22 / 30
第一章
21 疾走
しおりを挟む本来二人乗りの電動バギーに、運転席にニエス、助手席に勇一が座る。
ディケーネは、席の後ろにある荷物置き場に立ち、落ちないように片手で車体の上を横切る鉄パイプにつかまる。
自転車の後ろに立ち乗りする様な、無理矢理な格好で乗っていた。
森の中の街道では、馬車は簡単にはUターンができず立ち往生し、馬達は興奮してしまい嘶いている。
それでも、前方で起こっている戦闘から必死に逃げ出そうする商人が、次から次へと波のように押しかけてくる。
森の中の街道は、完全に混乱の坩堝と化していた。
そして、その人波の向こう側、さらに前方から、戦闘を感じさせる怒号や悲鳴が聞こえてくる。
そんな混乱の中を、逃げ惑う人の流れに逆らって電動バギーが逆送する。
「いそげ ニエス!」
「はい、御主人様。しっかり捕まっててくださいね!」
叫ぶと同時に、ニエスが、アクセルを力いっぱい踏み込む。
怒号と、嘶きと、悲鳴が、交差する中にヒュイイイインと甲高いモーター音が響き渡る。
タイヤが砂埃を巻き上げてから地面を蹴り、一気に電動バギーが加速した。
前方からは、逃げ惑う商人達が、どんどんこちらに迫ってくる。
驚く程の反応速度で、ニエスがハンドルを切って、人々を避ける。
半人半猫のニエスは、普通の人族より目と反射神経が、段違いに良い。
前方から転がるように走ってくる人を右に左に、ハンドルを巧みに切り返し、次々とかわして行く。
興奮して嘶く馬を避けた時など、馬の尻尾が車体に触れるくらいにギリギリだった。
左右に大きくハンドルを切るたびに、車体は大きく傾き、勇一はシートからずり落ちそうになる。
後ろに立ち乗りしているディケーネは、さらに大きく体がゆれているが、膝と腰を巧みに使いバランスを取っている。
道の中心に何台もの馬車が、立ち往生していた。
それを避け、街道の端、森と街道の境界線ギリギリに寄る。
いきなり目の前で、混乱した別の馬が、背に乗っていた人を振り落とした。
街道の端を走っていた電動バギーの目の前に、落ちた人が転がってくる。
よけられない!
勇一が、思わず目を瞑る。
「えいや!」
気合一閃。ニエスがハンドルを大きく切る。
電動バギーは森の中に突っ込んだ。
街道に平行して、道なき森の中を、草を掻き分けながら突っ走る。
ガタガタと上下に大きく揺れ、大量の小枝が車体に次々と当たる。
車体だけでなく勇一の顔や体にも、ビシビシと小枝が当たっていた。
「いて、いて、いててててててて」
スピードを出しているので、小さな小枝が当たるだけでもかなり痛い。
ディケーネは、後ろで上手に体をかがめて、うまく小枝を回避している。
道すらない暗い森の中を、無理矢理に爆走しつづける。
暗い森の中の前方に、行く手を阻む、なにかが見えた。
大木が斜めに倒れて、電動バギーの前方を塞いでしまっている。
あ、あたる!
勇一が、思わず首をすくめる。
「はいや!」
不思議な気合とともに、またもニエスがハンドルを大きく切り、街道へと戻る。
街道は、相変わらず混乱の坩堝と化していた。
急にUターンしようとした為だろうか、いくつもの馬車が横倒しになっていて、大量の荷物も街道にちらばっている。
そこへ人、馬、馬車が、前方の戦闘から必死に離れ様と、濁流のごとく入り乱れて押し寄せてくる。
その混乱の中を、電動バギーが掻い潜る。
馬車と馬車の間をスラロームのようにすり抜け、道いっぱいに転がった大量のトマトをぶちぶちと踏み潰す。
地面に転がっていた木箱は避けきれず、そのままタイヤに踏みつけられて、弾けるように砕け散った。
そして、行く手に二台の馬車が、道を塞ぐように止まっているのが見えた。
二台の間には僅かな隙間しかない。電動バギーの車体の幅では通り抜けできそうにない。
今度こそ ぶつかる!
勇一が、覚悟を決める。
「ほいや!」
三度、変な気合とともに、ニエスがハンドルを裁く。
馬車から転げ落ちたのであろう、地面に落ちている麻袋を、片輪だけで踏む超える。と、同時にハンドルを切り、片輪を地面から浮かせた。
まるでサーカスのように片輪走行のまま、車体を傾かせて、馬車と馬車の間の狭い隙間を見事にすり抜けた。
そして、二台の馬車をすり抜けると、急に目の前が、広がった。
街道が、ずっと先まで見渡せる。
だが、そこには、多くの白い鎧をきた兵士と、黒い革の胸当てをつけ黒い布で顔を覆った男達が倒れているだけだ。
どこか別の場所から、怒号と悲鳴が聞こえるが、目の前の街道には倒れた兵士達しかいない。
勇一が、胸についている無線マイクに話しかける。
「おい、タッタ聞こえるか? 姫様達はどこへ行った?」
『タツタです。Bグループは現在、二時の方向にある路地を逃走中です』
右に目をやると、確かに獣道のような細い横道の入り口があった。
周辺の草はふみつぶされていて、大量の馬がその細い道になだれ込んで行った後が伺える。
「ニエス、あの横道だ!」
「了解です」
指示をだすとすぐさまニエスが電動バギーを横道へと走らせる。
『なお、Aグループの人の生命反応数183、Bグループの人の生命反応数34となっておりまり。
至急対応をお願いいたします』
横道は狭く、左右に巨大の木の枝がおおいかぶさるようになっている。
まるで木で作られたトンネルようだ。
その木のトンネルの中を電動バギーは、疾走していく。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
異世界列島
黒酢
ファンタジー
【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!!
■【毎日投稿】2019.2.27~3.1
毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。
今後の予定(3日間で計14話投稿予定)
2.27 20時、21時、22時、23時
2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時
3.1 7時、12時、16時、21時
■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―
EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。
そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。
そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる――
陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。
注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。
・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。
・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。
・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。
・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる