僕が可愛いって本当ですか?

さよ

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本編

遠いところへ 1

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「急いでこの家を手放して、ハルーファスへ向かう」
「へ? ど、どういうこと?」
「俺の生まれ故郷というのもあるけれど……」

 初めて幸多の生活用品を調達しに行ったときのこと。自分のしでかしたことに焦っていたヒューは、周りをよく見ていなかった。
 ヒューが着るには大きすぎる洋服を急ぐように買い帰っていくところを、仕事仲間のデンドルムというエルフが目撃していたらしい。

「隠し事かと気になり、数日前にこの家の近くに来ていたみたいなんだよ」
「それで、なんでハルーファスへ行くの?」
「……何というか、窓際にいた幸多をデンドルムが見たんだと」
「ん?」

 いつかは話してくれるかと待っていたデンドルムは、何ヶ月経とうと何も話さないヒューにしびれを切らした。
 友人を心配してと言い訳していたが、気になって仕方がなかっただけだ。

 森の中に建てられているヒューの家は、魔物が減ればなんとかたどり着けるような場所である。ヒューは攻撃特化で自分は治癒や能力上昇が主であるため、一人で森に入るのは難しい。
 もう少し待てば、この森の魔物が活発になる時期も過ぎる。二十日後にヒューの家を訪ねることにした。

 慎重に数日かけて家が見えるところまで来たとき、窓を見て息をのんだ。
 この世界のエルフは薄い色を持つ者がほとんどで、自分と正反対の色や暗い色を好む傾向にある。それは宝石のように光り輝いて見えた。

 そうか、あれを隠していたのか、と気づいた。それと同時に“欲しい”という感情がわき上がってくる。なんとしてでも手に入れたい。
 あの子を手に入れるためにはヒューと話し合わなければならない。もちろん、黒髪のあの子の気持ちが最優先だが。
 できれば結婚相手に選んでもらいたいが、そこは時間をかけて口説き落とそう。とデンドルムは考えた。

 そしてヒューに会ってすぐに幸多のことを聞いた。自分もあの子のそばにいたいと語るデンドルムを放置し、ヒューは急いで帰ってきたのである。

「俺は必要に駆られるまで幸多を誰にも見せたくない。ましてや付き合い始めたばかりなのに……!」
「う、うん。それで移動するの?」
「デンドルムはすぐにでも押しかけてくると思うんだ。猶予は……五日くらいかな。それまでにこの家を出ないと」

 それに、と決心したかのように幸多を見つめる。

「親はもういないから紹介することはできないけれど……ハルーファスに着いたら、俺と結婚してほしい」

 魔族の結婚は、魔石に二人の魔力を流し、それをアクセサリーに加工してお互い付けるのだという。そして誓いの言葉を交わせば夫婦となる。
 片方が人間の場合、魔力を持つ方が二つのアクセサリーを作り、人間同士はまた違った方法だそうだ。
 魔石は主にハルーファスで作られているため手に入れやすい。

 性別は関係なく結婚できると聞いて戸惑った幸多だったが、告白自体は嬉しいので「はい」と答えた。

 ここを離れる準備は順調に進む。幸多には着替えと勉強道具くらいしか荷物はなく、それも魔法で拡張された鞄へヒューが放り込んで終了だ。
 家を売るのは時間がかかるようで、いったん保留としてハルーファスへと向かう。

 三日後。フードを目深にかぶり、幸多とヒューはハルーファスの近くへと転移して門にて手続きが終わるのを待っていた。
 ヒューは身分証となるカードを持っているが、幸多のものがないため入るには仮のカードが必要だ。通常のカードにするには中の施設で交換してもらうだけで良い。

 まだこの世界の言葉を読むのは難しく、名前だけを記入して後はヒューに確認してもらうため幸多はその場で待つ。
 ヒューは呼ばれて隣にある小さな建物へと入っていった。

(人が増えてきたなぁ……)

 そう思い二、三歩横へずれたときだった。腕を思い切り引っ張られ、数人が固まっている中へ引きずり込まれたかと思うと口を塞がれた。
 抵抗してみるがびくともしない。

 幸多はズルズルと引きずられ攫われていることは明らかだが、人数が多く囲われているせいか誰も声をかけることはなかった。
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