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さよなら 2
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チェスゴーを抜け、その先を目指して歩いた。そして、目の前には奥の見えない洞窟がある。
手の平ほどの赤い花が咲いているという話は本当だったようだ。入り口には何本かのロープが張られているが、間をくぐれば簡単に侵入できてしまう。動物の声すら聞こえない静かな場所だった。
……教えてもらった場所は確かにあった。洞窟の少し手前で立ち止まり、光の当たる場所を眺める。
アカツキは言っていた。必ず一緒に行く、と。一人で行くつもりならば追いかけると。
この人を置いて消えたくはないな、と思ってしまった。だから、期限となる一年ギリギリまで考えて、アカツキの手を取りここへ来た。
巻き込んでしまうけど、離ればなれになるよりは良い。
諦めたと口にしても、きっと心のどこかには元の世界を思う気持ちが残り続けるのだろう。大切な人を見つけ、共に生きることを家族に言えたら良かったのに。
アカツキと手を繋ぎ、そんなことを考える。
私は、この人と生きることを選んだ。
「行こう」
そう言って、二人で洞窟へと入る。条件すらわからないし、何も起こらなければ来た道を戻るだけだ。
地面に差し込んでいた光が途切れて数歩進んだところで、持っていた灯りが消えた。着け直そうにも真っ暗で何も見えず、アカツキが手探りで着けてもすぐに消えてしまう。仕方がないので気をつけながら暗闇を進むことにした。
更に何歩か時間をかけて歩くと、でこぼこはほとんどなくなり突然目の前の景色が変わった。
驚いて動こうとするがピクリとも動けない。むしろ勝手に景色が流れていく。握っていた手の感触でアカツキの存在を感じられ、ホッとした。大丈夫、側にいる。
本人視点で記憶を見ているのだろうけど、まるで自分が他人の体に入ったみたいで気持ち悪い。どこかへ向かっているのか走っている途中で急に景色が歪み室内が見えた。
短い間に何度も切り替わるのをしばらく眺める。個人差はあるけど一人の記憶がある程度まとまっているみたいだ。
『ふふっ…………ありがとう』
ふと、懐かしい言葉が聞こえてきた。女性は笑い声を上げ、隣にいる男性と楽しそうに会話をしている。基本的には異世界の言葉で、たまに呟かれる日本語。
彼の好きなところ、今度はどこへ行こう、話は途中で切れ次々変わっていく。彼の記憶も混ざり飛び飛びで、僅かしか見ることができなかった。
月明かりに照らされ涙する彼女に近づく彼が名前を呼んだのを最後に、記憶は切り替わった。
二人、三人と過ぎていく中、これ以上知ることはないんじゃないか、長く見過ぎてはいけない気がすると、ぎゅっと目を閉じる。
帰る方法は、わからなかった。帰るつもりはなかったけど、私の知る懐かしい風景が見られるのではないかと少し期待していた。
体は動くようになったが震える手でアカツキを軽く引っ張り後ずさる。気づいたアカツキは、ゆっくりと動き出した。
段々と小さくなる音と足下に注意して二人で歩く。また動けなくなっては困るので目は瞑ったままだ。音が聞こえなくなる場所まで来て目を開け振り返ると、入り口から光が差しているのが見えた。
洞窟から出て周りを確認する。目印になっていた花はなくなり、ロープはボロボロで草の中に落ちていた。
ここにいるだけでは詳しいことはわからない。一度ドタウェアに行かなければ……。
隣に並んだアカツキをチラリと見て、洞窟に入る前を思い出す。
『私と一緒に生きてくれる?』
そう言った私に真剣な表情で頷いてくれた。
『アカツキのことが好き』
緊張してつっかえながら言った私を抱きしめて、「愛してる」と言ってくれた。
問題は山積みで、先は見えない。それでもこの世界に残ることを決めたから、あなたがくれた言葉を大切に抱えて挑もうと思う。
辛いときは思い出して、それでも足りなかったらちょっぴり頼ってしまうかもしれないけど……。アカツキが弱っていたら私も支えられるように頑張ろう。
心の中で、帰るはずだった世界に別れを告げた。
落ちそうになる涙を拭い、よし、と気合いを入れてアカツキを呼ぶ。
「ドタウェアはあっちだったよね?」
「ああ」
森の向こうを指さした私に微笑んだアカツキは、私の頬をなでキスをした。
手の平ほどの赤い花が咲いているという話は本当だったようだ。入り口には何本かのロープが張られているが、間をくぐれば簡単に侵入できてしまう。動物の声すら聞こえない静かな場所だった。
……教えてもらった場所は確かにあった。洞窟の少し手前で立ち止まり、光の当たる場所を眺める。
アカツキは言っていた。必ず一緒に行く、と。一人で行くつもりならば追いかけると。
この人を置いて消えたくはないな、と思ってしまった。だから、期限となる一年ギリギリまで考えて、アカツキの手を取りここへ来た。
巻き込んでしまうけど、離ればなれになるよりは良い。
諦めたと口にしても、きっと心のどこかには元の世界を思う気持ちが残り続けるのだろう。大切な人を見つけ、共に生きることを家族に言えたら良かったのに。
アカツキと手を繋ぎ、そんなことを考える。
私は、この人と生きることを選んだ。
「行こう」
そう言って、二人で洞窟へと入る。条件すらわからないし、何も起こらなければ来た道を戻るだけだ。
地面に差し込んでいた光が途切れて数歩進んだところで、持っていた灯りが消えた。着け直そうにも真っ暗で何も見えず、アカツキが手探りで着けてもすぐに消えてしまう。仕方がないので気をつけながら暗闇を進むことにした。
更に何歩か時間をかけて歩くと、でこぼこはほとんどなくなり突然目の前の景色が変わった。
驚いて動こうとするがピクリとも動けない。むしろ勝手に景色が流れていく。握っていた手の感触でアカツキの存在を感じられ、ホッとした。大丈夫、側にいる。
本人視点で記憶を見ているのだろうけど、まるで自分が他人の体に入ったみたいで気持ち悪い。どこかへ向かっているのか走っている途中で急に景色が歪み室内が見えた。
短い間に何度も切り替わるのをしばらく眺める。個人差はあるけど一人の記憶がある程度まとまっているみたいだ。
『ふふっ…………ありがとう』
ふと、懐かしい言葉が聞こえてきた。女性は笑い声を上げ、隣にいる男性と楽しそうに会話をしている。基本的には異世界の言葉で、たまに呟かれる日本語。
彼の好きなところ、今度はどこへ行こう、話は途中で切れ次々変わっていく。彼の記憶も混ざり飛び飛びで、僅かしか見ることができなかった。
月明かりに照らされ涙する彼女に近づく彼が名前を呼んだのを最後に、記憶は切り替わった。
二人、三人と過ぎていく中、これ以上知ることはないんじゃないか、長く見過ぎてはいけない気がすると、ぎゅっと目を閉じる。
帰る方法は、わからなかった。帰るつもりはなかったけど、私の知る懐かしい風景が見られるのではないかと少し期待していた。
体は動くようになったが震える手でアカツキを軽く引っ張り後ずさる。気づいたアカツキは、ゆっくりと動き出した。
段々と小さくなる音と足下に注意して二人で歩く。また動けなくなっては困るので目は瞑ったままだ。音が聞こえなくなる場所まで来て目を開け振り返ると、入り口から光が差しているのが見えた。
洞窟から出て周りを確認する。目印になっていた花はなくなり、ロープはボロボロで草の中に落ちていた。
ここにいるだけでは詳しいことはわからない。一度ドタウェアに行かなければ……。
隣に並んだアカツキをチラリと見て、洞窟に入る前を思い出す。
『私と一緒に生きてくれる?』
そう言った私に真剣な表情で頷いてくれた。
『アカツキのことが好き』
緊張してつっかえながら言った私を抱きしめて、「愛してる」と言ってくれた。
問題は山積みで、先は見えない。それでもこの世界に残ることを決めたから、あなたがくれた言葉を大切に抱えて挑もうと思う。
辛いときは思い出して、それでも足りなかったらちょっぴり頼ってしまうかもしれないけど……。アカツキが弱っていたら私も支えられるように頑張ろう。
心の中で、帰るはずだった世界に別れを告げた。
落ちそうになる涙を拭い、よし、と気合いを入れてアカツキを呼ぶ。
「ドタウェアはあっちだったよね?」
「ああ」
森の向こうを指さした私に微笑んだアカツキは、私の頬をなでキスをした。
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