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お兄様と一緒にご飯を食べ、お風呂に入るようになって2週間。お兄様はガリガリだった体に徐々に肉がついてきて、お風呂の中で寝てしまうことも減ったし、お風呂まで抱っこではなく一緒に歩いていけるようになった。まだ部屋の前にワゴンが置かれているのは続いているけど、比較的油の少なそうなものは一緒に食べるようになった。
そんなふうにお兄様のことを考えながら歩いているとお父様に見つかってしまった。
「マーク!もうあの部屋に行くのは止めなさい……それに、今日からお兄様には先生が来るんだよ。勉強の邪魔をしてはいけないから。ね?」
お父様が僕の方に手を乗せて言う。口調は優しいけど、手の力は強くて絶対に行くなと強く言われている感じがした。お父様はお兄様に酷いことをしているのに急に部屋にワゴンを運ぶようになったり、先生をつけたり……お父様が何を考えているのか、全然わからない。
その先生って、どんな人?もし、酷い人だったら……お兄様を殴るような……
「今日はお兄様は何時ものお部屋にいないから……マーク!?」
気づいたら僕は走り出していた。だってまだお兄様はとてもか弱い。酷い人にお兄様を傷つけてほしくなかった。お兄様に傷ついてほしくなかったから……。
お兄様の居場所を侍女に聞いて、走る。そこは僕の部屋に近く、同じくらいの、本当はお兄様の部屋だったであろう場所だった。走った勢いのまま木製のドアに思い切り体当たりをする。
「お兄様!」
バタン!と大きな音を立てて開いたドアの先に――
……驚いた表情をしたお兄様とメガネの男の人がいた。
―――
今、僕はお兄様からお説教を受けている。メガネの人はなんだか意外そうな表情でお兄様を見つめ、僕と見比べて、ふふ、と微笑ましげに笑う。
「マーク、心配してくれたのは嬉しいよ。でも、入る前にノックしないのはマナー違反だ」
「……ごめんなさい……」
ほんのちょっと泣きそうになりながら謝れば、お兄様は僕の頭をぽんぽんと撫でてくれて、そのまま先生を紹介してくれた。
先生の名前は、ギルナード・ロイウェスさん。23歳で、マナーの先生だそうだ。なぜ急にお父様はマナーの先生を?と聞くとお兄様は当然のように
「来週、俺の初めての舞踏会がある。王族の方々の前で失態を犯すわけには行かないからね。おそらく、王太子殿下の婚約者を決めるという目的もあるし」
という。ああ、ガリガリのお兄様を舞踏会に行かせるわけにもいかないからあんなに脂ぎったワゴンを運んできてたのか。そして教師もつけて……。
正直、お兄様がヴェル様のことを好きになるってわかってるからあまり行ってほしくない。お兄様の1番は僕であってほしいから。
「よく、分かっていらっしゃいますね。侍女たちからラインハルト様は食事も好き嫌いが激しく人も嫌うわがままだと聞いていたのですが」
どうやらワゴンを下げてもらっていたのが裏目に出たようだ。今はお兄様がガリガリだった頃よりは食べているけど、ワゴンから取るのは1品だけだ。好き嫌いが激しいと思われるのもしょうがない。今後も食べる気はないが。
「食べられる量が少ないんです…ああすみません、聞き苦しい言い訳なんて。ギルナード先生、授業をお願いします。マークはベッドに座っていて。終わったら、話そう」
その言葉を聞いた先生は改めてお兄様への視線を柔らかくして、お兄様に舞踏会でのマナーを教える。どうやら侍女が言っていたのとは完全に違うのだと理解したようだ。その様子を後ろから見ながら、ヴェル様のことを考えた。
前のこと、覚えていらっしゃるのだろうか。それとも、覚えてなくてまたお兄様にひどく当たるのだろうか。
どちらにせよ、僕がもうあの方を好きになることはないのだけど。
そんなふうにお兄様のことを考えながら歩いているとお父様に見つかってしまった。
「マーク!もうあの部屋に行くのは止めなさい……それに、今日からお兄様には先生が来るんだよ。勉強の邪魔をしてはいけないから。ね?」
お父様が僕の方に手を乗せて言う。口調は優しいけど、手の力は強くて絶対に行くなと強く言われている感じがした。お父様はお兄様に酷いことをしているのに急に部屋にワゴンを運ぶようになったり、先生をつけたり……お父様が何を考えているのか、全然わからない。
その先生って、どんな人?もし、酷い人だったら……お兄様を殴るような……
「今日はお兄様は何時ものお部屋にいないから……マーク!?」
気づいたら僕は走り出していた。だってまだお兄様はとてもか弱い。酷い人にお兄様を傷つけてほしくなかった。お兄様に傷ついてほしくなかったから……。
お兄様の居場所を侍女に聞いて、走る。そこは僕の部屋に近く、同じくらいの、本当はお兄様の部屋だったであろう場所だった。走った勢いのまま木製のドアに思い切り体当たりをする。
「お兄様!」
バタン!と大きな音を立てて開いたドアの先に――
……驚いた表情をしたお兄様とメガネの男の人がいた。
―――
今、僕はお兄様からお説教を受けている。メガネの人はなんだか意外そうな表情でお兄様を見つめ、僕と見比べて、ふふ、と微笑ましげに笑う。
「マーク、心配してくれたのは嬉しいよ。でも、入る前にノックしないのはマナー違反だ」
「……ごめんなさい……」
ほんのちょっと泣きそうになりながら謝れば、お兄様は僕の頭をぽんぽんと撫でてくれて、そのまま先生を紹介してくれた。
先生の名前は、ギルナード・ロイウェスさん。23歳で、マナーの先生だそうだ。なぜ急にお父様はマナーの先生を?と聞くとお兄様は当然のように
「来週、俺の初めての舞踏会がある。王族の方々の前で失態を犯すわけには行かないからね。おそらく、王太子殿下の婚約者を決めるという目的もあるし」
という。ああ、ガリガリのお兄様を舞踏会に行かせるわけにもいかないからあんなに脂ぎったワゴンを運んできてたのか。そして教師もつけて……。
正直、お兄様がヴェル様のことを好きになるってわかってるからあまり行ってほしくない。お兄様の1番は僕であってほしいから。
「よく、分かっていらっしゃいますね。侍女たちからラインハルト様は食事も好き嫌いが激しく人も嫌うわがままだと聞いていたのですが」
どうやらワゴンを下げてもらっていたのが裏目に出たようだ。今はお兄様がガリガリだった頃よりは食べているけど、ワゴンから取るのは1品だけだ。好き嫌いが激しいと思われるのもしょうがない。今後も食べる気はないが。
「食べられる量が少ないんです…ああすみません、聞き苦しい言い訳なんて。ギルナード先生、授業をお願いします。マークはベッドに座っていて。終わったら、話そう」
その言葉を聞いた先生は改めてお兄様への視線を柔らかくして、お兄様に舞踏会でのマナーを教える。どうやら侍女が言っていたのとは完全に違うのだと理解したようだ。その様子を後ろから見ながら、ヴェル様のことを考えた。
前のこと、覚えていらっしゃるのだろうか。それとも、覚えてなくてまたお兄様にひどく当たるのだろうか。
どちらにせよ、僕がもうあの方を好きになることはないのだけど。
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