マコト

りんごマン

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旅の始まり

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商店街をぬけて、大通りに出た。正直、どこへいけばいいかなんてわからない。
それでもいかなくちゃ。そんな心が、ぼくを焦らせていた。急がないと、まにあわない。なんとなく、そんな気がするのだ。
ぼくの足は自然に、ハタチくんの住むまちへと向かっていた。ぼくがハタチくんの住んでいるところを知っているのには理由がある。
じつは、好奇心でハタチくんにこっそりついていったことがあるのだ。

いつもどおりハタチくんが公園から出ていくのを確認して、足音をたてないようにあとをつけた。ときどき電柱や建物のかげに隠れながら、しんちょうに歩く。しばらくして、道路のむこうから歩いてくる男の子が見えた。背がハタチくんと似ていた。小学生くらいだろうか。
その時、ぼくはおどろいた。
男の子が急にハタチくんの元に駆け寄り、「おにいちゃん!」と、笑って声をかけたのだ。でも、兄弟にしては顔がちがいすぎる。
兄弟でないとしたらいったいなんなのだろう。それとも人間の子どもは、友達をおにいちゃんと呼ぶのが普通なのだろうか。
ハタチくんもすぐに笑顔になり、男の子の頭をなで始めた。

「ナギサくん、ひさしぶりだね」

「相変わらず、同じ歳に見えるね」

「そんなこと言わないでよ。僕はれっきとした高校生で、君と十歳も離れてるんだから」

ぼくはまた驚いた。
昔ぼくを拾ってくれた飼い主には、小学生の息子がいた。だから、小学生の身長はなんとなく知っている。そして、ハタチくんのことも小学生だと思っていたのだ。それがまさか、高校生だったなんて。
それだけじゃない。ハタチくんは、十歳も年下の男の子とこんなにも仲良さげに話している。

「ユメマキ公園に咲いてた花、きれいだね。なんていう花なの?」

「ナスタチウムっていう花だよ」

「へぇ~!ナスタチューム、きれい!」

「あはは、それは良かったな」

あれ?ユメマキ公園なんて初めてきいたぞ。もしかしてハタチくんは、一人でいろんな公園をまわって花を育てているのだろうか。
カミナリ公園でも、何度かハタチくんが花を植えて水やりをしているのを見かける。花の種類は、季節が過ぎるごとに変わっていった。太陽のひかりが反射しているせいか、どの花もすごく輝いて見えた。

「お兄ちゃん、毎日全部の公園を見にいくのって大変じゃないの?」

「大変じゃないよ。元気に咲いている花を見ると、僕も元気が出るんだ。」

二人の様子を遠くから見ていたぼくは、一人で感動していた。ハタチくんは、こんなにも心の優しい男の子だったのか。歳の離れた男の子と仲良くできる理由が、なんとなく分かった気がした。
ひと通りの会話が終わった後、二人は手を振って別れた。ぼくはまた、ハタチくんの後を追っていく。すると、今度は大人のおじさんが通りかかった。

「こんにちは。」

「やあ、ハタチくん。いつもゴミ拾い助かるよ。」

「いえいえ、やりたくてやってるだけですから。」

「ははは、そうかい。」

なんだって。ゴミ拾いをしているなんて、一度もきいたことがない。ぼくがあの公園でのんびり日向ぼっこをしているあいだに、ハタチくんはそんなことをしていたのか。良いことをしているはずなのに、なんで自慢も何もしてこないんだろう。
それにおじさんも、きっとハタチくんよりよっぽど歳上だ。ハタチくんが、まかさこんなに顔が広かったとは思っていなかった。

「また娘達と話してやってくれるか?君は女の子みたいだから話しやすいと聞いているぞ。」

「あはは、よく言われます。」

それを聞いていたぼくは、数日前にハタチくんが言っていたことを思い出した。

「僕、女の子らしいレナサちゃんが憧れなんだ。だから、僕も男の子らしくなりたいな。」

女の子みたいだと言われたハタチくんは、どんな気持ちだっただろうか。

「それじゃあ、今日は予定があるので……また、ゆっくり話を聞かせてください。」

「あぁ、楽しみにしているよ。」

おじさんは気分がよさそうに、大股で去っていく。その時のハタチくんは、ぼくからは顔が見えなかった。だから、何を考えていたのかもわからない。複雑な気分になり、僕はついていくのをやめた。

けれど、やっぱりハタチくんのことをもっと知りたいと思って、数日おきにハタチくんについていくようになった。その中で、何度かはハタチくんの家の近くまでついていっていたのだ。一ヶ月くらいしたら、それもバレちゃったけど。

だから、ハタチくんが住んでいる場所は何となくわかる。でも、そこに行ってどうすればいいのかなんて考えていない。ただただ、足だけが止まらずに街へむかっている。そのうち体力も減ってきて、お腹もすいてきた。そうか、そういえば今日はにぼしを少ししかもらえなかったんだったっけ。そのうえ、ひさしぶりに歩いたのだ。もっと前から運動しておけばよかった。あしどりはだんだん遅くなり、さっきまではいきおいよく走っていたはずが、今はとぼとぼ歩いている。ハタチくんのためにもがんばらなくちゃって思っていたのに。このままじゃ、ハタチくんのことを助けられないじゃないか。

その時だった。

「あれ、マコトじゃん」

聞いたことのある声がした。見上げてみると、そこにいたのはアイセちゃんだった。

ぼくがハタチくんを尾行していたとき、この子がハタチくんと話しているところを何度か見かけたことがあった。そして、ぼくもアイセちゃんに会ったことがある。明るくて優しかったけど、自慢の毛並みをぐしゃぐしゃにされたのはちょっと嫌だったな……。

アイセちゃんはぼくに近づいて来た。

「どうしたの?カミナリ公園にいつもいるんじゃないの?」

そうだ。ここでなんとか、ハタチくんのことを伝えられないだろうか。ぼくが迷っているうちに、アイセちゃんがまた口を開いた。

「あっ、もしかして、お腹空いたからここまできちゃった?」

そうじゃないんだ。お腹が空いているのは事実だけど……。

「それなら、丁度買ってきたウナギがあるから、ちょっとだけ分けてあげるよ」

結局、ぼくの目の前にはおいしそうなウナギが置かれてしまった。こんなもの、食べている暇はない。頭ではそう思っていても、ウナギを見ていると自然によだれがでてくるのだ。しばらくとまどったあと、ぼくはそのウナギをちょっとだけかじった。
おいしい。疲れてお腹がペコペコな状況だったからこそ、余計に美味しく感じてしまう。数秒後、ぼくの目の前にウナギはなかった。

「あはは、そんなにお腹すいてたんだね。またハタチのこと、よろしくね」

アイセちゃんはちょっと乱雑にぼくの頭を撫でたあと、走って行ってしまった。

あぁ、ぼくは何をやっているんだ。でも、ウナギを食べてお腹が満たされたおかげで、走る気力が戻ってきた。
まだあきらめちゃいけない。アイセちゃんにもう一度会えないだろうか。そう思ってあたりを見回してみたけれど、アイセちゃんの姿は見当たらなかった。
くそっ。まだだ。ハタチくんの友達はほかにもいるんだ。

ハタチくんを助けるために、ハタチくんの友達を探すんだ。ぼくはそう決意した。
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