上 下
83 / 126
第2章:終幕

Grumpy&Philanderer Older Brother ー公爵と従者ー

しおりを挟む

ヴァンパイア世界のとある屋敷内____


アンティークが強調する部屋にて青年はある人物を待っていた。


一つに纏めた銀色の髪に端整な顔立ち、しなやかな体付きでありながら女々しさは感じられず、紅い瞳が宿っている。


この青年の名はメテオと呼ぶ。彼はこの屋敷を住んでから十年の歳月を迎えていた。


「メテオ様、ショウがお見えになっております。」


コンコンとノックした後、ドア越しから流暢のある声に反応して、メテオは即座に今行くと返事をしてドアを開ける。


白のシャツの上にジレとネクタイ姿でコツコツと赤いカーペットの上に歩き、玄関へと向かう。



玄関に辿り着いて、二階に繋がる大階段を降りて行く。


「久しぶり、メテオ」


玄関の先には、一人の青年がニコッとはにかんでメテオに目を向ける。青年を目にしたメテオは無表情のまま、青年のところへと歩み寄った。


「ショウは相変わらず、何も変わってないな。」


そう言ってメテオは腕組みをして青年…ショウに目を向ける。


「そりゃ、俺は純血のヴァンパイアだから見た目変わらないのは当然だよ。」
「……とりあえず、屋敷に入れ。」


メテオはショウに屋敷に入るよう促して、青年は屋敷に足を踏み入れた。



暫くして二階の通路を通って行く。周りにはメテオとショウのみで誰もいない。メテオが事前に誰も近付くなと命令を入れていたためである。


「メテオのその無表情と言い草、直した方がいいと思うんだけど?」
「それは無理だ。俺は生まれた時から、表情が乏しいからな。」


自身の部屋に辿り着いてドアを閉めると早速、ショウがメテオの仕草を指摘していた。メテオは無表情のまま、ショウに返答する。



「ショウ」
「……何でしょう?"公爵殿"」


メテオのオーラがガラリと雰囲気が変わり始め、それを読み取ったショウはメテオの呼び名を変えた。


「俺はまだ公爵と呼ばれるのは些か、早いと思うが?」
「……もうすぐ社交界で顔を出すことになりますので、今のうちに呼び慣れた方がいいかと。」


ショウもまた雰囲気を変わり、ちゃっかりした喋り方から丁寧な喋り方へと変わる。


「ジェレマイアに何か不審な動きはあったか?」
「今のところ動きはありませんが、イケ好かない男ですよ。二つの顔を持っていますし、何よりも皆の前では兄君を忠実に従う弟のフリをしてますから。」
「……だろうな。俺も初めて会った時から、あの男の目は完全に濁っていた。あれはもう正気ではない。」


メテオはジェレマイアに初めて対面した時、彫りの深い引き締まった顔たちで落ち着きのある容姿であったが、その時のジェレマイアの目は濁っていて、メテオに対して口では褒めていたが軽蔑な眼差しをしていた事を思い出していた。


「あの男の僻む顔を毎日見なければいけないのかと考えるとゾッとします。ああ早く、公爵殿のところに戻りたいです!」
「気持ちは分かるが、これは叔父上の命令だから致し方あるまい。だが…………」


メテオは腕組みをして瞼を閉じて重い溜息を吐く。


「あの男が俺のもう一人の叔父だと考えると腹ただしい。」
「……まぁ、血縁上はそうなりますね。」



メテオの愚痴を聞くショウは哀れな眼差しを向ける。


「ですが、あの男の面影が見えなくてホッとしています。公爵殿はウォルフレッド様の面影が見えて凛々しくなられて。その姉君はナタリー様に瓜二つで、可憐なお方でした。」
「……ちょっと待て。最後の言い方まるで、姉さんに会ったと言ってるように聞こえるが?」


鋭いですね、と言ってるかのようにショウの目は愉しんでいて、それを見たメテオは無表情のままで、どういうことか説明しろと射抜くような目で訴えた。



「この前人間界でね、俺が経営してるお店に姉君が来ておりましたよ。」
「………そう、か。」


戸惑う声とは裏腹にメテオの顔は何処か安心な表情を浮かべる。するとショウはその一瞬を見逃さなかった。


「メテオ様もそういうの出来るじゃないですか!」
「……何のことだ。あと、ショウから様付けで呼ばれるのは虫唾が走る。」
「素直じゃないですね~。あと何気に酷いですよ!」


メテオはすぐに無表情に戻してムッと眉にシワを寄せれば、ショウはやれやれと肩を竦めた。


「俺はこれであの男に戻りますよ。まだ任務の途中ですので。」
「玄関まで見送ろう。この屋敷の主人として客を見送るのは当然の礼儀だろう。」
「俺は貴族ではありませんので、気を遣わせないで下さい。"我が主人殿"。」


そう言ってショウは歩み寄るメテオを制して、ガチャっとドアを開けて部屋から出て行く。


「………………」


自分の部屋で一人になったメテオは書斎室に入って、机と睨み合うように書類に書き始めた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢の残した毒が回る時

水月 潮
恋愛
その日、一人の公爵令嬢が処刑された。 処刑されたのはエレオノール・ブロワ公爵令嬢。 彼女はシモン王太子殿下の婚約者だ。 エレオノールの処刑後、様々なものが動き出す。 ※設定は緩いです。物語として見て下さい ※ストーリー上、処刑が出てくるので苦手な方は閲覧注意 (血飛沫や身体切断などの残虐な描写は一切なしです) ※ストーリーの矛盾点が発生するかもしれませんが、多めに見て下さい *HOTランキング4位(2021.9.13) 読んで下さった方ありがとうございます(*´ ˘ `*)♡

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

処理中です...