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第1章:第4節

言い合いはほどほどに

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翌日、私は凪と七海君の部屋にて入院してた分の授業ノートを凪から見せて貰っていた。今日は土曜日のため学校がない。


「藤野先輩、良かったら、これ、どうぞ。」
「ありがとう、七海君。」


七海君が私の近くにレモンティーを置き、邪魔しないように隅っこで座っていた。


「七海君、もうちょっとこっちにきても良いんですよ?」
「いえ、そういう、わけには、いきません。藤野先輩の、邪魔、したくない、ですから。」


七海君は私に気を遣っているからかそこから動こうとしなかった。


「そうだよ、七ちゃん!もうちょっとこっちにきても……」
「桃野。テメェは、近づきすぎだ!」


凪が私の横に近づき、七海君を手招こうとしたらミナトにより、引き剥がされる。


「ちょっ香月君!何してくれてんの!」
「………あんまりスピカにベタベタくっついてんじゃねぇぞ!」
「……何言っちゃってんの?僕とスピカちゃんは友達なんだよ?ただの同室者である君に言われたくないんだけど?」
「……いくら友達だからってテメェのは度が超えてんだよ!少しは七海に見習え!」


私の横にてミナトと凪がどうでもいいことで喚き始めていた。


 
「凪君と、香月先輩って、仲悪い、ですね……」
「………そこは同感しますよ」


七海君はブルブルと体を震えながら、二人の言い合いをみていた。私はハァーとため息を吐き、眉を寄せてこめかみに手を置く。


何故ミナトが凪と七海君の部屋にいるかと言うと、私が凪の部屋に行くと伝えたら凪に再び襲われる可能性があるからとミナトは眉を寄せて、大丈夫だと言っても頑に言うこと聞いてくれず、私の見張りとしてついてきたのだ。


因みに昨日は、深いキスと吸血行為のみで終わった後にこの二人の言い合いを聞いているため、物凄く頭がズキズキしていた。まるで二日酔いしたかのように気分が悪い。


「だ、大丈夫、ですか?」


私の具合に気付いた七海君は私の所に近づく。父親である風雅さんが病院の人である為、見る目がある。


「……大丈夫です。ただの寝不足ですから。」


それは本当のこと。なんせ昼頃に風雅さんの車内に寝て、その後ミナトの部屋にて起きた時間が夜の8時だった為、横になっても一睡も出来ず、私の目下に少しクマが出来ていた。


「でも、藤野先輩の顔、なんか、顔真っ青………」
「……だいだい香月君。君はスピカちゃんの何なの?」
「あ?んなの決まってんだろ?こいつの同室者で……俺の所有物だ」


七海君の言葉を遮って、二人の言い合いがまだ続いていたことに呆れていたが、ミナトが言った一言に私はガクッと体勢を崩れる。


「せ、先輩!?」
「七海君、本当に大丈夫ですから。」
「睡眠快適の、アロマ、持って、きます」


そう言って七海君は立ち上がり、個室部屋に入って行った。


(しょ……所有物って。)


多分、俺の女だとかそう言うことを言いたいんだろうけど生憎、私は男として過ごしている。ミナトなりにそれに近いものを言ったに違いない。頭の良い私はそう解釈する。


(まだ誰のものでもないし……)



「……は?所有物?スピカちゃんはものじゃないんだよ?人なんだよ?スピカちゃんをものみたいに言わないでくれるかな?香月君、君はまずこの子より物を大切にするべきだよ?」


けれど、凪にはその言葉が気に入らなかったらしく逆鱗を触れたようだ。

今の凪は完全にヤンデレになっていて、ミナトに対しては私が知らない間にいつの間にかヤンデレになっていた。


「ハッ、この前こいつを襲いかかったテメェが言えるセリフか?」
「……まさかこの子から君の匂いするなんて思ってもなかったからつい、ね」


凪の言い方からどうやらあの時に、凪は私の首筋についた匂いがミナトだと気付いていた。


「……というかそういう君だってさ、スピカちゃんを襲ったんでしょ?君の牙の後が残ってたよ?」
「俺は独占欲強いからな?当然だろ。」
「今時俺様とか、時代遅れだよ。僕みたいにさ、可愛くてキュートな小悪魔系男子の方が良いと思うんだよね~」
「可愛い?キュート、だ?桃野、テメェの場合は完全な猫被りじゃねぇか!」


そして二人の言い合いはヒートアップして、話の内容が完全に別物になっていた。


(というか、うるさい………)


頭がズキズキして、寝不足気味でこの二人の言い合いにより手が全然進んでおらず、集中出来なかった私はブルブルと体が興奮し始める。


「藤野先輩、お待た、せ、し…………」


ガチャリと七海君が出てきて、私から出てるオーラを触れて凍り付き、二人の言い合いを見た。



そしていつまで経っても終わらない二人の言い合いに、ついに私の中にある何かきれた。


「二人共、いい加減に……」
「いい加減にして下さい!!」


私が二人を止めようとしたら七海君が声を荒げる。


「今のは、七海、か……?」
「な、七ちゃん……?」


二人も言い合いをやめ、荒げた声を出す七海君に恐る恐る目を向けていた。


「……藤野先輩、今勉強中なんです。遅れた分を取り戻そうとしてるんです。僕みたいに静かに見守れないんですか?」


七海君の背後には黒いオーラを纏い、凪とミナトに言う。二人は七海君の圧倒的な変わりっぷりに黙っていた。


「僕は二年ですから、藤野先輩に教えることは出来ないですが、凪君と香月先輩は三年ですよね?…だったら、教えることが出来るはずです。」


普段の七海君はオドオドしさが醸し出しているのだが、こうなった七海君は一番恐ろしい。その証拠に喋り方がスラスラと言ってるし、オドオドしさが完全になくなっている。手に持ってたアロマがピキピキとヒビが入り、バリーンと床に割れ落ちる。そこから甘い香りがしたが今はそれどころではない。




「それに藤野先輩、完全な寝不足で体調が優れないにも関わらずこうして部屋に来てくださっているんです。出来れば藤野先輩をもう少し気を遣ってくれますかね?………先輩方?」


そして何よりも、今七海君が浮かべてる満面の笑みが父親の風雅さんにそっくりなのだ。


「…………は、はい」
「…………チッ」


七海君の変わりっぷりに凪はあまりの恐怖にブルブルと震え、ミナトはバツが悪そうな顔つきで舌打ちをした。

 
(血が流れてるな……)


私は七海君を風雅さんの面影みてそう思った。


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