アリス様の仰せのままに

秋鹿たいてぃー

文字の大きさ
上 下
4 / 5

ミエルカの悪夢

しおりを挟む
母親が娘の手を引いて歩く。それは普通のこと。日常生活でそんな光景、いくらでもありふれている。

 でも、この瞬間ときのこの状況は普通や、日常生活からは、まるでかけ離れていた。普通と言い張るには不適切だし、日常と言い張るには何がが違っていて、かけ離れていた。

 何ががちがう。___何が違う?
 2歳の娘の手を引いて歩くには余りにも歩幅が大きく、速いことか。
 それとも、こんな真夜中に見知らぬ街の森を歩いていることか。
 あるいは___。あるいは、私とマードレが娘と母親という関係性からはかけ離れている関係になっているからか。

解らない。わからないけど、この手の引かれる先にはきっと、マードレはいない…そんな気がしてならなかった。

『ねぇ、メビウス。もし…もしも、お母さんが居なくなってもわがまま言わない?』

ほら、きっと。これってマードレがいなくなるってことだ。でもどうして?どうしてマードレはそんなに苦しそうで悲しそうで何かに溺れているようで。これでは、私を捨てるマードレを…嫌いになれない。

『マードレ…居なくなる…の?』

だめ。声が小さすぎた。小枝を踏んだときのパキパキという音。人の気配を感じて飛び去ったふくろうの音。木の葉や枯葉、草を掻き分ける音。きっとマードレには聞こえなかった。

『…っ!?』
背中にぶつかった。急にマードレの歩みがとまったからだ。

『メビウス…ごめんね』
 なんで?なんで謝るの?ぶつかったから?違う、そんな事じゃない。そんな事ではこんなに真剣な、暗い面持ちで謝ったりしない。

 怖い。早く帰りたい。

『マードレ!お家帰ろうよ。ねぇえ、マードレ!』
通せんぼをするようにマードレの目の前にまわった。これ以上先には行きたくない。行かせたくなかったから。

『ごめんね…』
 マードレが私の肩に手をかけた。
『え…っ?』
気のせいだろうか。マードレが遠のく。身体が仰け反る。落ちる、あぁ、落ちているのか。でもなんで。マードレは泣いているんだろう。

 なんでマードレは、私を突き飛ばしたんだろう。

『マードレ!ねぇっマードレ!行かないでっ、ねぇえ!行かないでっ、行っちゃ嫌だぁ!』

たった1m。たった1mの段差でさえ、2歳の身体には大きな壁だった。崖のように思えた。
 獅子は我が子を崖に落とすという。登れたものを育てて、登れなかったものは___見殺しにされる。

『マードレ!』

駄目だ…もう。マードレは見えない。置いて置かれた。私はもう死ぬんだ…。お洋服が汚れることも気にせずにその場に座り込んだ。お行儀が悪いって怒られるかな…











『そこに居るのはだれ…ですか…?』
あれから何時間程たっただろうか。目の前にはランプを持った同い年くらいの男の子とその後ろの方に母親のような人が立っていた。



これが私とクラインとの出会い。
マリア叔母様との出会い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...