異世界スクワッド

倫敦 がなず

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第一章

21 疾走

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 本来二人乗りの電動バギーピェーピェーに、運転席にニエス、助手席に勇一が座る。
 ディケーネは、席の後ろにある荷物置き場に立ち、落ちないように片手で車体の上を横切る鉄パイプフレームにつかまる。
 自転車の後ろに立ち乗りする様な、無理矢理な格好で乗っていた。

 森の中の街道では、馬車は簡単にはUターンができず立ち往生し、馬達は興奮してしまい嘶いている。
 それでも、前方で起こっている戦闘から必死に逃げ出そうする商人が、次から次へと波のように押しかけてくる。
 森の中の街道は、完全に混乱の坩堝と化していた。
 そして、その人波の向こう側、さらに前方から、戦闘を感じさせる怒号や悲鳴が聞こえてくる。

 そんな混乱の中を、逃げ惑う人の流れに逆らって電動バギーピェーピェーが逆送する。

「いそげ ニエス!」
「はい、御主人様。しっかり捕まっててくださいね!」

 叫ぶと同時に、ニエスが、アクセルを力いっぱい踏み込む。
 怒号と、嘶きと、悲鳴が、交差する中にヒュイイイインと甲高いモーター音が響き渡る。
 タイヤが砂埃を巻き上げてから地面を蹴り、一気に電動バギーピェーピェーが加速した。
 前方からは、逃げ惑う商人達が、どんどんこちらに迫ってくる。
 驚く程の反応速度で、ニエスがハンドルを切って、人々を避ける。
 半人半猫のニエスは、普通の人族ヒューマンより目と反射神経が、段違いに良い。
 前方から転がるように走ってくる人を右に左に、ハンドルを巧みに切り返し、次々とかわして行く。
 興奮して嘶く馬を避けた時など、馬の尻尾が車体に触れるくらいにギリギリだった。
 左右に大きくハンドルを切るたびに、車体は大きく傾き、勇一はシートからずり落ちそうになる。
 後ろに立ち乗りしているディケーネは、さらに大きく体がゆれているが、膝と腰を巧みに使いバランスを取っている。

 道の中心に何台もの馬車が、立ち往生していた。
 それを避け、街道の端、森と街道の境界線ギリギリに寄る。
 いきなり目の前で、混乱した別の馬が、背に乗っていた人を振り落とした。
 街道の端を走っていた電動バギーピェーピェーの目の前に、落ちた人が転がってくる。

 よけられない!
 勇一が、思わず目を瞑る。

「えいや!」
 気合一閃。ニエスがハンドルを大きく切る。
 電動バギーピェーピェーは森の中に突っ込んだ。
 街道に平行して、道なき森の中を、草を掻き分けながら突っ走る。
 ガタガタと上下に大きく揺れ、大量の小枝が車体に次々と当たる。
 車体だけでなく勇一の顔や体にも、ビシビシと小枝が当たっていた。

「いて、いて、いててててててて」

 スピードを出しているので、小さな小枝が当たるだけでもかなり痛い。
 ディケーネは、後ろで上手に体をかがめて、うまく小枝を回避している。
 道すらない暗い森の中を、無理矢理に爆走しつづける。
 暗い森の中の前方に、行く手を阻む、なにかが見えた。
 大木が斜めに倒れて、電動バギーピェーピェーの前方を塞いでしまっている。

 あ、あたる!
 勇一が、思わず首をすくめる。

「はいや!」
 不思議な気合とともに、またもニエスがハンドルを大きく切り、街道へと戻る。
 街道は、相変わらず混乱の坩堝と化していた。
 急にUターンしようとした為だろうか、いくつもの馬車が横倒しになっていて、大量の荷物も街道にちらばっている。
 そこへ人、馬、馬車が、前方の戦闘から必死に離れ様と、濁流のごとく入り乱れて押し寄せてくる。
 その混乱の中を、電動バギーピェーピェーが掻い潜る。
 馬車と馬車の間をスラロームのようにすり抜け、道いっぱいに転がった大量のトマトをぶちぶちと踏み潰す。
 地面に転がっていた木箱は避けきれず、そのままタイヤに踏みつけられて、弾けるように砕け散った。

 そして、行く手に二台の馬車が、道を塞ぐように止まっているのが見えた。
 二台の間には僅かな隙間しかない。電動バギーピェーピェーの車体の幅では通り抜けできそうにない。

 今度こそ ぶつかる!
 勇一が、覚悟を決める。

「ほいや!」
 三度みたび、変な気合とともに、ニエスがハンドルを裁く。
 馬車から転げ落ちたのであろう、地面に落ちている麻袋を、片輪だけで踏む超える。と、同時にハンドルを切り、片輪を地面から浮かせた。
 まるでサーカスのように片輪走行のまま、車体を傾かせて、馬車と馬車の間の狭い隙間を見事にすり抜けた。

 そして、二台の馬車をすり抜けると、急に目の前が、広がった。

 街道が、ずっと先まで見渡せる。
 だが、そこには、多くの白い鎧をきた兵士と、黒い革の胸当てをつけ黒い布で顔を覆った男達が倒れているだけだ。
 どこか別の場所から、怒号と悲鳴が聞こえるが、目の前の街道には倒れた兵士達しかいない。

 勇一が、胸についている無線マイクに話しかける。
「おい、タッタ聞こえるか? 姫様達はどこへ行った?」
『タツタです。Bグループは現在、二時の方向にある路地を逃走中です』

 右に目をやると、確かに獣道のような細い横道の入り口があった。
 周辺の草はふみつぶされていて、大量の馬がその細い道になだれ込んで行った後が伺える。

「ニエス、あの横道だ!」
「了解です」

 指示をだすとすぐさまニエスが電動バギーピェーピェーを横道へと走らせる。

『なお、Aグループの人の生命反応数183、Bグループの人の生命反応数34となっておりまり。
 至急対応をお願いいたします』

 横道は狭く、左右に巨大の木の枝がおおいかぶさるようになっている。
 まるで木で作られたトンネルようだ。

 その木のトンネルの中を電動バギーピェーピェーは、疾走していく。
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