僕が可愛いって本当ですか?

さよ

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本編

魔王も勇者もここにはいない

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「こんなやつより、俺の方がお前のこと好きに決まってんだろ!? 幸多、お前、俺と何年一緒にいたと思って……っ! 何も気づいてないのか?」
「すき? むしろ僕のこと嫌いなんだとばかり思っていたんだけれど」
「結婚できるってんなら俺だって……!!」
「ん? 結婚?」
「はい、そこまで。勇者(仮)のことはデンドルムが帰ってきてから話そう」

 突然割り込んだヒューが会話を遮った。幸多と始は一緒にしない方が良いと判断したらしい。
 そしてデンドルムの帰宅後。

「帰る理由がなくなった。そもそも幸多を見つけるために帰り方を探していたんだ。ここに住むとは言わないが、通ってでも幸多の側にいる」
「こりゃまた、えらいもん引っかけてきたな、幸多」
「う、うーん」

 デンドルムはただ驚いて不思議そうにしているだけだ。ため息をついたヒューの背中をなでながら幸多は困った顔をした。どう対処したものか。
 二人も夫がいると知った始は「お前もかよ……!」と頭を抱えていた。

 話し合いは難航し、もう遅いのでとりあえず今日だけ泊まる許可を出して解散となった。

◇ ◇ ◇

 ――幸多が始に会ったのは三年ぶりだろうか。

 口が悪くて友達と呼べるのかわからない幼馴染み。高校が別々になってからは全く連絡を取っていないけれど、外でばったり出くわすこともあった。軽く挨拶をするくらいで何を話すわけでもなかったが。

 言われた言葉をその言葉通りに受け取っていたときは、いじめられているのではないかと思うこともあった。それでも一緒にいたのは、始が離れなかったこともあるが幸多を複数で囲むことはなかったからだ。
 必ず一対一で、言い方がキツいだけで嘘を言っているわけではないし、暴力を振るわれたこともない。
 売られた喧嘩は買っていたようだけれど、そういった相手とは関わったことがないのでよく知らなかった。

 始にはたくさんの友達がいた。それが一時期、幸多をかばったというだけで周りが離れていって孤立したことがある。
 そんなときでも始の態度は何も変わらなかった。折れることもない。何か言えば倍になって返ってくるし、喧嘩も弱くない。
 敵対しても良いことはないと気づけば、再び人が集まるのに時間はかからなかった。

(そんな始にちょっと憧れた時期があったなぁ)

 翌日以降、幸多の隣に勇者(仮)の姿が加わることとなる。
 召喚されたときに持っていた鞄はまるごとこちらに持ってこられたようで、ゲームは動かなくなっていたが携帯電話だけは充電方法を見つけ生きていた。

 懐かしい物ばかりでいつの間にか幸多の表情は緩み笑顔になる。

「時間の問題というのがわかって、腹が立つなあ」
「もとの世界から追いかけてきたようなもんだし、少しくらいは許してやってもいいと思うぞ」
「デンドルムは嫌じゃないのか?」
「幸多、楽しそうだしなぁ。慣れてきたとは言えこの世界は知らないことだらけで、まだ不安なことも多いと思ってな。もとの世界にあまり良い感情はなさそうだが、始は幸多の支えになるんじゃないか?」

 ヒューとデンドルムに話してもわからない内容だってある。
 実際、始と幸多の話を隣で聞いていて知らない単語が出ることもあり、気になるところは聞いてみたり複雑に思いながらも聞き流したりしていた。
 長いこと一緒にいたからか、幸多の変化には敏感みてぇだし? とデンドルムは二人を眺める。

 日によっていろいろな話をした。
 旅の苦労話や、幸多が突然いなくなってからの話、一度だけ一緒に撮った写真も残っていて驚いた。

 楽しく話す日々はあっという間に過ぎる。

「俺は十年以上、お前のことが好きなんだよ。幸多……頼むから俺を拒絶しないでくれ」

 そう言って幸多に軽く触れるだけのキスをする。数日、数十日と幼馴染みと過ごした時間が増えて、「そういえば、隣にいるのが当たり前だったなぁ」といつの間にやら受け入れていた。


 そしてある日、始は突然いなくなった。
 何かあったのではと心配するが、何の音沙汰もない。捜したくても外には出してもらえない。一度攫われているのだから、大丈夫だとは言い切れないだろう。
 始のいない時間が増えれば増えるほど、心ここにあらずで外を眺める幸多がいた。

 変化なく一ヶ月ほどが過ぎ……ヒューとデンドルムが本格的に幸多を心配し始めた頃。

「幸多!」
「! はじめ……?」

 始が屋敷へと訪れたのだ。
 無事で良かったとぽろぽろ涙を流す幸多を抱きしめ、やっかいごとは片付けてきた、と始が言った。どうやら召喚した男のもとへ行っていたらしい。

「幸多を巻き込みそうだったから、黙っていなくなった。ごめん」
「……うん」
「これで心置きなく言える。……俺と結婚してほしい」
「は、……っはい」

 ずびずび泣きながら喋る幸多を抱きしめる手は少し震えていた。
 この世界に来なければ、二人が付き合うことはなかったかもしれない。きっと、思いも告げずに離れたまま。始は、良くて友達。やっと、思いが通じた。

 左手の人差し指にはデンドルムの指輪。その二つ隣、薬指に始の指輪がはめられた。
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