異世界スクワッド

倫敦 がなず

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第一章

9 暗雲

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「じゃーな、ユーイチ」

次の日の朝。

「できるならユーイチがもう少し慣れるまで、一緒にいてやりたい気もするんだが、私も色々あって時間があまり無い。とりあえず怪我しないように無理はするなよ」

彼女は冒険者の中でも宝探しトレジャーハントを専門に行っているそうだ。
今回も一週間程、近くの遺跡に宝探しにいくとの事だ。
大きな背負い袋バックパックを背負ったディケーネは軽く手を振って別れの挨拶をした。
その後は、振り返りもせずにどこかへ旅立っていった。

そんな訳で、今日からは勇一は、一人だった。
この異世界で、一人っきりだ。頼れる者など、誰もいない。
心に湧き出てくる不安を追い払い冒険ギルドへと向かった。

冒険ギルドの掲示版で、今日受ける依頼#__クエスト__#を探す。
でも字が読めないので、まったくわからない。
ただ、字が読めない人向けの有料説明サービスがあるので安心ではある。
それっぽい依頼の紙を四枚ほど選んでカウンターに持っていく。
依頼の紙四枚分の料金、銅貨四枚を払うと、受付嬢が相変わらず非常に事務的な冷たい口調で、内容を説明してくれる。

『ブラックサーベルガゼルの退治 銀貨六枚』
『ビッグスクイレルの退治 銀貨二枚』
『ベルダスライムの退治 銀貨二枚』
『ホウラル草の採取 銀貨二枚』

討伐対象や魔物や、収穫対象になる草は、勇一のような初心者には、図鑑の絵を見せてくれて、内容もちゃんと説明してくれる。
ただ、都合よく敵の強さまでが解る訳ではない。
報酬の多さでおおよその依頼クエストの難易度は想像できるものの、どの依頼クエストがいいのかはまったくピンとこない。
当然といえば当然だが、悩んでしまう。

悩んでいる勇一の前で、受付嬢はあいも変わらず眉一つ動かさず、冷たい表情で待っている。
無言のプレッシャーを感じる。

なんかこの受付嬢、怖いからさっさと決めよう。
うーむ。
昨日は、ディケーネがいたから良かったが、ひとりでは、ホーンウィールズを六匹相手にするような依頼クエストは無理だよな。
下手に難しい依頼クエストを受けて大怪我でもしようものなら目も当てられないし。
ここはやはり安全そうな『ホルラウ草の採取』にするべきか。

そう考えて勇一が『ホルラウ草の採取』の依頼クエストを頼もうと、その依頼が書かれた紙を手にする。

その時、受付嬢はチラリと周りを確認した後に、殆ど口を動かさずに小声で呟いた。
「ホルラウ草が取れる池の周りで、危険な魔物が出ています」
受付嬢の顔は、正面を向いて事務的な冷たい表情を浮かべたままだ。
視線はそのまま動かさず、指先だけでさりげなく『ビッグスクイレルの退治』の依頼の紙を、小さくトントンと叩いた。
どうやら、この依頼クエストがおすすめらしい。

良く事情がわからないが、取りあえず、勇一もあまり回りに聞こえない程度の小声で礼を言う。
そして『ビッグスクイレルの退治』の依頼を受けることにした。


依頼を決め冒険ギルドの建物を出る。
空を見上げると、薄暗い曇が空一面に広がっていた。

「降ってきそうだな。雨具とかもってなけど、買ったほうがいいかな。
って、言うかこの世界って雨具とかどんなのがあるんだ? 傘ってあるのか?」

雨具があるのかすら解らないし、フード付きのローブを着ているから少しくらいの雨なら凌げるだろう。
そう考えて、雨具を買うのは止めにした。

ひとりっきりで依頼クエスト『ビッグスクレイルの退治』を遂行するために街を出た。

 ――――――

今回は、ビッグスクレイルの出る丘の場所が、直接依頼書に書かれていたので、その現地を目指す。
街を出てから南西に向かって街道を二時間ほど歩くと、その丘が見えてきた。

丘の頂上付近にビッグスクレイルの巣があるはずだ。
南西へ向かう街道から枝分かれした、獣道のような細いが丘の頂上へ向かって伸びている。
勇一は、その道を使って丘を登り始めた。

んんん?

丘を登り始めると、少しすると何か違和感がある。
なんだ、この胸に、引っかかる、もやもやしたこの感じ?
何なんだろう?

何が理由かが解らないので、気にしていても仕方ない。
そのまま丘を登り続ける。
空を見上げると更に雲が増えてきて、今にも雨が振り出しそうだ。

雲はどんどん増えていき、違和感もどんどん大きくなっていく。
その違和感を押さえ込んで、ただただ丘を登る。

丘の頂上付近に、ちょうど展望台のような形で突き出た岩があった。
勇一は、その岩に登ってみて、なにげに振り返る。

あ! この違和感の理由わかった!

丘の上なので抜群に見晴らしがいい。
空は暗雲立ち込めていて薄暗いが、遮るものがなく遠くまで見晴らすことができる。
足元には緑の草原が広がり、ダーヴァの街も小さく見える。
そして遠くに連なる山々のさらに向こう側に、"富士山"があった。

この風景に見覚えがあるんだ!
俺は、この丘とそっくりの形の丘にも、登ったことがあるぞ!?
いや、でも、ここって異世界だろう??! どういうこった?
それに、あの"富士山、"おかしいだろう。

山々の向こうに見える"富士山"の中腹には、ぽっかりと大きなクレーターが開いていた。


「いよぅうう 新人くぅぅぅん」

混乱する勇一は、いきなり声を掛けられて、心臓が口から飛び出すかと思うほど驚いた。
ドキドキする心臓を押さえながら声のほうを振り返ると、昨日ディケーネに絡んでいた、あのモヒカン男が立っている。

なぜ ここに?
嫌な予感しかしない。
槍を両手でしっかりと握り、構えなおす。

「おいおぅい 新人くぅぅん、そんな怖い目で睨むなよぉおう」

へらへらとした笑顔を浮かべて近づいてくる。
なぜか、昨日よりは、若干ながら友好的な雰囲気がある。

「いい眺めだねぇええ。グラファドざんも、綺麗にみえらぁあ。
もうちょっと天気がよければ最高だったんだけどねぇええ」

モヒカン男は勇一のすぐ近くまできて、のんきに並んで風景を見つめる。

「何のようだ?」

「だからぁあ、そんな怖い目で睨むなよぉう。ちょほいとぉ 聞きたいことがあるだけだょおお。
ギルドの受付けでも、確かめたんだけどさぁ 新人くぅうんってぇ あの女、ディケーネちゃんとパーティー組んだ訳じゃないぃんだってぇえ?」
「ああ、ちがう」

「じゃあさぁあ、なぁぁぁんで、昨日はあの女とぉ一緒にいたのぉ?」

相手が何が目的なのか解らない。
だが、嘘を言っても余計に話をこじらせるだけの気がする。
正直に答えた。

「昨日は一日だけガイド兼護衛として、一緒にいてもらっただけだよ」

「なるほぉど、なるほぉぉおどぉぉぉおお。
一応確かめるためにぃ 尾行なんかもぉしちゃったけどぉ。今日はひとりぃだしぃ。
本当みたいだよぉぉねぇえ。
いやぁ ごめぇんごめぇん、俺達ちょっぉと勘違いしてたみたいだよぉ。
本当に関係者ってわけじゃぁ無いみたいだねぇ。
だっからさぁ……」

いきなり腹に、蹴りを入れられた。
勇一は、崩れ落ちるように地面にひざを突いてしまう。
胃液が逆流して、口から涎と共に吐き出される。

「だっからさぁ、これくらいで許しといてやるよぉおおお」

魔法のローブを着ているので、それなりに衝撃は吸収されているはずだ。
それなのに、この威力。
不意を付かれモロに決まったとは言え、かなりの破壊力ある蹴りだった。
痛みで体が痺れて立ち上がれない。
このモヒカンの男、チンピラっぽい見た目とふざけた言動をしているが、首からさげているのはディケーネと同じ金の札ゴールドプレートだった。
見た目とは裏腹に、それなりの実力があるのかも知れない。

「あぁばよぉぉおお 新人くぅぅん。」

手の平をひらひらとふりながら去っていくモヒカンの男。
その後姿にむかって、悪態のひとつもつきたかったが、痛みで声さえ出すことができない。
腹の痛みが治まるのをじっとして待つ。
回復薬ポーションを飲むと、痛みもすぐに治まるのは解っているのだが、怪我したわけでもないのに回復薬ポーションを使うのはもったいない。
だから、痛みが治まるのをじっとして待つ。
いつの間にか、冷たい雨が降り始めていた。

地面にひざを突き、雨にずぶ濡れになりながら、
ただひたすらに痛みが治まるのを、じっと待った。
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