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ペコペコ
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廊下の近くに座っての食事にも慣れた頃。
「またあんたなの?」
「ひどいなぁ」
すみません。つい心の声が。
それほど日にちを空けることなく、植物図鑑の人がやってきた。今回は食事中だったので出迎えることなく、その人は勝手に部屋へ入ってくる。どうやら図鑑は持ってきていないようだ。
今回は前よりもラフな格好をしている。
「あ。あの本はもう少し借りていてもいいかい?」
「いいですよ。私が持っていても使いませんから」
使わないのになぜ机に置いていたのか。それは……誰かが出しっぱなしにしていたから。その上に漫画を置いただけ。
食事しているところをじっと見られるのも落ち着かないので、先に二階の物置へと案内する。
ここは奥に荷物は置かれているが、手前は本棚があり床に置いてあるケースにも本が詰め込まれている。好きなように読んでいてください。
「ご飯を食べ終わったら呼びに来ます」
「……わかった」
本棚に釘付けになった男を気にすることなく一階へ降りる。もそもそと食事を再開し、お茶を飲んだ。残り少なかった食事をゆっくり終え、食器を片付け二階へ向かう。
ドアをノックして物置をのぞき込むと、誰の姿もなかった。
ケースの上に開かれた本を見てみると、キノコが載っている。少し持ち上げ表紙を見たら、毒キノコ図鑑だった。図鑑、好きねぇ。食べられるキノコじゃないのがまた……。
続きから見るかもしれないと、そっとケースの上へ戻した。持ったまま消えないように、手には持たず眺めていたのかな。
「あ、また名前聞くの忘れた」
そう呟いて一階へ。洗濯がまだだったので洗濯機に洗う物を突っ込んでいたら、また物音がした。
今日はお客さんが多いらしい。
「どちら様ですかー……」
玄関へ向かうと、アカツキが座り込んでいた。来るときは毎回玄関のドアからなんだね。
相変わらずボロボロの姿で、どうやって生きているのか気になるところだ。うつむき座ったままお腹を押さえて動かない。痛いのだろうか。
「……っ」
「あら、お腹がすいてるの?」
ぐぅとお腹を鳴らしたアカツキは、こくりと頷き顔を上げた。無表情だから何を考えているかはわからないけど、とにかく食べ物だよね。
すぐに消えてしまうかもしれないから、早く持ってこないと。
ちょっと待ってて、と声をかけて台所で冷蔵庫を漁る。一番最初に目に付いたのは、小さい鍋に入った味噌汁。……泥だと思われるかな。
とりあえず、隣にあったおにぎりを二つ手に持つ。ふりかけを変えて何種類か作っておいたのだ。食器を片付けるついでに入れたので、数時間も経っていないし硬くはないと思う。
片手で食べられるし……大丈夫だよね。ペットボトルに入ったお水と一緒にアカツキへ持って行った。
お水は蓋を開けて、おにぎりは外したラップを下に敷いて置く。しばらくじっと見ていたアカツキだったが、恐る恐る手を伸ばした。
「っ……!」
口に合ったのか無言で食べ進めるのを見て、安心して立ち上がる。
食べている間に台所へ戻りプリンを二つ取り出した。自分が食べたいだけなんだけどね。
蓋を開け、小さめのスプーンを上に置いてアカツキの元へ向かう。両手に持ったまま廊下に座った。
「甘い物が嫌いじゃなかったら、これもどうぞ」
そう言ってプリンを置いた。本当は机で食べた方が良いんだろうけど、それは次にする。
用意したのに何も食べられない、なんてことになったら悲しすぎる。
足も拭いて、お風呂にも入れたい。いつになったら気を許してくれるかなぁ。
……食べてくれたことを思えば、危ない人間じゃないとは思ってくれたのかも。そうだといいな。
「カナコ……ありがと」
そう言ってアカツキは消えた。
おにぎりもプリンも完食である。良かった良かった。
「またあんたなの?」
「ひどいなぁ」
すみません。つい心の声が。
それほど日にちを空けることなく、植物図鑑の人がやってきた。今回は食事中だったので出迎えることなく、その人は勝手に部屋へ入ってくる。どうやら図鑑は持ってきていないようだ。
今回は前よりもラフな格好をしている。
「あ。あの本はもう少し借りていてもいいかい?」
「いいですよ。私が持っていても使いませんから」
使わないのになぜ机に置いていたのか。それは……誰かが出しっぱなしにしていたから。その上に漫画を置いただけ。
食事しているところをじっと見られるのも落ち着かないので、先に二階の物置へと案内する。
ここは奥に荷物は置かれているが、手前は本棚があり床に置いてあるケースにも本が詰め込まれている。好きなように読んでいてください。
「ご飯を食べ終わったら呼びに来ます」
「……わかった」
本棚に釘付けになった男を気にすることなく一階へ降りる。もそもそと食事を再開し、お茶を飲んだ。残り少なかった食事をゆっくり終え、食器を片付け二階へ向かう。
ドアをノックして物置をのぞき込むと、誰の姿もなかった。
ケースの上に開かれた本を見てみると、キノコが載っている。少し持ち上げ表紙を見たら、毒キノコ図鑑だった。図鑑、好きねぇ。食べられるキノコじゃないのがまた……。
続きから見るかもしれないと、そっとケースの上へ戻した。持ったまま消えないように、手には持たず眺めていたのかな。
「あ、また名前聞くの忘れた」
そう呟いて一階へ。洗濯がまだだったので洗濯機に洗う物を突っ込んでいたら、また物音がした。
今日はお客さんが多いらしい。
「どちら様ですかー……」
玄関へ向かうと、アカツキが座り込んでいた。来るときは毎回玄関のドアからなんだね。
相変わらずボロボロの姿で、どうやって生きているのか気になるところだ。うつむき座ったままお腹を押さえて動かない。痛いのだろうか。
「……っ」
「あら、お腹がすいてるの?」
ぐぅとお腹を鳴らしたアカツキは、こくりと頷き顔を上げた。無表情だから何を考えているかはわからないけど、とにかく食べ物だよね。
すぐに消えてしまうかもしれないから、早く持ってこないと。
ちょっと待ってて、と声をかけて台所で冷蔵庫を漁る。一番最初に目に付いたのは、小さい鍋に入った味噌汁。……泥だと思われるかな。
とりあえず、隣にあったおにぎりを二つ手に持つ。ふりかけを変えて何種類か作っておいたのだ。食器を片付けるついでに入れたので、数時間も経っていないし硬くはないと思う。
片手で食べられるし……大丈夫だよね。ペットボトルに入ったお水と一緒にアカツキへ持って行った。
お水は蓋を開けて、おにぎりは外したラップを下に敷いて置く。しばらくじっと見ていたアカツキだったが、恐る恐る手を伸ばした。
「っ……!」
口に合ったのか無言で食べ進めるのを見て、安心して立ち上がる。
食べている間に台所へ戻りプリンを二つ取り出した。自分が食べたいだけなんだけどね。
蓋を開け、小さめのスプーンを上に置いてアカツキの元へ向かう。両手に持ったまま廊下に座った。
「甘い物が嫌いじゃなかったら、これもどうぞ」
そう言ってプリンを置いた。本当は机で食べた方が良いんだろうけど、それは次にする。
用意したのに何も食べられない、なんてことになったら悲しすぎる。
足も拭いて、お風呂にも入れたい。いつになったら気を許してくれるかなぁ。
……食べてくれたことを思えば、危ない人間じゃないとは思ってくれたのかも。そうだといいな。
「カナコ……ありがと」
そう言ってアカツキは消えた。
おにぎりもプリンも完食である。良かった良かった。
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