僕が可愛いって本当ですか?

さよ

文字の大きさ
上 下
1 / 21
本編

はじめてなんです 1

しおりを挟む
 卒業まであと一年。その一年を耐えることができなかった。
 ぽっちゃりと言えば可愛く聞こえるかもしれない。横に広がった小さくはない体に、睨んでいるように見える細いつり目。
 他にもいくつかの要素が重なり、よく酷いことを言われた。引っ込み思案な性格もあり、いじるにはちょうど良い人間だったのかもしれない。

 誰にも相談などできず、幸多こうたは部屋へ引きこもるようになった。

 何もやる気が起きない。夜になり、動きたくはないがせめてお風呂だけでもと服を脱いで、下着に手をかけたときだった。

「え?」

 目の前には洗濯機があったはず。床は石じゃなくて……ああ、脱いだ服を入れたカゴもなくなっている!?
 混乱したまま顔を上げてみるが記憶にない物ばかり。とはいえ、視界に入るのは小さな棚だけで殺風景な部屋だった。
 瞬きをした瞬間に一体何があったのか……。

 ギッ、と小さな音に振り返ると、ベッドに腰掛けた男が幸多を見つめていた。
 酔っているのか、頬も赤くなんだかフワフワした様子で首をかしげる。

「可愛い……君の名前を聞いても良い?」

 髪は明るめで……黄金色かな? 毛先がうねっていて顎よりも少し長い。垂れ目で色気のあるお兄さんだ。すごく整った顔をしている。
 幸多は見られているのが恥ずかしくなり、彼から目をそらした。

 そらした先で本やランプのようなものが浮いているのが見える。
 手品? ……ベッドがあるし寝室のはずだ。わざわざそんなことをするだろうか?

「俺はヒュー、君は?」
「あ…………僕は、幸多」

 顔の整ったヒューに微笑まれ、幸多は固まった。そんなことはお構いなしに、ニコニコとしながら立ち上がり幸多に近づく。
 きっとこれは夢だ、とヒューは思った。

 そろそろ食糧が尽きると、久しぶりに依頼を受けた。魔力を持つと知られている者は人族の国ではまともに仕事もできないが、魔族の住む国では力さえあればそれなりの仕事はある。

(人族だけの国なんて、見てくれが最悪というだけで門前払いされることもあった。……この子には魔力はなさそうなのに、驚いているだけのような……?)

 魔力を持つ者は皆魔族と呼ばれる。決めたのは“人間”だ。
 少し力を使える者でさえ魔族なんて言われて、ヒューは同じ姿形なのに違いがよくわからないな、と常々思っている。

(あー……俺好みの子が目の前にいる。あり得ない。醜い俺を見ても逃げないなんて……それに、突然現れたよね? 魔法を使った感じもなかったし……俺、いつの間に眠ったんだろう)

 頭はクラクラするが、今まで頑張ってきたヒューに良い夢を見せてくれているのだ。今日の依頼はヘマしたわけだが。

 花の魔物から、娼館で使われる媚薬の素材を採取すること。数回受けているが、状態異常を食らったのは今回が初めてだ。
 数時間程度で消えるはずだが、興奮状態で勃ったままおさまらない。つらい。
 この状態で花の近くにいると触手に捕まってしまう。素材は集まったし、ここにいる魔物は移動しない。すぐにでも逃げてしまおう……と、ヒューは自宅に転移したのだった。

 …………そんなことを考えている場合じゃない。

「……っ」

 ヒューは急いで幸多に近寄ると、左手で肩をつかみ右手を棚へ向けて二回揺らす。すると置いてあった瓶が浮き、フタが外れるとヒューの近くで停止した。
 中に入っている一センチ程のピンクの玉を一つつまむと、幸多の唇に軽く押しつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

美醜逆転の世界で推し似のイケメンを幸せにする話

BL
異世界転生してしまった主人公が推し似のイケメンと出会い、何だかんだにと幸せになる話です。

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

処理中です...