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「もう疲れたんだよ!何で俺なんだよ!頼る奴なんて他にもいるじゃねぇか!頼むから俺をほっといてくれ!」
「尚弥…!」

バッ。汗が凄い。久々に“あの日”の夢を見た。最近楽しく過ごしてるせいだろうか。神様が“あの日を忘れるな”とでも言っているのだろうか。忘れたことなどあるはずもない。俺が…“あいつ”を殺したんだから。とりあえず、顔洗って身支度でもするか。

「尚弥くーん、お待たせ!」
「いや、俺もちょうど着いたところだよ。」

緊張し過ぎて、3時間前からうろちょろしてたとか、口が裂けても言えない。

何で今こんな状況になっているかというと、この前電話した時に、3連休の時にでも札幌に行き、奈織と飲む約束をしてた。今日がその日。俺は前の日から札幌に入っていた。車で6時間や7時間かかるので、当日に入って飲むのはキツいと判断したからだ。

「今日は私のオススメのお店あるからそこに行こ!」
「あ、前言ってたとこね。じゃあ行きますか。」

待ち合わせ場所から、徒歩10分くらいで着いたそこは、なかなかシャレていて、いかにも女性が好みそうなところだった。さすが札幌。

「ここ結構人気なんだよ~!居酒屋なんだけど、雰囲気はBARっぽいの!」
「いいね、俺結構この雰囲気好きだわ。」

“あいつ”もこういう感じの好きだったよな。今朝あの夢を見たせいか、いつも以上にすぐ重ねてしまう。

「だいぶ飲んだねぇ~。尚弥くんも結構酔って来てるんじゃない?」
「そうだなぁ。久々にこんな飲んだかも。」
「今更だけど、敬語やめたのに、尚弥くんとか、奈織さんとか変じゃない?呼び捨てでもいい?」
「そーだな、呼び捨てでいいよ。俺さ、“ある時”から、下の名前で人に呼ばれるの拒んでたんだよね。」
「どうして?」
「…凄く大切な人がそう呼んでて、なんか大切な人から呼ばれなくなってから、他の人に呼ばれるの嫌になったというか…。やばいな。酔ってるな、俺。言ってることも意味わからないし、こんな話してもって感じだよな。」
「そんなことないよ。呼ばれなくなったってどういうこと?喧嘩でもしたの?」
「喧嘩…か。喧嘩なら可愛かったんだけどな。俺が一方的に相手を傷つけて…殺しちゃったんだ。」
「え…?」
「相手さ…、鬱だったんだよ。その時の俺は未熟で、自分でいっぱいいっぱいで、突き放しちゃったんだ。キツい言葉を投げつけた。それで…」
「もういいよ…。そんな辛いなら無理しないで。」

気づけば抱きしめられてた。熱い何かが頬を伝って。どれくらい時間が経ったかわからない。落ち着いてから、俺は何を話してるんだろうと我に返った。

「ごめん、酔い過ぎたんだわ。聞いてくれてサンキューな。」
「ううん。むしろ話してくれてありがとうね。私はいつでも聞くから!尚弥今抱え込んでるでしょ?話せる時あったら、話してね。それと…1つだけ聞いていいかな?なんで私は呼び捨てでもいいの?」
「それは、こんなこと言ったら不快にさせるかもしれないけど、奈織とその人が凄く似てるんだ。雰囲気も仕草も。だから、名前で呼ばれてもなんか落ち着くんだ。やだよな。好きだった人と重ねられても。ごめん。」
「そんなことないよ。真剣に答えてくれてありがとうね。今日は前よりも親しくなれた気がして嬉しいよ!また、一緒に飲んでくれる?」
「全然だよ。むしろありがとう。そして、また来るからむしろ一緒に飲んでください。」

その後は、その店で飲み過ぎたこともあり、2軒目にはいかなかった。酔いのせいにはしたけど、俺は奈織に話したいのかもしれない。この数年溜めてた気持ちを。俺には奈織が“あいつ”と重なってしまって仕方がないんだ。
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