アリス様の仰せのままに

秋鹿たいてぃー

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ミエルカの悪夢

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母親が娘の手を引いて歩く。それは普通のこと。日常生活でそんな光景、いくらでもありふれている。

 でも、この瞬間ときのこの状況は普通や、日常生活からは、まるでかけ離れていた。普通と言い張るには不適切だし、日常と言い張るには何がが違っていて、かけ離れていた。

 何ががちがう。___何が違う?
 2歳の娘の手を引いて歩くには余りにも歩幅が大きく、速いことか。
 それとも、こんな真夜中に見知らぬ街の森を歩いていることか。
 あるいは___。あるいは、私とマードレが娘と母親という関係性からはかけ離れている関係になっているからか。

解らない。わからないけど、この手の引かれる先にはきっと、マードレはいない…そんな気がしてならなかった。

『ねぇ、メビウス。もし…もしも、お母さんが居なくなってもわがまま言わない?』

ほら、きっと。これってマードレがいなくなるってことだ。でもどうして?どうしてマードレはそんなに苦しそうで悲しそうで何かに溺れているようで。これでは、私を捨てるマードレを…嫌いになれない。

『マードレ…居なくなる…の?』

だめ。声が小さすぎた。小枝を踏んだときのパキパキという音。人の気配を感じて飛び去ったふくろうの音。木の葉や枯葉、草を掻き分ける音。きっとマードレには聞こえなかった。

『…っ!?』
背中にぶつかった。急にマードレの歩みがとまったからだ。

『メビウス…ごめんね』
 なんで?なんで謝るの?ぶつかったから?違う、そんな事じゃない。そんな事ではこんなに真剣な、暗い面持ちで謝ったりしない。

 怖い。早く帰りたい。

『マードレ!お家帰ろうよ。ねぇえ、マードレ!』
通せんぼをするようにマードレの目の前にまわった。これ以上先には行きたくない。行かせたくなかったから。

『ごめんね…』
 マードレが私の肩に手をかけた。
『え…っ?』
気のせいだろうか。マードレが遠のく。身体が仰け反る。落ちる、あぁ、落ちているのか。でもなんで。マードレは泣いているんだろう。

 なんでマードレは、私を突き飛ばしたんだろう。

『マードレ!ねぇっマードレ!行かないでっ、ねぇえ!行かないでっ、行っちゃ嫌だぁ!』

たった1m。たった1mの段差でさえ、2歳の身体には大きな壁だった。崖のように思えた。
 獅子は我が子を崖に落とすという。登れたものを育てて、登れなかったものは___見殺しにされる。

『マードレ!』

駄目だ…もう。マードレは見えない。置いて置かれた。私はもう死ぬんだ…。お洋服が汚れることも気にせずにその場に座り込んだ。お行儀が悪いって怒られるかな…











『そこに居るのはだれ…ですか…?』
あれから何時間程たっただろうか。目の前にはランプを持った同い年くらいの男の子とその後ろの方に母親のような人が立っていた。



これが私とクラインとの出会い。
マリア叔母様との出会い。
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