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零れ落ちる 3
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「……これは」
「! あ、あんた、それをどこで……」
拾い上げてみると、見たことのあるおもちゃのコイン。あれ? 私、持ってきた記憶なんてないけど……。間違って入れたのかな。
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も、それはオレが作ってやった物だ。オレには息子がいてな。幼い頃にシラが枯れて落ち込んでいたから、作って渡したんだ。それならずっと持っていられるだろうと……」
「でも、何で森に?」
「森にあったのか? ……そうか」
顔を覆ってうつむくホレスは、ぽつりぽつりと話し出す。
「あの子は……遊びに行ってくると出て行ったきり帰ってこないんだ」
十一歳の少年は母親思いで、体の弱かった母のことをずっと心配していた。ベッドに横たわって微笑む女性の横には少年が常に張り付いていた。
だんだんと弱っていく母に悲しい顔をして欲しくないと笑顔を向けていたが、治す方法がわかっていない病気ではどうすることもできない。
悩んだ少年は、いつか聞いた薬になる花の話を思い出した。どうやら友人に相談したらしく、いつまでも帰ってこない息子を心配したホレスはその友人を訪ね話を聞くことができた。そして一人で森へ行ったことを知る。
花があるのは森の中にある川の近く。一人で行くことを許してもらえるとは思えない。ホレスは店があり一緒に行くことは難しく、休みまで待つように言った。
休みまで待てなかった少年は嘘をつき、一人で森へ行くことにしたのだろう。翌日、小さな鞄を持ち遊びに行くと言って姿を消した。
「森の中を捜索したが、見つからない。川に落ちてしまったのか、動物や魔物に襲われたか……」
私からコインを受け取ったホレスは涙声で言った。何か手がかりになるかと落ちていた場所をよく思い出し伝え、鞄をのぞき込んだら一番上にシラの花束が置かれていた。今日はいつもと違う鞄を持ってきたんだけど、ずっと入っていたのだろうか?
短く切られ、葉っぱでまとめられたそれを手に取り考える。
そういえば、仮眠をとった際に夢を見たんだよね。小学生くらいの男の子が小さな花束を持って私に話しかけていた。
『おねがい。シラの花を、お母さんにわたしたいんだ』
そう言ってこちらに近づき花を渡す。男の子はじっとこちらを見るだけで、それ以上何も言うことはなかった。
手に握らされた花束を見ようにも私の体は自由がきかず、動くことも喋ることもできないまま目が覚めた。
手を確認したが何も持っていなかったのでただの夢だと思っていたけど、実在する子だったのか……。いや、本人かどうかはわからない…………話を聞く限り本人だよね、多分。
「見つからないのだと諦めていたんだけどね……もう少し捜してみることにするよ」
「信じられないかもしれませんが、夢の中で、花をお母さんに渡したいとこれを渡されて」
「持って行ってやりたいが、この足で墓まで行くのは難しいかもしれん」
「お墓までは遠いんですか?」
「丘の上にあってな……あの目立つ白い木がある場所だよ」
指さされた窓の外を見ると、近くに緩やかな斜面に作られた階段が見える。歩いて行くのは問題なさそうだが、上までは階段ばかりで負担が大きい。
「私で良ければ持って行きますよ」
「こんなことまで頼んでしまって良いのかい? 報酬を上乗せできれば良いんだが」
「いえいえ、ただ私がお手伝いしたいだけなので気にしないでください。あ、でも知っていたら教えてほしいことがあって……明日か、無理であれば別の日にでもお伺いしても良いですか?」
別世界や召喚など帰る方法に関係しそうなことを知っていたら聞きたい。
明日で大丈夫だという返事をもらい、花を鞄にしまい肩にかけて帰る準備をする。少年を捜すのは私では足手まといになるだけだし、知り合いも少なく頼める相手はいない。
森で近くを通ることがあったら気にして周りを見るようにしよう。
ホレスにまた明日来ることを告げ店を出た。
宿に戻るとアカツキはすでに仕事を終わらせ、ロビーに並べられている椅子に座って待っていた。今日あったことと明日出かけることを話すと、アカツキも一緒に来るという。
何か良い情報が得られるならアカツキへの説明も省けるし、これからの旅をどうするかも相談できる。宿で出る朝食を済ませてから出かけようと決め、それぞれの部屋へと戻った。
「! あ、あんた、それをどこで……」
拾い上げてみると、見たことのあるおもちゃのコイン。あれ? 私、持ってきた記憶なんてないけど……。間違って入れたのかな。
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も、それはオレが作ってやった物だ。オレには息子がいてな。幼い頃にシラが枯れて落ち込んでいたから、作って渡したんだ。それならずっと持っていられるだろうと……」
「でも、何で森に?」
「森にあったのか? ……そうか」
顔を覆ってうつむくホレスは、ぽつりぽつりと話し出す。
「あの子は……遊びに行ってくると出て行ったきり帰ってこないんだ」
十一歳の少年は母親思いで、体の弱かった母のことをずっと心配していた。ベッドに横たわって微笑む女性の横には少年が常に張り付いていた。
だんだんと弱っていく母に悲しい顔をして欲しくないと笑顔を向けていたが、治す方法がわかっていない病気ではどうすることもできない。
悩んだ少年は、いつか聞いた薬になる花の話を思い出した。どうやら友人に相談したらしく、いつまでも帰ってこない息子を心配したホレスはその友人を訪ね話を聞くことができた。そして一人で森へ行ったことを知る。
花があるのは森の中にある川の近く。一人で行くことを許してもらえるとは思えない。ホレスは店があり一緒に行くことは難しく、休みまで待つように言った。
休みまで待てなかった少年は嘘をつき、一人で森へ行くことにしたのだろう。翌日、小さな鞄を持ち遊びに行くと言って姿を消した。
「森の中を捜索したが、見つからない。川に落ちてしまったのか、動物や魔物に襲われたか……」
私からコインを受け取ったホレスは涙声で言った。何か手がかりになるかと落ちていた場所をよく思い出し伝え、鞄をのぞき込んだら一番上にシラの花束が置かれていた。今日はいつもと違う鞄を持ってきたんだけど、ずっと入っていたのだろうか?
短く切られ、葉っぱでまとめられたそれを手に取り考える。
そういえば、仮眠をとった際に夢を見たんだよね。小学生くらいの男の子が小さな花束を持って私に話しかけていた。
『おねがい。シラの花を、お母さんにわたしたいんだ』
そう言ってこちらに近づき花を渡す。男の子はじっとこちらを見るだけで、それ以上何も言うことはなかった。
手に握らされた花束を見ようにも私の体は自由がきかず、動くことも喋ることもできないまま目が覚めた。
手を確認したが何も持っていなかったのでただの夢だと思っていたけど、実在する子だったのか……。いや、本人かどうかはわからない…………話を聞く限り本人だよね、多分。
「見つからないのだと諦めていたんだけどね……もう少し捜してみることにするよ」
「信じられないかもしれませんが、夢の中で、花をお母さんに渡したいとこれを渡されて」
「持って行ってやりたいが、この足で墓まで行くのは難しいかもしれん」
「お墓までは遠いんですか?」
「丘の上にあってな……あの目立つ白い木がある場所だよ」
指さされた窓の外を見ると、近くに緩やかな斜面に作られた階段が見える。歩いて行くのは問題なさそうだが、上までは階段ばかりで負担が大きい。
「私で良ければ持って行きますよ」
「こんなことまで頼んでしまって良いのかい? 報酬を上乗せできれば良いんだが」
「いえいえ、ただ私がお手伝いしたいだけなので気にしないでください。あ、でも知っていたら教えてほしいことがあって……明日か、無理であれば別の日にでもお伺いしても良いですか?」
別世界や召喚など帰る方法に関係しそうなことを知っていたら聞きたい。
明日で大丈夫だという返事をもらい、花を鞄にしまい肩にかけて帰る準備をする。少年を捜すのは私では足手まといになるだけだし、知り合いも少なく頼める相手はいない。
森で近くを通ることがあったら気にして周りを見るようにしよう。
ホレスにまた明日来ることを告げ店を出た。
宿に戻るとアカツキはすでに仕事を終わらせ、ロビーに並べられている椅子に座って待っていた。今日あったことと明日出かけることを話すと、アカツキも一緒に来るという。
何か良い情報が得られるならアカツキへの説明も省けるし、これからの旅をどうするかも相談できる。宿で出る朝食を済ませてから出かけようと決め、それぞれの部屋へと戻った。
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