彼に抱き付こうとした時だった。

「この、アホがああああああああ!!!!!!」
「ぎゃあっ!!?」

 頭に鉄拳を食らわされた。
 何故。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。

長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。 *1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。 *不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。 *他サイトにも投稿していまし。

【完結】さようなら、王子様。どうか私のことは忘れて下さい

ハナミズキ
恋愛
悪女と呼ばれ、愛する人の手によって投獄された私。 理由は、嫉妬のあまり彼の大切な女性を殺そうとしたから。 彼は私の婚約者だけど、私のことを嫌っている。そして別の人を愛している。 彼女が許せなかった。 でも今は自分のことが一番許せない。 自分の愚かな行いのせいで、彼の人生を狂わせてしまった。両親や兄の人生も狂わせてしまった。   皆が私のせいで不幸になった。 そして私は失意の中、地下牢で命を落とした。 ──はずだったのに。 気づいたら投獄の二ヶ月前に時が戻っていた。どうして──? わからないことだらけだけど、自分のやるべきことだけはわかる。 不幸の元凶である私が、皆の前から消えること。 貴方への愛がある限り、 私はまた同じ過ちを繰り返す。 だから私は、貴方との別れを選んだ。 もう邪魔しないから。 今世は幸せになって。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 元サヤのお話です。ゆるふわ設定です。 合わない方は静かにご退場願います。 R18版(本編はほぼ同じでR18シーン追加版)はムーンライトに時間差で掲載予定ですので、大人の方はそちらもどうぞ。 24話か25話くらいの予定です。

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

処理中です...