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2 前世の私と今世の私
しおりを挟む突然だが、私には二つの記憶がある。一つは、シルヴィア・セリアーヌとしての記憶だ。この世界で一番広大な土地を有し、徹底なる王政であるこの国の公爵令嬢。そして自国の王子であるユリウス王子殿下の婚約者。誰もが羨むその座は、誰にも言えない秘密を抱えていた。
その秘密に由来するのが、もう一つの『日本人』としての記憶である。私は所謂『転生者』なのだろう。シルヴィアとなる前の私、つまり前世の記憶があるのだ。
といっても前世の私は普通のOLで、どこにでもいるような平凡な女だった。
少し周りと違っていたのは、異常なまでの乙女ゲームへの執着だ。格好いい王子様に、美しい容姿の主人公。
それこそストーリーは全ルート制覇し、全てのアイテム(課金アイテム含む)を集め、全てのセリフを暗記するというほどの執着心だった。今から考えてみれば異常である。
そんな私が何故死んだかーー。それは、期間限定イベントに夢中になるあまり、階段を踏み外して転倒。打ち所が悪かったのか、そのまま死んでしまったのだ。なんとも無様な死に方である。
そして目覚めれば死因の乙女ゲームの世界。しかもヒロインではなく、ヒロインが王子と結ばれる為の脇役。
完璧に暗記したストーリーを要約するとこうだ。
誰にも本気になる事が出来ない王子は、国に決められた婚約者がいながら沢山の少女に手を出す。その中の一人、ヒロインが初めは王子を拒みつつも、本当は心が優しい、孤独な人なのだと惹かれていく。王子の方も、何の見返りも求めずに優しく包み込んでくれるヒロインに惹かれ、真実の愛に気付く。王子は敷かれたルートを歩く人生はもう終わりだと、婚約者と別れ、ヒロインと婚約しようと考える。けれど二人に待ち受ける様々な困難、そして婚約者からヒロインに対する嫌がらせーー。
最終的には婚約者は王子にまで危害を加えようとしたとして罰せられ、二人は結ばれる。元婚約者となった女は国に居られず、他国の低級貴族の妻に。
冗談じゃない。
ゲームをしていた頃は二人の応援をしていた。それに二重の記憶に混乱していた時も、二人の恋路を応援しようと思った。
けれど私がそこまでする理由が見出せなくなってしまった。それはこの身体になって初めて、婚約者の気持ちに共感できたからだ。
王子の婚約者として生きてきたのに、勝手な都合で婚約を解消されそうになり、知らない女が我が物顔で居座っている。それに我慢できる女がいるだろうか。
それに、だ。
「シルヴィア、おいで」
「シアは本当に可愛いなぁ」
シルヴィアには、シルヴィアを温かく包み込んでくれる家族がいるのだ。
大好きな人をあんな浮気者の王子のために悲しませるなんて御免である。
だから私は傍観することにした。なるようになれば良い。
けれど私は決して、この国から出ることはしない。ユリウスの目の届くところで幸せになってやる。
そう密かに決心したのは、まだ幼い少女時代だったーー。
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